第13話 「のむこむ」って何だろう?

 

 ――というわけで僕達は一旦山を降りてトッスへと歩いて行った。


 先頭にライラとアル、次に僕、そして後ろにバダガリ君という順番だ。

 一応バダガリ君にも事の経緯を説明しておいたのだが、「お前邪神だったのか!道理で強すぎるワケだ。ぎゃはははは」というなんとも彼らしい反応が返ってきた。


 そのバダガリが声をかけてきた。

「おい、お前ら、女二人!」

 その声は意外にもアルとライラに向けてのものだった。

「何?」

 ライラはやや鬱陶しそうに返事をする。

 僕はこの二人が喧嘩にならないかドキドキしつつ見守ることにした。


「お前らは何のためにその魔術研究所ってとこに行くんだ?俺はコイツに付きまとうって任務があるわけだがオメーらの目的は何だ?」

 この質問に珍しくアルが答えた。


「私はヌメタローさんの行くところならどこへでもついて行きます。大好きだから!」


 うーん……嬉しい事言うねえ。

 続いてライラは

「私も基本的に同じだよ。それに弟子は師匠に付いて学ぶもんだろ?お前と似たようなもんだよ」


 二人の返答を聞いてバダガリは不思議な顔をする。

「へっ、そもそもなんでコイツみたいな蛇を好きになるんだよ?なんかお前らヌメタローに変な魔法でもかけられてんじゃねーか?」


 おっと、だからたまーに確信を突くのは止めようか。バダガリ君。


 するとライラは顎に手を当てて考えるようなポーズをとった。

「確かに私も師匠に飲み込まれてから好きになったような気がするんだよね」

「ライラさん、ヌメタローさんに飲み込まれる前は結構悪態ついてませんでしたー?」

 珍しくアルがライラを挑発的な表情でからかっている。

「う、うん。まあ……ね」


「って事はやっぱその『のみこむ』ってのがヤベェんじゃねーか!怖えなー……ライラとアルティーナだっけ?よくやるぜお前ら」

 バダガリが軽く引いたような表情で二人を指差す。


 ライラは不敵な笑みを浮かべ、バダガリをからかうように、

「あんたも飲み込んでもらえば?バダガリ」

 などととんでもない事を口走る!う、うわあやめてくれ。絶対に嫌だ!!


「い、嫌に決まってんだろ飲み込まれるなんて!お前も俺を飲み込むとか嫌だろオイ!なあヌメタロー?」

「絶対にお断りする!考えただけでも吐きそうだ!!」


 僕とバダガリはお互いその「のみこむ」の状態を想像し苦痛に歪んだ顔を見せる。ホントちょっと勘弁して頂きたい。


「あははは。面白いですー!」


 僕らが恐怖のイメージを描いてしまっている最中にもかかわらず無邪気に笑うアル。笑ってる場合じゃないぞー!




 ――そんな感じで意外と喧嘩も起こらずに僕らはトッスへとたどり着いた。


「わー。人がいっぱいですー!」

「確かに、かなり大きい町だなー」

 アルはちょっとはしゃいでいる。僕も似たような印象を持った。


 住人には様々な人がいて、商人や農民の他、魔法使いもいれば剣士もいて見ているだけでも面白い。

 大道芸人みたいな人も多く、蛇の僕が人と歩いていてもそんなに目立たなかった。僕この街好きかも……。


「あんま強そうなやつはいねーな」

 バダガリは相変わらずそんな事ばかりつぶやいている。



「研究所はあっちだね」

 ライラが指差すその先には大きなレンガの建物が見えた。

 そしてライラは思い出したように忠告してきた。

「その研究所の所長さんだけどさ。ちょっと癖の強い人だから最初ビックリするかも知れないな」

「へー、どんな風に?」

「んー。魔術研究に熱心すぎて会う人全てに魔法の助言をしてくるんだ。私もこうしろああしろって色々言われまくってさ。ちょっと面倒くさかったよ」


 ふーん。まあこれから自分のことを調べてもらう人だ、それぐらいの方が良いかな。



 僕らはその建物の門の前まで到着した。

 門番らしき人たちがいたがライラが院長の書いた書簡を見せるとすんなりと中へ通してくれた。

 長い廊下を歩いていくと、徐々に独特の匂いがするようになった……悪い匂いではない、どちらかというといい匂いだ。


「こちらが所長室です」


 案内されたのは大きめの木の扉の前だった。ここかー。



 ライラがまず最初に入っていった。すると部屋の奥にいた人がこっちをサッと見るなり大慌てで向かってきた!僕はちょっとびっくりした……。


「おおおおおおお。ライラ君。どうしたんだい、よく来たねえ!久しぶりじゃないかー。……おやこの人達は?」


「お久しぶりですギャバッドさん。今日はこの人……じゃなくて蛇のヌメタロー師匠の事を調べてもらいたくて来ました!これ、院長からの手紙です」


 ギャバッドという名の所長さんは院長のしたためた手紙に目を通すとサッと僕を見上げた。なんというか、一つ一つの動作がやたら俊敏な人だな。


「こんにちは、ヌメタローです。本日はよろしくお願いします」


 僕はややかしこまった言い方で笑顔で挨拶をした。僕は蛇だが表情は豊かである。こういうのは初めの印象が大切だ。

 ギャバットさんは大きく口を開け驚きの仕草を見せる。


「これはまた、蛇の割には行儀の良い方ですねえ~!私も長い間魔術研究を行ってますが君のような大蛇を調査の対象にしたことがなかったものでねえ。楽しみですよぉ~ヌメタローさん。うふふふふ!!」


 なんかすごく喜んでくれている。ここに来てよかった、と僕は思った。

 しかし僕はギャバッドさんの次の一言で大いに悩む事になる。


「ではヌメタローさん。私を飲み込んで下さい!やはりこういうのは体験した方が分析しやすいですからー」


「え!?……ギャバッドさんを……ですか?」

 困ったぞ……ギャバッドさんは完全に男であるし、それを飲み込むのは僕のポリシーに反する。

「ぎゃははは!どうすんだおい、ヌメタロー!?」

 バダガリ君はこの状況を猛烈に楽しんでいた。くっ、お気楽なもんだな君は……。


「いやー、すいませんがこの魔法男性には効果が薄いようなのです(大嘘)」


 それを聞いたバダガリは大声で突っ込みを入れた。


「嘘つけ。オメー単に女好きなだけじゃねーか!?」


 おい、やめろバダガリ君。本当のことを言うんじゃない!


「じゃあ私が飲み込まれるからそれで分析してみてくれない?所長」

 ここでライラが手を挙げてくれた。

「おお!ライラくん。協力してくれるかね?では観測できるものを持ってこよう」


 そう言うと所長は奥の本棚から大きめの魔術書を持ってきて机の上で開けた。


「では準備は完了した。やってくれたまえ!」


「もういいんだ?じゃあライラ、頂きます」


 パクー。


 ここで回復魔法を発動しペロペロペロペロペロペロ――!


「あっ、師匠!そんなとこまでっ……うっ、ああっー!!」


 僕の口内からよがるライラの嬌声が聞こえてくる。

 バダガリ君は中のライラを想像しているのか複雑な表情を浮かべている。

 一方アルは羨ましそうに僕を眺めている。


 肝心の僕はこの「のみこむ」がどんなものなのか分析結果が非常に気になってきた。

 よく考えてみたら「のみこむ」の後、必ずと言っていいほど僕に好意を抱いてくれるというのは我ながら少し怖い。


 などど思いつつ施術を終えてライラを口からゆっくり吐き出す。

 ライラはやはり僕に寄れかかってくる。

 早速ライラの元へ駆け寄り魔術書と交互に見比べるギャバッド所長だったが、すぐに答えを出した。


「あっコレは凄い!」


「ど、どうですか?」

 結果が気になった僕はすぐさま聞いてみた。


「回復魔法は大きく分けて精神的回復と肉体的回復の二種類があるのですが、ヌメタローさんのは精神的な部分、それも快楽を伴うものが大半を占めています。そして一部洗脳と言っても過言ではないレベルで自分に好意を抱かせる精神魔法的な側面もあるようです!素晴らしいですねぇ~!!」


「……それって素晴らしいのですか?」


 僕は正直複雑だ。ただの回復魔法だと思っていたのに洗脳も兼ねていたなんて怖いなぁ。さすが邪神の力とでもいうか……。



――……てあげて下さい――。



 うっ、またあの声が頭に響いた。うーん誰なんだろう?

 後で人間の頃の僕を知っているというネールさんの事も聞いてみよう。



「あ、あの次は私も飲み込んでもらっていいですかー?」


 手を挙げたのはアルティーナだった。


「もちろん!」

 僕は快諾したがその分析結果はライラのものとは少し違った結果になるのだった。

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