第16話 イグの反攻

 

 なんと僕は本当に巨大化していた!


 その鎌首の高さは修道院の屋根の倍ぐらいまであった。


 僕は自分の体の大きさをある程度変えられるのは自覚していたが、せいぜい「のみこむ」時に顔をぷくっと膨らませる程度だったのに……。


「こ、これは!」


 そこから僕は僕の意志とは無関係にどこかの方向を向き、口にエネルギーを集中させた。え!?

 よくよくその方角を見てみると――、夕焼けを受けて光と影を作っている背の高い建物が小さく点々と並んでいるのが確認できた。……つまり町があるってことだ!

 あーっ!これはマズイ!!



 僕は今の声の主……つまり『イグ』があの町(おそらく新生イグドールの活動拠点)を破壊しようとしている――、と感覚的に理解した。


 ググッ……!


 そうはさせまいと僕は頑張って首の向きを町の方からからここら辺に広がる草原へと変えた!


『ぬうううう……貴様ッ邪魔をするな!!』


「ぐぎぎぎぎぎ!……そうはさせないぞ!!」


 僕は懸命に首をひねる!よし、まだ僕のほうが身体の支配力は上回っている!


『くっそおおおお』


 イグが根負けしたらしく、僕は口から光の玉のようなものを吐き出す!


 そしてその光の玉が着弾した地点で大爆発が起こり、一瞬にして草原に巨大なクレーターが出来上がってしまった!!

 あ、あんなのが町に落とされたらたまったもんじゃない!……フゥー、危なかったー。


『お、おのれー!せっかくのチャンスが……』


「……いやー、君が邪神イグだね?やめてくれないかなこういう恐ろしい事」


『止めるのは貴様だ!言っておくぞ。例えイグドールの連中が聖魔法を使ってこようとも我が魂を完全に滅することは出来ぬ!なぜなら我はイグであり神だからだ!!』


 それを聞いて僕はイグが強がりを言っているのだと思った。

「えー、そうなの?それは困るなあ……」

 などと僕は呑気に答えた。自分でも思うのだが僕はやたらとのんびりしている。

 そうだ!せっかくだから聞いとこう。


「ちょっと聞きたいんだけど僕ってどうやって君の体に入っちゃったの?知ってれば教えてほしいんだけど――」


『い、いけしゃあしゃあと……きさ……ま、ふざけ……るなょ……』


 ここら辺でちょっとイグの声が小さくなってきた、同時に僕は体の感覚がほとんど元通り自分のものに戻っている事を実感した。ほっ……やった!


「あ、もう喋れなくなったのかい?残念だよ」


 こんな世界の脅威になりそうな邪神が体内にいるというのになぜ僕はこんなにも呑気にしていられるんだろう?変なやつだなあ僕って……。などと我ながら不思議に思うのだった。


 結局その日は邪神イグがそれ以上言葉を発せられなくなったので聞きたい事は何も聞けないまま夜はふけていった。




 ――翌日。


「ヌメタローさん!」

「師匠!」

「おい!起きろヌメタロー」


 僕は三人の呼び声で目を覚ました。


「……や……やあ。おはよう皆」


 僕は寝ぼけたまま目の前の人物に焦点を合わせると、そこにはちょっと膝を曲げて僕を覗き込むアルティーナが視界に飛び込んできた。胸の谷間がくっきりと見えている。ああ――。


 僕はそんなアルティーナに興奮し、カパッと口を開けそのまますっぽり飲み込んでしまった!

 アルは当然驚く。


「わぁー今日のヌメタローさんは積極的ですー!」


 などと口の中で嬉しそうなアルの声が漏れた。


 僕は弱めの回復魔法を使って口内のアルを撫でるように舌を這わす。首筋から耳たぶ、背中からお尻、太ももから内股、そして大きな胸から下腹部に至るまでたっぷりと愛でるようにナメナメする。

 ここで一つ僕にはポリシーがある。それは女の子の性的過ぎる部分には触れないというものである。

 何となくイケナイような気がするのだ。


「はあっ、ああー、ヌメタロー……さんっ!あっあっダメダメッ……ゔゔーっ!!」

 しかしそんな配慮にも関わらず僕の口から吐き出されたアルは思いっきり性的快感を得た後の様な顔をしていた。


「……はえ~」


 うっとりするアルティーナを僕は微笑ましく見守る。本当にこの子は可愛くて淫らで最高だぜ!ふふふ。



 そうしていると、ライラが珍しく焦りを含んだ声て話しかけてきた。


「ヌ、ヌメ師匠。あの隕石の落ちた跡みたいなクレーターは師匠がやったの!?」


 僕は昨晩の出来事を思い出してライラに答える。


「あ、うん。まあ正確には僕の中の邪神イグが暴れた跡だね。イグはアレを新生イグドール教団の本部がある町に打ち込もうとしてたんだ。今考えるとかなり危い所だったよ」


 僕は木に巻き付いて登りそのクレーターを上から見てみると、その直径は100メートルはある……。やはり邪神の力とは恐ろしい!

 朝を迎え明るくなった今、改めてそのクレーターを見た僕はその威力に驚くと同時にやっと恐怖を感じるのだった。いや、恐怖感じるの遅いな。



 ここでバダガリ君は何を思ったかその場で近くの木に素早く登り始めた!!え、何かな!?


「うおりゃあああああああ!!」


 バダガリは木から更にジャンプし、そこから一気に地面に拳を打ちつける!!


 ドガッ!!


 砂埃や細かい石が舞い散る。そこには直径3メートルほどの穴が出来ていて、中心のバダガリ君は歯を食いしばって悔しがっていた。


「くっそ……化け物め……!」


 どうやら僕の破壊力にまるで及んでいない事が不満のようだ。


「いや、アンタも十分人間やめてるぐらい凄いと思うけどね」


 ライラは素直にバダガリの強さを評価し、表情こそ真顔だったが拍手を送っていた。

 しかし当のバダガリの耳には入っていないようだ。


「くっそおおお!おいヌメタロー。も一回その邪神を呼び出して俺と戦わせろー!!」


 などと無茶な事をほざいている。……まったく、それで町が滅んだらどうすんだ。

 僕はため息をつき、ネールさんと会うまでの夜が少し怖くなるのだった。


 恐らくイグは僕の意識がなくなったタイミングを狙って暴れようとしている、――という仮説を立ててその事を皆にも話しておいた。



 ありがたい事にそれからの夜はアルとライラ、そしてバダガリ君の三人が僕の周りで一緒に寝てくれるみたいだ。ありがたい!

 体を膨らませてトグロを巻いた僕の上が思いの外快適らしく、アルとライラはそこに横になっている。二人で交互に仮眠をとって僕が完全に寝てしまわないように声をかけてくれた。

 僕は体力的に10日ぐらいはずっと動き回る事が出来るし特に寝なくても平気なのだが、一人でじっとしているといつの間にかうっかり寝てしまうのでひたすら感謝感謝だ。


 一方バダガリ君は逆立ちしたまま腕立て伏せをしたり、岩を抱えて屈伸運動をしたりと頭のおかしな特訓を行い限界を迎えるとぶっ倒れるように寝るだけだった。やれやれ、相変わらずとち狂ってるな君は。


 皆さんの気遣いが嬉しかったが、あれ以降全くイグは出てこなかった。

 まあ出ないに越したことはないけどもうちょっと彼とお話ししたかったなー。また出てこないかなー。などと考えたが口には出さないようにした。だって皆に悪いもんね。



 そのお礼というか恩返しに僕は昼間、皆さんの修行に付き合った。

 アルには魔法の実用的な使い方を、ライラには素早さを武器にした効果的な攻撃方法を、バダガリ君は僕のアドバイスなど聞く耳を持たずひたすら僕に突進して攻撃してくるので仕方なくその度にふっ飛ばしたが、これで打たれ強さ以外に何か得られるモノがあるのだろうか?よく分からない。

 そういえば彼はそもそも狂戦士(バーサーカー)だったなと思い出し、やや憐れみを感じてしまうのだった。



 ――そして当日の朝を迎えた。


「あれ?ライラその格好は?」

 僕はそれまで修道服姿のライラしか見た事がなかったが、その日のライラの格好は武道家のそれだった。

「院長先生が私のために見繕ってくれたんだって。丈夫な上軽いし動きやすくていい感じ!」


 ライラは笑顔で足をほぼ真上に上げて上段蹴りのような姿勢でピタッと止まった。う、美しい……。

「わーライラさんカッコいいですー!」

 アルも思わず称賛している。

 バダガリ君も真似しようとして悲鳴を上げる。


「あぎゃあああ!!」


 案の定足がつったようだ。君、柔軟性ないんだから無茶するなよ……。

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