第15話 それぞれの事情
「え……ネールさんまで誰かに憑依されちゃったの?邪神イグだけじゃなくて??」
僕は聞き返した。
所長も悩まし気な顔で答えた。
「んー、そうなんですよね~。なので残念ながら現在の教主であるネールさんにもあなたがイグに転生した経緯は分からないようです」
「はっ、結局コイツが誕生した理由は分かんねーままかよ。はー、つまんねー……」
溜め息をつくバダガリ君だった。
「ん?君も残念がってくれるとは意外だねえ」
バダガリは渋い顔のまま振り向いた。
「俺も一応お前がどうやって今みたいになったか興味はあったからよ……、もちろんオメーもそうだろ?本人だしよ」
まあ確かに自分の事だし何があったのか僕も知りたかったけどね。
「でも生まれた理由もそうだけど、それ以前の人間時代の師匠の事の方が気になるかなー私は」
ライラは僕の首元にもたれ掛かったまま顔を見上げて、そう言ってきた。
「私ももちろん気になります!やっぱりネールさんに話を聞きたいですー!!」
アルティーナも同じように後に続いた。
ここでちょっと考えてみる。
今のネールさんの中の人が人間の時の僕を知ってるってことは、多分その人は僕の知り合いだったか、友達か、恋人か、もしかして夫婦だったなんてこともありえるワケだ……。ふふ、僕も早くネールさんに会いたくなってきたぞー!
ただ一つ、コレを聞いておかねば!と思い直した。
「あの、所長」
「ん、何でしょう?」
「僕の体にイグの一部が残ってるって話は本当なんですか?」
それを聞いた所長の目が鋭くなった。
「ヌメタローさん、先ほどの魔法分析によると間違いなくイグの魂はあなたの体内に残っています。ヌメタローさんは今まで体が乗っ取られるような感覚を味わった事はないですか?」
僕はチラッとバダガリ君を見てすぐ向き直る。
「似たような事をこのバダガリ君にも言われたけど、そういう乗っ取られた――みたいな事は一切無いねー。意識も常に僕のものだったし」
所長は斜め上を見上げて答えた。
「ふーむ、そうですか。まあでもいつイグがあなたを乗っ取り返すか分かりません!排除してもらえるなら早い方がいいですな~」
「イグを排除出来る聖魔法。準備が整うのは5日後だってさ、所長」
ライラがそう補足する。
そう、それが終われば僕の心配事は全てなくなるのだ。やっほう!
――といった感じで、ここへ来た目的を果たした僕らは帰ることにした。
帰路の途中の並び方はトッスへ来た時と違い、先頭にアルとライラ、その後ろに僕とバダガリ君という順番だ。
前の女子二人もバダガリ君と少し打ち解けたようで僕は安心した。
アルとライラはお互い恋人のような手のつなぎ方をして歩いており、もちろんその様子はも 僕の性的興奮を呼び起こす原因になるのだった。フシューッ。
「おい、なんでお前興奮してんだよ?」
バダガリ君は相変わらず目ざとかった。
「いやー、あの二人見ていると僕は何かおかしくなるのさ。思わず飲み込みたくなるっていうかね!」
「いやそうはなんねーだろ!?ってかあの二人はなんだ?女同士で付き合ってんのか?」
「彼女たちは同性とかそういう些細な型にはまらず自分たちの愛を見つけたんだよ!美しいじゃないか。だから僕もあの二人を見ているとすごく嬉しいと言うかほっこりすると言うか……とにかく尊く美しいと感じるんだ。愛だよねえ」
そのように持論を展開した僕を不敵な笑みで見つめながらバダガリはこう言った。
「じゃああれが男同士でもそう思えんのか?」
「……」
――僕は真顔になった。
そんな僕の顔を見て大笑いするバダガリ。
「ぎゃははははは!やっぱ面白いなお前!そして間違いなくエロいオスだ!!ぶはははは」
くうーー、失礼な。でも事実だから言い返せない……。
などと言っている間にネイパリル修道院が見えてきた。
「おっと、俺はここで退散するぜ」
バダガリ君は以前の約束を律儀に守っている。何となくノリで着いてきそうに思えたけど。へー。
ライラもその事に言及してきた。
「アンタ意外とそういうとこ真面目だよね?」
「あ?当たりめーだろ。俺ァ昔っから約束事を破るのも破られるのも大嫌いでな!」
「アンタってどこ出身?この辺じゃないでしょ?」
バダガリはちょっと説明しにくそうに斜め上を見上げてから話はじめる。
「俺はこの世界の人間じゃねー。別の世界から転移して来たんだ!」
「ええー!?」
当然ながら皆は驚いた。
「なんかこの世界は前の世界と明らかに違うんだ。場所が違うとかじゃねえ。次元そのものが違うんだ!」
君って異世界人だったのか……。僕は驚くと同時にちょっとバダガリ君に親近感が湧いたので質問してみる。
「ねえバダガリ君。キミの場合って僕と違って魂と肉体が分離せずに本人のままここに飛ばされたってこと?」
「おう!もちろんだ。きっと神は俺と言う存在に手を加えるのは惜しいと思ったんだろう!!ぶはははは」
ここで珍しくアルティーナがバダガリに質問した。
「バダガリさんはなんでそんなに自信があるんですか?」
「あ?馬鹿にしてんのかお前アルティーナ!?」
「い、いえ。そう言うわけじゃないんですけど……心配事とか何もなさそうで羨ましいです」
「……」
……悪意はないんだろう。
なんとも言いづらいような表情を浮かべるバダガリを見てライラがハッとするような事を口にする。
「もしかしたら師匠もどっか別の世界から来たのかも知れないよね?」
あー確かに。
「まあでも、どの世界でもどんな性別でも異性物同士でも絆や愛というものは成立するんだなぁ……。ここにいる皆のようにね」
僕が遠い目をして感慨にふけっていると笑顔のバダガリ君に後頭部をパーンと叩かれた。
「何良い事言ったような顔してんだ!俺ァ帰るぞ。家に」
ぶっきらぼうにそう言い放ったバダガリは背を向け、そのまま手を振って山の中へ消えていった。
僕等は少し物寂しさを感じながらその後ろ姿を見送る。
「あいつも結構師匠のこと好きなんじゃないの?」
と、ライラ。僕は「かもね」と笑った。
それから僕は横に並んだアルとライラの顔の間に頭を入れ、二人の肩に後ろから二又の舌を回して引き寄せた。
「じゃ、帰ろうか」
「うん!」
「はい!」
……その日の夜は僕は二人の邪魔にならないように修道院の外で寝た。
僕の体は鱗で覆われており目を閉じる事ができない。なので寝ている時は目を開けたまま気を失っているかのような間の抜けた顔つきになる。
――不思議な夢を見た。
誰かが寝ていて僕が側でそれを見ているというものだった。
――てあげて下さい――。
またあの言葉だ。夢の中まで出てくるなんてね……。
それからまた意識が飛んで深い眠りに入った時、それは起きた!
『――様!貴様!いつまでこの体にいるつもりだ!?』
頭の中で誰かの声が聞こえた。それが実際の呼び声なのか頭の中で再生された声なのかは分からないままだったが、僕はまだ寝ぼけていたので適当に返事をした。
「うーん、まだ眠いよ……」
『だまれ盗人が!体を操れるようになるまで力を溜め込もうと思っていたが……そうも言っていられないようだ……。今から奴らを潰しに行く!!』
……何か必死になって僕に訴えかけるような叫びのようだったが、とにかく僕は眠かった。
「……えーっと、今日はもう眠いから明日にしようよー」
などと呑気な返答をしてしまう。
『貴様の意思など知るものか!力を開放してやるッ!』
――ググッ!!ズオォォォォオオ!!
今、僕は大きくなっている……ような気がする――。大きくなる!?……ええっ!?
この辺から僕の意識は覚醒してきて、ハッキリと周りの景色を意識できるようになった。
すると僕は――。
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