第2話 目覚めると 見知らぬ天井 ここはどこ?

 次に目を覚ました時。

 最初に私の目に飛び込んで来たのは、真っ白な天井だった。



 天井……。

 あれ、天井?


 いつも見てる天井とは、ちょっと……いや、かなり違う気がするけど。



 記憶をたぐり寄せようと眉をひそめたところで、はたと思い出す。

 そうだ。火災に巻き込まれて、気を失ったんだっけ?



(じゃあ、私、助かったんだ?……とすると、ここは病院?)



 鈍く痛む頭に手を置き、横に視線を流す。



(えっ?……誰?)



 ベッドの片側に、誰かが突っ伏して眠っていた。

 重ねた両腕に頭を乗せているのと、前髪が顔を隠すように覆っているのとで、得られる情報は少なかったけど……パッと見の印象では、若い男性のようだった。

 しかも、その男性の髪色は金。つやのある絹糸のような、美しい金髪だ。



(ふわっふわでサラサラな金髪の男の人……なんて、知り合いにいたかな? ここまで派手な髪の人が身近にいたら、忘れるはずないと思うんだけど……)



 ズキズキした頭でそんなことを考えながら、しばらくの間、陽の光が当たってキラキラと輝く、黄金色の髪に見惚れていた。



「……ん……」


 ふいに。

 金髪の男性が小さな声をもらし、突っ伏していた両腕から、わずかに顔を浮かせた。

 それからハッとしたように上体を起こすと、


「いけない、眠ってしまった! フローレッ――」


 くるりとこちらに顔を向け、目を見開いた状態で固まる。


 ……何だか、じーっと見つめられていて、落ち着かない。

 私は顔を熱くし、慌てて明後日の方向に目をそらした。



 だって、日本人だと思ってたのに。

 髪を金色に染めた、日本人だと思ってたのに。

 怖いくらい整った顔立ちの、外国の人だったんだもの。


 どこの国の人かまではわからない。

 でも、ハッと息をのむほどの、超、超、ちょーーーーーう美青年だった。


 その上、私が気を失う直前までやっていた乙女ゲーの最推し、ウィルフレッドにそっくりときてる。(……いや。そっくりどころじゃない。〝そのまんま〟と言ってもいいくらいだった)


 その美青年は、数秒間私を凝視した後、


「フローレッタ!……ああ、よかった! このまま目を覚まさなかったら、どうしようかと思ったよ!」


 ホッとしたような笑みを浮かべ、椅子から立ち上がった。

 そして、横たわっている私の頭を両手で包み込み、ひたいにそっと唇を押し当てた。


「ヒ――ッ!」


 見ず知らずの外国人からの、唐突過ぎるスキンシップ(?)に、声が引きつる。

 額とは言え、キスされたことなど今まで一度もなかった私は、これでもかと言うほど両目を見開き、体をこわばらせた。


 相手が、超がいくつ付くかわからないほどの美青年だったから、まだよかったものの……。(いや、よくはない。決してよくはないんだけど!)

 これが普通のオッサンだったら、そく、セクハラで訴えているところだ。



 ――え? 容姿で差別するのはよくないって?


 わ、わかってる! わかってるわよ!

 差別はいけないことだって、わかっちゃいるけど!


 でも、男性だってそーでしょう?

 冴えないオバサンにキスされるより、若くて綺麗なオネーサンやら、女子高生やらにキスされる方が、断然いーでしょう? 嬉しいでしょう? テンション爆上がりしちゃうでしょう?



 ……うん、まあ……。


 つまりは、そーゆーことですよ。

 オホホホホ……。



 ――って、いや!

 だからって、許したわけじゃないんだってば!!


 唇以外ならいいだろうなんて軽いノリ、私は持ち合わせてないんですからね!

 合コンの〝王様ゲーム〟とやらで指示されたとしても、断固拒否してやるって、日頃から思ってるくらいよ!(……まあ、合コンなんて一度も行ったことないから、王様ゲームなんてやったこともないんだけど)


 ……とっ、とにかく!


 額だろうがどこだろうが、乙女のファーストキスを勝手に奪うなんて、セクハラ以外のなにものでもないんだからッ!!

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