第6話 認めない 夢であろうと 断固拒否

 夢であろうとも、推しが父親なんてあんまりだ。

 しかも、悪役令嬢が母だなんて……!


 ショックから立ち直れない私は、再びベリンダに顔を向け、思いっきり睨んでやった。

 蒼い顔で突っ立っていた彼女は、ビクッと肩を揺らし、おびえた目で私を見返す。


「フローレッタ?……こら。そんな目で見てはいけない。お母様は、君が倒れてからというもの、ずっと心配してくれていたんだ。夜も、ろくに眠れはしなかったんだからね。だから、ほら……『心配掛けてごめんなさい』って言っておあげ?」


 私の頭に手を置いたまま、ウィルが優しく語り掛ける。



 ――は?

 ベリンダが心配? 私のことを?

 しかも、〝夜もろくに眠れなかった〟って?



 根性悪なベリンダしか知らない私には、とうてい信じられないことだった。

 でも、ウィルに悪い子だと思われたくなかったから、嫌々ながら謝る。


 ……目をそらしたまま。

 耳を澄ませなければ聞こえないほどの、小さな声で……だったけど。



「フローレッタ。謝る時は、お母様の目を見なさ――」


「いいのよ、ウィル」


 ウィルのセリフをさえぎるように、ベリンダが割って入って来た。

 彼が『だが――』と言い掛けると、今度は、首を横に振ることで制す。

 ウィルはまだ何か言いたげだったけど、ハァ、と小さくため息をつき、言葉をのみ込んだ。



 そして訪れる、しばしの沈黙。



 シンとした中、ベリンダの視線をひしひしと感じたけど、私はがんとして顔をそむけ続けた。


 だって、私の知るベリンダは、最低最悪の悪役令嬢。

 私のお気に入りのヒロインを、いじめていじめていじめ抜く、典型的な悪女なんだもの。


 今は改心した……のかどうか知らないけど。

 ゲームで、嫌と言うほど悪印象を植え付けられたのよ? そう簡単に、気持ちを切り替えられるはずないじゃない!



 ツンとそっぽを向き、無言をつらぬく私を前に、ウィルは、ほとほと困り果てている様子だった。


 彼には申し訳なく思ったけど、こればっかりは仕方ない。

 心で手を合わせつつ、私はベリンダを無視し続けた。



「ウィル。フローレッタも目を覚ましたことだし、もう心配いらないわ。夕食の時間まで、そっとしておいてあげましょう」


 数分の膠着こうちゃく状態の後。

 ベリンダが放った言葉にうながされ、ウィルは私に『夕食まで、ゆっくりしていなさい』と声を掛けると、彼女と共に部屋を出て行った。




 ドアが閉まり、数秒ほどしてから、私はようやく顔を元の位置に戻し、ホッと息をついた。


 ムキになって、これでもかってほど顔をそむけてたせいだろうか。首の筋を違えてしまったようだ。

 ピキッと痛みが走った首を片手で押さえると、私は『イテテ』と顔をしかめた。



(むぅ~……。夢でウィルに会えて、サイッコーに幸せだったのに。ベリンダのせいで台無しだわ! もうっ、どーしてくれるのよ?)



 ……なんて、心で文句を言ってみても、状況は変わらない。

 まずは、夢の中の自分――フローレッタがどんな容姿をしているのか、確かめてみることにしよう。


 そう思った私は、ぐるりと部屋の中を見回した。

 幼女一人の部屋にしては、無駄にだだっ広くて、過剰かじょうなほどに豪華だ。


 私は『そっか。ウィルは貴族様だったもんね。豪華で当たり前か』などと思いながら、ベッド横の靴に足を差し入れ、大きな鏡の前に向かった。

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