第10話 お騒がせ メイドひとまず 退場す
「まーたアンタなのかい、ヴァーベナ!? 仕事ほっぽり出して、お嬢様のお部屋で何やってんだい!? 他の子らが、ブーブー文句言ってたよ? 余計な仕事押し付けられたってさ!」
ヴァーベナさんは、
「う……うぅ~……。酷いですよドナさ~ん。急に殴るなんて、あんまりじゃないですか~」
ドナと呼ばれた女性は、目を吊り上げたままフンと鼻を鳴らし、ヴァーベナさんの後ろ
「自分の役目ほっぽり出してる、アンタが悪いんだろ!?――ほらっ、行くよ! まだまだ仕事は残ってんだからね!」
「ええ~~~っ? でもっ、私には、フローレッタ様のお世話をするという、大切なお役目がぁ~……」
「お嬢様のお世話は夜からでいいって、ついさっき、
「うわ~~~んっ。だって、だってぇ~……」
「『だって』じゃない! お嬢様だって、アンタみたいに
しばらくの間、ドナさんに後ろ襟を引っ張られながらも、ヴァーベナさんは『私はフローレッタ様のお側に』と主張し、抵抗し続けていたのだけれど……。
結局、ドナさんの腕力には敵わなかったらしい。『フローレッタ様』を連呼しながら、何処かへと連れ去られて行った。
「な……何だったのかしら、あの人達?」
彼女らが出て行ったドアを見つめ、しばらく固まっていた私は、遠ざかって行く声が完全に聞こえなくなった後、ポツリとつぶやいた。
まあ、『役目』とか『仕事』とかって言ってたし。
二人ともメイド服っぽいの着てたんだから、この家の使用人ってことで、間違いないんだろうけど。
でも、貴族のお屋敷って、
まだ幼女とは言え、身分が上の人間の前で、使用人同士があんなに激しく言い合ったりできるなんて。
もしかして、意外とフランクな人間関係、築いてたりするのかしら? この家の人達って?
だとしたら、変に緊張しなくて済みそうよね。
あ~、よかった。堅苦しいの大の苦手だから、助かるわぁ~。
クローゼットルームから、ベッドの置いてある部屋に戻ると、私は近くにあった大きめのソファに腰を下ろした。
……うん。なかなか座り心地の良いソファだ。
クッション材が柔らか過ぎないから、長時間座っていても疲れにくそう。
木枠も、黒っぽくてツヤのあるチョコレート色。きっと、高級な木材に違いない。
脚も、いかにも〝姫系家具〟って感じの猫脚(内側にゆるくカーブしているデザイン)だ。
布地は、落ち着いたピンクベージュに、ワインレッドの繊細な花柄。
これが、どぎつい派手めのピンクや、パステルピンクだったりしたら、げんなりしてるとこだったけど。
落ち着いた感じのピンクでよかった。この程度なら、まだ許容できる範囲だ。
ソファの前に置かれてるテーブルも、チェストやデスク、ベッドのサイドテーブルなんかも、上品でクラシカルなイメージで統一されている。
ロリータファッション愛好家の人達なら、
あ。
でも、そもそもこの世界、写真なんかはあるんだっけ?
スマホやパソコンがない世界ってのは、覚えてるんだけど……。
そー言えば、自動車ってあったんだっけ? 馬車とか使ってたりしないでしょーね?
あのゲーム(【清く華麗に恋せよ乙女!】)は、学園が舞台だったから……外の世界の描写って、ほとんどなかったんじゃないかな?
デートイベントとかでも、乗り物に乗ってるシーンは、出て来なかった気がするしな……う~ん……どーだったっけ? 思い出せない……。
……でも、この世界での移動手段が、もしも馬車だったりしたら……当然、飛行機も電車もバスもないってことよね?
う、わー。不便だわー。
これが夢じゃなかったら、絶望してるところだった。
推しが父親、悪役令嬢が母親ってだけでも、充分『勘弁してよ』って状況なのに。
その上、暮らしてかなきゃいけない世界が、不便極まりないことだらけだったりしたら、もう、どこに希望を見出せばいいかわからないじゃない?
……う~ん……。
なーんかいろいろ考えてたら、めんどくさくなってきちゃったな。
さっさと目覚めて、普段通りの生活に戻りたいわ。
ウィルが父親ってことなら、この先、特に期待できるような展開も待ち受けてなさそうだし。
血が繋がってる人に恋したって、想いが受け入れてもらえるわけないし。
万が一受け入てもらえたとしても、それはそれで、問題大アリだしね。
とにかく、
恋人同士は、陽の当たる道を、堂々と手を繋いで歩けるようでなきゃ。
道ならぬ恋に身を
――なんてことを思いながら、深くうなずいていた時だった。
ドアをノックする音がした後、ついさっき退場して行ったはずの、ヴァーベナさんの声がした。
「フローレッタお嬢様。ご婚約者のエリオット様が、お見舞いにいらっしゃいました。お部屋にお通ししてもよろしいですか?」
(……は?……婚、約…………者?)
言葉の意味を理解するまで、たっぷり数十秒は掛かった。
「え……えぇええーーーーーッ!? こん――っ、婚約者ぁあああーーーーーーーッ!?」
わたしは両目を大きく見開き、部屋中どころか、廊下にまで響き渡るほどの声を上げ、ドアへと視線を走らせた。
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