第5話 夢の中? 私は幼女 肌うるる

 部屋に入って来たとたん、私ににらえられたベリンダは、かなり動揺している様子だった。

 どうしていいかわからないのだろう。ベッドから少し離れたところで、立ちすくんでいる。


 異変に気付いたウィルは、私とベリンダを交互に見つめ、怪訝けげん顔で首をかしげると。


「フローレッタ? 怖い顔をして、どうしたというんだ。お母様に、そんな目を向けちゃいけないなぁ」


 場の雰囲気をやわらげようとしているのか、ウィルはハハハと、乾いた笑い声を上げた。

 私は更に眉を吊り上げ、


「はああッ!? ジョーダンじゃないわよッ!! どーして悪名高いベリンダが、私のお母さ――っ」


 文句を言ってやるつもりで、ベリンダを指差してみたんだけど。

 自分の手が目に入ったとたん、ギョッとして言葉を切った。



 ……あれ?

 私の手、妙に小さくない?


 それになんか……めっちゃ白い……。


 黄色人種の日本人の肌色とは、明らかに違う。

 陶磁器のように、真っ白。



 ……ま、まあ、これは夢なんだし?

 私は今、〝フローレッタ〟って子になってるそーだから、肌が白くて当たり前なのかもしれないけど。


 でも、この手の小ささは……。

 まるで幼児のよう……な……。




「えぇえーーーッ!? もしかして私、幼児になっちゃってるのぉおおおーーーーーッ!?」


 驚いて、両手で自分の頬を挟む。

 荒れまくってた自分のザラザラ肌とは大違い。ツルッツルでぷにぷにした、弾力はあるけどやわやわな肌が、そこにあった。


 ムギュムギュ。

 ツンツン。

 サワサワサワ。


 感触にときめいて、自分の頬をつねったり、つついたり、撫で回したりしてみる。



(み……瑞々みずみずしいっ。これが若い子の……幼女の肌ってもんなのっ?)



 遠い昔過ぎて忘れた……ってゆーか、今更、思い出せもしないけど。

 私も小さい頃は、こんな、プニプニでムッチムチな肌、してたのかな……?



 今の自分の肌に、しばしウットリしてしまう。

 こんな触り心地の良い肌なら、いつまでもナデナデしていたいな~なーんて、思っちゃったりなんかして。



「フ……フローレッタ? どうしたんだい? 急に大声を上げたと思ったら、今度はぼうっとして黙り込んで……。どこか、痛むところでもあるのかい?」


 恐る恐るといった感じで、ウィルが私の顔をのぞき込んで来た。

 ハッとして、慌てて首を横に振る。


「う、うううんっ。何でもないの、ウィ――っ、……お父様。ちょっと……え……っと、まだ、夢の中をさまよってるような気がして……。ウフフッ。ねぼけの延長~……みたいなものかしらっ?」


 適当な言葉でごまかし、私はニコリと微笑んだ。

 ウィルは、まだいぶかしそうにしていたけど、それ以上訊ねて来ることはなかった。

 そっと私の頭に手を置き、数回撫でると、優しく微笑み返してくれる。


「そうか。では、完全に目を覚ましておくれ。いつまでも夢の中だと思われていては、お父様は寂しいよ。元気に跳ね回るフローレッタが、早く見たいな。もう、心配することは何ひとつないのだと、心から思わせてほしいんだ」


「ウィ――……お父様」


 頭を撫でる、大きくて温かい手。

 推しの手の感触に、動揺と感動が、一度に押し寄せて来る。



 くぅ~~~っ、これが父親の手だなんてっ。

 夢の中でくらい、推しと恋人同士にしてくれてもいーじゃないっ、神様のバカッ!


 ……まあ、夢を見せてるのは、神様って存在じゃないだろーとは思うけど。


 でもっ、〝誰が見せてるか問題〟は、この際置いとくことにしても。

 この仕打ちは、あまりにもヒド過ぎるわよッ!!


 推しが父親じゃ……父親じゃ結婚できないじゃないッ!!

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