第12話 魔術研究所へ
なんと!僕の過去を知っている人が……それは是非お会いして詳しく聞きたい!!
「院長さん。そ、そのネールという人に会ってみたいんだけど。会いに行って良いのかな?ちなみに名前からして女性ですよね?」
「ええ、女性の方です。そのネールさんも会いたがっているそうですが、でもあと5日程経ってから来て下さいとのことです」
「ん?なんで今じゃだめなんだろ?」
院長は少し考える仕草をして答えた。
「なんでも邪神イグの魂を完全に消滅させるために聖魔法の術者を十数人集めて魔法陣を描かないといけないらしく、その準備に5日はかかるらしいのです」
「なるほど、あちらも忙しいわけかー。まあそういう事情なら仕方ない」
それから院長は僕が気になっていた事に言及してくれた。
「この修道院の警備を頼んでおいて申し上げにくいのですが聖魔法の魔術書は新生イグドールの方にお渡ししました。魔術書があると魔法陣の錬成期間が大きく短縮できるそうなので」
僕はアルが新生イグドールの人に魔術書を渡していたのを思い出し、彼女に視線を向けた。アルはそれに呼応するようにちょっと目を見開いた。
「ヌメタローさん。もしかして私が魔術書渡すとこ見てました?」
「う、うん。まあね、盗み見してたみたいで悪いんだけど……でも僕はそれを見た時結構ショックだったよ。院長さんやライラに今の話を聞かされていなかったら……真実を吐かせるために君をのみこむ所だった」
アルは少し悲しげな表情をした。
「ヌメタローさん。飲み込みたければいつでも飲み込んで良いんですよ?私は歓迎します。だって気持ちいいから!」
僕はそれを聞いて微笑んだ。君は本当に素直で良いやつだね。じゃあ遠慮なく――!
パクー。
僕はアルを頭から「のみこむ」。そのシーンを初めて目にした院長は腰を抜かしそうになっていた。
「ひっ……ひいいっ!?何ですか!?何をしてるんですかヌメタローさん!?」
「院長。これはヌメタロー師匠のスキルの一つで、飲み込んだ人を完全回復出来るんです!いいなーアル……私も飲み込まれたい」
ライラもかい。まかせろ!君も追加だ!!
というわけで――パクー。ペロペロペロペロペロペロペロペロ――。
「「ふぁっ……あああああー!!」」
――しばらくして二人は興奮冷めやらぬ火照った身体を僕の胴体に預けるように寄りかかっていた。
「はあー……。回復魔法でこんなに気持ちよくなれるのはヌメタローさんだけです。天才ですー」
「本当にね。私、将来結婚しても絶対旦那じゃ満足出来ない気がする。ヌメ師匠、やっぱりあなたは凄い!」
称賛の言葉を送ってくれるアルとライラだった。喜んでくれて僕も満足だ!
一方院長さんはあっけに取られたような顔をして疑問を放った。
「こ、これは本当に回復魔法なのですか??失礼ながら……私には少し卑猥な感じに見えてしまいます」
「いやいや。ちゃんと回復魔法ですよ。この紋章をご覧ください」
僕は回復魔法を自分に使い。額に浮き上がった紋章を見せた。
「……たしかに。この紋章は回復魔法ですね……」
院長はやや不思議そうな顔をして言った。
ここでライラが院長に提言する。
「院長も飲み込んでもらったらどうですか?温泉とマッサージを一気に受けたような物凄い気持ち良さですよ?」
「い、いえ。私は遠慮しておきます。しかし……この回復魔法の事もそうですが、ヌメタローさん、一度魔術研究所であなた自身を解析してもらってはどうでしょう?ご自身が何者か分かるきっかけになるかも知れませんよ?」
「魔術研究所?へー、そんなのがあるんだ!ネールさんに会うまで時間も開くから行ってみようかな」
そう思ったがすぐに思いとどまった。
「……でも僕が邪神イグだと知られてしまったら、その……色々と騒ぎになるのでは?僕そういうので注目を浴びるのは嫌だなあ」
「ああご心配なく、秘密裏に検査して頂くよう私が書簡を書いておきますから。ライラ、あなたが所長に渡して下さい」
「えっ、院長!私も行っていいって事ですか?」
驚いて聞き返すライラにすぐに答えず遠くを見つめる院長だったが、やがて笑顔になって許可をだした。
「ライラ、あなたの場合やっぱり外で色々な人と触れ合って学んだ方が身につく事も多いのかも知れませんね……行ってきなさい」
「やったー!」
ライラは会心の笑みを浮かべて少年のように喜んだ。やっぱりライラは中身が男に近いんだろうね。
アルも手を挙げる。
「もちろん私も行きます!ヌメタローさんの事、私も知りたいです!」
「オッケー。あと僕からバダガリ君にも同行を願おうかな」
「ええ!?あの男もですか?師匠」
ちょっと眉をひそめるライラとアルだったが僕はハッキリと彼の凄さを説明した。
「彼は口が悪くて態度も横柄で下品で脳筋野郎ではあるけど意外と根は良いやつなんだよ。普通に凄く強いしね。あと稀に核心を突いてきたりするから意外とそんなにバカじゃないかも知れないよ?」
「分かった、それにしても師匠も大概口悪いね」
「ぷっ……あははっ」
ライラは苦笑しアルは吹き出して笑っていた。
そんなこんなで朝食をとった後、トッスという大きな町の魔術研究所へ向かう前にバダガリ君を回収しに行った。
山の中のその小屋は丸太と藁で出来た簡素なものだったが、謎の紐のようなものが小屋の中に向かって張られているのが気になった。何だろう?
「あの人の事だから罠か何か仕掛けてそうで怖いです……」
アルがちょっと眉をひそめたその直後、それが現実のものとなる。
ガサッ!!
木の上の方から木の葉が大きく揺れる音がした。
その方向を見上げると、空から人が降ってきた。もちろんバダガリ君だ!
「よくきたなヌメタロー!挨拶代わりだオラッ!!」
バダガリは僕の頭に攻撃しようと拳を振り上げていた。やれやれ。
僕は素早く舌を出して彼の腕と足を絡め、鎌首を大きく振って頭をバダガリの胴体にぶち当て吹っ飛ばした。
「ぐわああああああ!!」
ガサッ、バキバキドガッ!……あちこちの木々にぶつかる音とバダガリの叫び声が響き渡る。
しかし数秒後、茂みから血を流しつつ笑顔のバダガリ君がひょっこり顔を出した。
「……さすがだぜヌメタロー。この俺が認める数少ない強者の一人だ!」
僕はバダガリの言葉は気にせず要件を述べた。
「バダガリ君。僕らこれから魔術研究所に行くんだけど君も来ないかい?」
「何?ワザワザお前の方から誘いに来たのか!?フハハハ、行くに決まってんじゃねーか!」
やはりね。と、ここでアルがバダガリに恐る恐る聞いた。
「……あの、この紐みたいなのは何ですか?」
「あ?コレはヌメタロー専用の罠だ!コイツが山道を通った時にだけ反応するようにしてある。お前らの修道院の周りには大体コレを仕掛けてあるからヌメタローがどっか行ったらすぐ分かんだよ!凄えだろ!?」
それを聞いてアルはドン引きしたような表情を見せ、隣にいるライラは少し眉を釣り上げ軽蔑するように言う。
「本当にストーカーだなお前。いい趣味してるよ」
「ああん?強えやつに粘着すんのが俺の修行方法ってだけだ!文句あっか!?」
「フン……師匠はともかく私やアルティーナに手を出すのは許さないからな」
「はぁ!?俺はオメーらみてえな雑魚共に興味はねえんだが!?つーかテメェ俺にケンカ売ってんのか?」
まあまあまあまあ、……そう喧嘩しないでくれよ〜二人共。
そうかー、この三人と行動を共にするのは初めてなんだよな……これは仲を取り持つのが苦労しそうだ――。特にライラとバダガリ……はぁー……。
前途多難な旅路が今まさに幕を開けようとしていた。
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