第22話 「イグドールズ」
「俺ァ基本的に相手が強ければ強いほど粘着しがいがあって良いと思ってるけどよ、一つ心配がある。その……イグが元の蛇に戻ったらよ、どうなるんだ?他の神が攻めてくるまでずっと眠ってるとかだったらさすがに嫌だぞ?」
僕もイグに対して問いかけてみた。
「どうなんだい、イグ??」
『……』
反応がない。これはちょっとかなり怒ってるみたいだなあ……。
ここでライラからバダガリに質問が飛んだ。
「ねえバダガリ。あんたもしヌメ師匠の中身がイグに変わってもストーカー続けるつもりなの?」
それを聞いたバダガリ君は白い歯を見せ、不敵に「ハッ」と笑った。
「あったりめーだろ?それが俺の人生であり生涯の趣味だ!!」
――なんてはた迷惑な趣味だ!……僕は心のなかでそう叫んだが今更この男に何を言っても無駄な感じがした。
続けてライラは付け加えた。
「ねえ、それって師匠だから許されてたけどイグに同じことしたら殺されるかもよ?」
「フッ、俺は死なんぞ恐れねえ!いつでもかかってこいや!」
駄目だこの男……。
「っていうかイグは自分で人間に危害を加えるつもりはないって言ってたから、多分攻撃はしてこないだろうけどさ――」
「んん?なんだ?」
バダガリは首をかしげる。そして次のライラの一言でバダガリは黙り込むのだった。
「お前がずっと付いてきたらイグはどっか逃げていくんじゃない?それもお前が追ってこられないような遠方まで!私がイグならまずそうするよ」
バダガリはしばらく真顔になってぼう然としたのち、やがて頭を抱え込んだ。
「そ、それは……いや、その可能性は、高い……のか……?」
ブツブツと険しい顔をしながら頭の中で色々想像を膨らませているようだ。
するとその中でまたイグが声をあげた。
『その通りだ。我が人に戦いの指南をするなどありえぬ!また、人間と共存することもない。貴様が追ってこようと即場所を移すだけだ』
やはりライラの言う通りバダガリ君はイグにすぐ振られてしまう運命にあるようだ。まあしょうがないよね。僕だって最初は結構なストレスだったし。
バダガリ君は慌てたように僕の方を向き直った。
「お、おいっ!ヌメタロー、やっぱお前そのまま蛇でいとけよ!なっ!!」
僕は思わず笑った。
「はははは。やっぱり君は面白いな」
そんな感想を漏らす僕を見てバダガリ君は付け加えた。
「……まあ後よ、お前と行動してると、なんか面白えし……退屈しねえし、まあ悪くねえっつうか……」
僕はその彼らしからぬ歯切れの悪い返答に気色悪さを感じたが、まあ彼なりに感謝しているという事なのかな……。とか考えていると、アルが無邪気に横槍を入れた。
「バダガリさんもヌメタローさんが好きなんですねー!」
「お、おまっ!?アル!――好きとかそういうんじゃねえんだ!やめろ気持ち悪い」
いやー、僕もバダガリ君に好かれてもちょっと……。
――ふと僕もここで自分はどうしたいのだろうと考えてみた。そしたら一瞬で答えが出た!
うん。まあ問題は山積みなんだけど、……やっぱり僕も今のメンバーと一緒に居たいなーというのが正直なところだった。皆にもそれを打ち明けよう。
「僕も皆と一緒に行動したい。なんだかんだでここにいる皆が好きだからね」
皆は笑顔で僕の言葉を聞いていた。バダガリ君はちょっと照れくさそうにしてたけど……。
そうやって皆が各々の意見を出し合う中、ナナヨさんが今後について提案してくれた。
「私はネールさんとは違い転生魔法は使えません。転生魔法を使っていた当時のイグドール教の団員達も今はいなくなってしまいました。なので今のところタローはしばらくイグの姿のままで解決策を探していく事になりそうですね。イグには申し訳ないですが……」
僕|(イグ)に頭を下げるナナヨさんだったが、この辺の思慮深さは前世の性格のままだなーと感じて僕は安心するのだった。
するとイグは意外な反応を見せた。
『フン。元の体に戻る術がないのならばあがいても仕方あるまい。地道にやり方を探してくれ。ただ他の神がこの地に侵入してきた場合我はまたこの男の体を動かすぞ。良いな?』
ナナヨさんはイグの返答に安堵の表情を浮かべた。
「ありがとうイグ!しばらく我慢して頂くことになりそうですがよろしくお願いします」
あれ?ありがたい話なんだけどなんか君、ナナヨさんには甘くない?
――さて、これからどうしようか?という話になったのだが、ここで僕は一つ提案した。
「ねえ、情報集めも兼ねて皆で冒険者登録しない?」
「え!?」
皆の視線が集中する。僕は説明を続けた。
「元々僕とアルは『ホーリー』っていう冒険者パーティーにいたんだけど。ギルドに登録しておくと色んな情報が手に入るし色んな人と交流もできて良いと思うんだ。もちろん依頼をこなせばお金ももらえるしね、どうかな?」
真っ先に手を挙げたのはアルティーナだった。
「私はもちろん賛成です!魔術師としても成長出来ますし、何よりヌメタローさんと皆さんが好きですから」
なんとも真っ直ぐで影のない模範的な意見だ。アル、君の良いところだと思う。
続いてライラからも忌憚ない答えが返ってきた。
「私もそれ良いと思う。修道院の院長にも外の世界を見てきなさいって言われたしね。師匠これからも色々教えてね!」
ライラは笑顔で拳を構えてそう宣言している。うん!君は筋が良いからきっと成長するよ。
「オメーにしちゃあいい案じゃねーかヌメタロー!」
はいはいバダガリ君も賛成。まあ君は予想通りだ。
……あとはナナヨさんだけど、彼女の場合新生イグドール教団の教主という責任ある立場にいる。それが急に冒険者になるなんて――。
「私ももちろん同行します!」
「ええっ!?早っ。良いの?そんな即答して……」
ナナヨさんはちょっと興奮しながら、やる気があります!といった素振りを見せている。
僕はナナヨさんのその仕草に可愛らしさと愛おしさを感じて心がふんわりと温まっていく。……やはりあなたはとても素敵だ。
「私が新生イグドールを立ち上げたのもイグのイメージアップを図ったのも、全て邪神と言われていたタローが迫害を受けないで済むようにとやった事です。今、その問題が解決した訳ですから、私はもちろんあなたについて行くに決まってるじゃないですか!」
う、嬉しい。そこまで僕のために……。
僕は感激のあまり涙を流し大口を開け、ナナヨさんを飲み込んだ!!
ペロペロ――。
「あっ、タロー!?こらっ、いきなりっ……あっ」
ペロペロペロペロペロペロペロペロ――!!
「……はあんっ、んっ、ああっ!ああ――――――!!」
僕は、全力で、ペロペロした。(愛)
――それから数週間後、僕らはロンロンの隣にあるマルゴーという町の冒険者ギルドを訪れていた。
「じゃあ代表者はナナヨさんで。僕はこんな風に蛇だし手続きとかするとき何かと都合が悪いからね」
「私で良いのですかタロー?皆さんも……」
「いいんじゃねえか?ナナヨで」
「はい!ナナヨさんなら頭もいいし頼れますし適任ですー!」
「私もリーダーならナナヨさんが良いと思う。商売も出来て人脈も広いし……。是非お願い!」
……というワケで満場一致でリーダーはナナヨさんに決まった。
ふう、僕じゃこういうの上手く出来ないしね。ナナヨさんお願いしまーす!
そうしているとギルド内の誰かが僕を指差して叫んだ。
「おい、あれヌメタローじゃねえか!?」
「え、ヌメタロー!?人に化けた獣人達から隣町のロンロンを守ったっていう、あの……!?すげえホントに蛇だ……。初めて見たぜ!」
「サイン下さい!」
ざわざわ……。
そう、僕は以前と違い一部の人達からある種英雄扱いを受けている。
なんかファンまで出来たようで、たまーにサインを書いたりもする。ふふ、まんざらでもない気分だね。
まあこれもナナヨさんが僕の良い噂を流布してくれたからだ。安心して人前に出れるようになって僕は非常に助かっている。ありがとう!
……一方そんな僕を恨めしげに見つめる人物が二人、サラとバルガスだ。二人の顔は明らかに疲れ果てていた。
シュルルル。ちょっと話でもしようと近づく。
「やあ、久しぶりだね!サラ、バルガス。『ホーリー』Sランクおめでとう!」
僕はいつぞやの山の中で会って以来、久しぶりにあった二人に笑顔で軽く挨拶をした。別に嫌味を言いにとかそういう訳ではないよ?僕は性格が良いからね!
サラは疲れきった表情のまま僕を振り向き、独り言のようにつぶやいた。
「Sランクになったのもほぼ全てアメリアのおかげだ。私とバルガスはほとんど彼女のサポートしかしていない……というか彼女についていくので精一杯だ……」
アメリアかー。懐かしいな、僕の頭の中で気絶した彼女の顔が蘇った。あと放尿……ゲフンゲフン!
死んだような目をしたバルガスも付け加える。
「本来ならSランクパーティーのメンバーなら周囲から羨望の眼差しで見られるもんだが、……今じゃアメリアの金魚のフンとまでいわれる始末だぜ……ハァー……」
なんかちょっと気の毒になってきた。でもまあそれが君達の選択だししょうがないよね!
「じゃ、頑張ってね」
そう言い残し僕はナナヨさん達の方へ返っていった。
そしてギルドにアメリアが入ってきた。
「ちょっと何呑気にしてますの?次はドラゴンの巣に宝玉を取りに行きますわよ!急ぎなさい!!」
「……へーい……」
ハツラツとしたアメリアと対照的にかったるそうに後をついていくサラとバルガスだった。
その姿を見つめた後、僕は振り返り皆をまとめるように言った。
「僕達も登録を済ませて依頼を受けに行こう!」
「はい!」
――というわけで冒険者パーティー『イグドールズ』は結成された。安易な名前だけど分かりやすいし僕がいても不自然に思われないしいい感じかな?
それからしばらくして、僕にとって一つ大きな成長があった。
なんと男を「のみこむ」という課題を克服することができたのだ!皆が成長する中で僕だけ何もないというのはいかがなものかと思って頑張ったのだ。
アルやライラ、そしてナナヨさんが見守る中、バダガリ君をのみこみペロペロするという苦行を行い、最終的にバダガリ君やその他色んな男性をのみこむことが出来るようになった!嫌なのは変わらないが慣れって怖いね……ふうっ。
あ、一応補足すると「のみこむ」の後、アルやライラみたいに極端に好かれることもなかったので僕は安心した。うん、非常に安心した!
――数ヶ月後、とある依頼の途中で戦闘が終わったときのこと。僕は飲み込んだバダガリ君を吐き出した。
ズロォ……。
バダガリ君はまず大声を上げた。
「うおおおおおお!やっぱやべえなこの『のみこむ』!めちゃめちゃ回復してるぜ。すげえぞヌメタロー!!ふははははは」
「のみこむ」の素晴らしさに感動し絶叫するバダガリ君。……まあ喜んでもらえて良かったよ。
僕はレモンを丸かじりしたような苦い表情でそう言った。
「ヌメタローさんが男性も飲み込めるようになってますます『イグドールズ』が強くなりましたね!」
アルが嬉しそうに顔を覗いてくる。
「攻守のバランスも良いし、チームの底力も上がってるし。私達もすぐにSランクになるんじゃないかな?」
ライラはそのように分析している。そう実際僕らは依頼を達成させまくり一年も経たないままAランクの冒険者パーティーになっていた。
ナナヨさんを見ると、やはりいつもと同じくやさしく微笑んでいた。ああ、好きだー。
僕達は皆希望に満ち溢れた顔をして、ここからまた一歩ずつ成長していく。
そして僕は――今日も人を「のみこむ」。
最強の大蛇に転生した僕は今日も人をのみこむ 池田大陸 @hand_man
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