第1話 嘘でしょう? 寝てる間に 大ピンチ
ん? 妙にケムいな?
どこかで
まだ、そんな季節じゃないはずだけど……。
焼きイモが恋しくなった気の早い人が、焼いてた……り……。
……んん?
でも、ちょっと待って?
ここって一応、都会に近い方の街中よね? 住宅街だったよね?
今時、公園や河原で花火するのだって、許可取りが必要だったり、禁止だったりってとこが多いのに。
街中で焚火(か何か知らないけど、とにかく、煙が大量に出るほど物を燃やす)なんて、何考えてんの?
ほーんと、いー迷惑だわ。
いったいどこのどいつ……が……。
「ゲェッホッ、グフ――ッ!! け、ケムい暑いッ!!……ってゆーか
異常なほどの煙たさと、初夏の気温にしては高過ぎる体感温度にギョッとして、私は飛び起きた。
「へっ?……え、何? 白いのがジャマして何も見えな――、ガフッ! ゴホゴホッ、ゲホッ!」
声を発した
苦しい。
(な……、何なのよこれっ? マジで煙だらけじゃない! ここって、私の部屋のはず……よね?)
自分の部屋だという確信が持てなくて、視線を下に移す。
……何も見えない。雲海みたいに、煙が視界をさえぎっていた。
慌てて、目の前の煙を両手で払う。
うっすらと見えて来たものは……ブルーの携帯ゲーム機だった。
そっか、思い出した!
昨夜は、ローテーブル前のクッションに座り、友達から借りたままだった乙女ゲームをしながら、缶チューハイをちびちび飲んでいたのだ。
かなり前に
ヒロインは、最高に可愛くって優しくってまっすぐな、一般家庭で育った女の子。
親の事業が成功して、あれよあれよといううちに、お金持ちになってしまうの。
……で、せっかくだからと、親が昔憧れてたってゆー、全寮制の学校に放り込まれちゃうんだけど……。
親はそれで満足でも、ヒロインにとっては大迷惑。
だってそーでしょう?
それまで仲の良かった子達と、ムリヤリ離されて。
急に、よく知りもしない全寮制の学校に、閉じ込められちゃうんだもの。
おまけに周りにいるのは、良家のお坊ちゃんやらお嬢ちゃん。純粋な貴族階級の子達ばかり。
すっかり
たぶん、明るくて活発で、ちょっとやそっとのことでは
私は、大人しめのヒロインの方が好き。
たくまし過ぎる子より、見ててハラハラするくらいの子の方が、応援しがいがあるもの!(ま、ここら辺は好みに寄るだろうから、ゴリ押しする気はないけど)
攻略対象キャラの中での最推しは、ウィルフレッド。
爽やかで優しくて、ちょこっと天然なとこもある、金髪
……って……え?
乙女ゲーなんだから、攻略対象が美少年ってのは、当たり前だろう――って?
うん。
まあ、そりゃそっか。
え~っと……だからね。
美少年ってこと以外で、私が何より魅力を感じたのは……彼の、〝春の陽だまりみたいな笑顔〟だった。
あの笑顔を見ると、
好感度を上げてくと、どんどん情熱的で積極的になってくところも、ギャップ萌えとしてはたまんなかったわー。
……なのに。
ベリンダってゆー悪役令嬢が、何かってーとヒロインに突っ掛かって来て、嫌味を言ったり、意地悪したりするのよね。(……まあ、悪役なんだから、意地悪で当たり前なんだけどさ)
プレイ中は、ベリンダのやることなすことに、腹が立って仕方なかった。
ゲームの画面に向かって、ブツブツ文句を言ったりしてね。
彼女に対する不満が
……で。
缶チューハイ四本くらいを空にした頃、眠気が襲って来たんだっけ?
そしていつの間にか、眠ってしまった……と。
「ゲホッ! ゴホゴホッ、ガフッ!……く――、苦、し……。ゲホガホッ」
……ヤバい。
いよいよヤバい!
のんきに昨夜のことを思い出してる場合じゃなかった!
とにかく、ここから出なきゃ。
どうしてこうなったかなんて、考えるのは後回しだ。
手探りでテーブル上のゲームソフトを見つけ出し、携帯ゲーム機と共に胸に
一畳半ほどの台所は付いているものの、たった一間しかない部屋。すぐ外に出られるはず。
自分を
何度もつまずき、色々な物に体のあちこちをぶつけたけど、痛みに顔を
外に出るまで、一分と掛からないだろう。
そう思っていたのに、甘かった。
煙を吸い込んだせいで、途中何度も立ち止まっては、激しく咳込んでしまったし。
視界が利かない中、恐る恐る進む出口までの距離は、信じられないほど長く感じられた。
「――やった! ドア!」
目の前に、こげ茶色に塗られた木製のドアが現れた。
六畳一間。木造二階建て。築五十年以上の激安アパートだから、ドアも木製。
オシャレで広々としたマンションに住めるような、立派な身分じゃないってことは、このことからもおわかりいただけるだろう。
煙から逃れるため、ドアノブへと手を伸ばす。
触れたとたん、
「ひゃッ?」
自分でも引いてしまうほどの、
……熱い。
ドアノブが熱い!
熱過ぎて触れない!
……どーゆーこと?
いつもはひんやりとしているドアノブが、こんなにも熱いなんて……。
そこで私は、初めから気付いていたものの、考えないようにしていた可能性を、嫌々導き出す。
……認めたくないけど、もう、認めなくちゃいけないんだろう。
これは火事だ。
右か左か。はたまた一階かは不明だけど。
きっと、どこかの部屋から出火して、アパート中に燃え広がっているのだ。
寝落ちしている間に、私は逃げ遅れてしまった……というわけか。
一刻も早く逃げ出さなければ。
焼け死ぬなんて、まっぴらごめんだ。
それはわかっているのに。
ドアノブが熱くて、握るどころか、触れることすらできない。
ここまで熱いということは、外はもう、火の海なのかもしれなかった。
……どうしよう。
このドアからは逃げられない。
ドアが無理なら……。
「窓! まだ窓が――!」
希望の光を見出した気分で、私は満面の笑みで振り返った。
――瞬間。
激しく燃え盛る朱色の炎が、目に入って来たからだ。
モタモタしているうちに、燃え広がったんだろう。
さっきまで白かった煙も、すっかり濃い灰色へと変わり、部屋中を満たし始めていた。
「嘘……でしょ……」
ゲーム機とゲームソフトを胸に抱いたまま、
やがて、頭がズキズキし始め、吐き気までして来て……。
気が遠くなる
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