第11話 フィアンセの 金髪碧眼 ショタ登場

 ……聞いてない。

 聞いてない聞いてない聞いてない聞いてない!

 婚約者のことなんて、ひとっ言も聞いてないってば‼



 部屋に入って来てから一言も話さず、ずーっとモジモジモジモジしている金髪碧眼のショタを、品定めするように上から下まで眺めながら。

 私は胸中で、冒頭の言葉を繰り返しつぶやいていた。



 ……まあ、これは夢の中なんだし?

 何があっても不思議じゃないんだろうけど……。


 それにしたって、婚約者はないわよ、婚約者は!

 まだこんなに幼いのに、もう婚約者がいるなんて、いくらなんでも早過ぎるわ!



 ……あ。

 でもそー言えば。

 昔の貴族や、上流階級の人達って、政略せいりゃく結婚なんかは当たり前だったんだっけ?


 ……ってことは、子供同士での婚約ってのも、特別珍しくはない……のか……。



「いやぁ~、でもないわ~~~。婚約者がショタって、そりゃないわ~~~」


 思わず口にしたとたん、金髪碧眼ショタの目が大きく見開かれ、華奢きゃしゃな体が数センチ跳ねた。

 捨てられた子犬みたいに、小刻こきざみに体を震わせ、


「レ……レッタちゃん……。ショタって、なーに? ショタって……ショタって、ボクのこと? ボクがショタだとダメなの? レッタちゃん、やっぱりボクのこと……キライ?」


 うるうるな目で、まっすぐ私を見つめてくる。



 ……う、ぐ……、ぐぬぅ……!


 ちょーっとちょっと、その目はズルいんじゃない?

 ショタに涙目で迫られちゃー、放っとくわけにも行かなくなっちゃう。



 ……でも、そーは言ってもなぁ……。



 どーしよう?

 正直言って、子供はあんまり得意じゃないのよね。


 嫌いってんじゃなくて、ホントにただ、苦手ってだけなんだけど。


 この世界(夢の中?)ではどーか知らないけど、私はもともと一人っ子で、いとこにも年下の子はいなかったし、近所にもいなかった。

 一~二歳下ならまだともかく、ここまで大きく年の離れた子と接する機会なんて、今まで一度もなかったのよ。


 そんな私だもの。幼児への接し方なんて、わかるはずないでしょ?

 今にも泣き出しそうな子のなだめ方なんて、これっぽっちも知らないんだってば!


 あ~っ、もう!

 どーしたらいーのーーーーーっ!?



 泣きべそかいてる金髪碧眼ショタを前に、私はほとほと困り果て、大きなため息をついた。

 すると、


「ご主人しゃま! 泣かないでくだしゃいご主人しゃまーーーっ!」


 どこからともなく、可愛らしい声が聞こえてきて。

 それと同時に、金髪碧眼ショタの上着のポケットから、がものすごいスピードで飛び出してきた。


「ひゃ…っ!?」


 思わず声を上げてしまったけど、そのは、しきりに『ダイジョブでしゅか?』『泣かないでくだしゃい』と呼び掛けては、ショタの周囲をくるくると飛び回っている。


 動きが速すぎて、動体視力に自信がない私には、それが何なのか、最初はさっぱりわからなかった。

 必死に目を凝らし、ようやく正体がつかめてきたんだけど――……。


「モモンガ!?……うっそ!? モモンガが人間の言葉しゃべってる!」



 本当にモモンガかどうかは知らない。

 この世界にも、モモンガがいるのかどうかわからないし、特別動物に詳しいわけでもないし。

 断言はできないんだけど……私の目には、それがモモンガそっくりに見えた。



 せわしなく飛び回っていたモモンガに似たは、急にピタッと止まってこちらに顔を向けると。


「なんでしゅと!? ボクがモモンガでしゅって!?」


 大声で言い放ち、ピューンと私の側まで飛んできて、抗議するかのように周囲をくるくるし始めた。


「だだだだっ、誰がモモンガでしゅかーーーッ!? ご主人しゃまの使ちゅかい魔であるこのボクを、ただのモモンガなんてしちゅれーなッ! ボクへのブジョクは、ご主人しゃまへのブジョクと同等でしゅよーーーッ!?」


 モモンガと思われたのが、よほど気に入らなかったのか。

 見た目モモンガソックリの物体は、生まれたての子犬のように、プルプルと体を震わせている。



(……おお……。しゃべれるだけでも驚きなのに、まさかの幼児言葉!)



 反則級の可愛いさに辛抱しんぼう堪らず、私は両手を伸ばし、小さな物体を素早く捕らえた。

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