40:第二十七話:恐れず快方へ進め
そそくさと船室へと帰るとある者が私を出迎える。
見覚えのあるその男が私の部屋の椅子に腰かけていた。
「帰れ」
私は思わず先制攻撃を入れる。
「あ、お邪魔してます」
彼はそれをものともせず往なしてくる。
たしかレインの横に居た男。私は勝手に弓野郎と呼んでいるが。
なぜこの部屋に。
「なぜ居る?」
「教祖様から伝言を頼まれまして」
「違うそうじゃない」
彼の言葉を遮る私の言葉に彼が疑問を述べる。
「と、いいますと?」
「なぜこの部屋に私が来ると分かった?」
そう、私が聞きたいのは経緯ではなく方法である。
ようするにどのようにしてここが分かったのか。
彼女もそうだが当たり前のようにこの部屋を突き止めるな。
「寝ているあなたを連れ出したんです。
知らない方がむしろ怖くないですか?」
ぐうの音も出ないな。
「それで、伝言は?」
彼が私の返答を聞き一瞬顔を歪める。
人が思い通りに動くのは心地がいいものだ。
「……手伝えることがあれば言ってください。
できる限りのことはします。とのことです」
彼が渋々伝言を述べる。私は聞きながらベッドへと腰を掛ける。
「だったら自分で来いという話だが」
「いえ、教祖様のお手を煩わせるわけには」
なんだろうか。来ようとしたレインをコイツが止めている絵が鮮明に浮かぶ。
私は頭を抱えた。
ひとしきり頭を抱えると私は考える。
何か手伝えること。これを利用するのならばこれからしなければならないことに対してある程度見通しを持っておく必要がある。
これからすべきこと。それは名付けるなら
例の実験を通して様々な知見が得られたが一番重要なのは混合液の性質。
マクテリアと例の液体が混ざることにより発生する事象は消失。信じられないことだがマクテリアが無くなるのだ。
マクテリアは我々異端者にとっては魔法を扱うための拡張パック、あるいはダウンロードコンテンツのようなもので本来必要ではない。例えるならグラボのようなものだが。
彼ら異人たちにとっては元より存在していて、存在していなければならない物なのだろうと考えられる。近しいものでいうと血液だろうか。
まあ何がともあれ他に事象が見られない以上、彼らの身に起きている症状はマクテリアの消失によるものである。名付けてマクテリア欠乏症と考えるのが妥当だ。
つまり消失したマクテリアを何とかすれば何とかなるのではないかという結論に至る。
そこでマクテリアを体外から増やしてやることにより症状の改善を図ろうというわけだ。
次に問題になるのがマクテリアを増やす方法だ。
基本的には例の液体しかり、マクテリアを注射することにより増やせると考えている。
となると次はそのマクテリアをどう調達するかだが。
体はタンパク質でできている。ゆえにタンパク質を摂取する必要が出てきて、動物や魚、時として植物。そういったものを摂取する。
これは動物や魚、植物にタンパク質が含まれていることが確認されているからだ。まあ古代人類はそんなもの確認せずに食い漁っていたわけだが、それは置いておく。
ではマクテリアが含まれていることを確認している物質は何か?
答えは、そんなものはない。だ。
となるとマクテリアを直接マクテリアとして摂取する必要が出てくる。
分かりやすい話が輸血だ。
で、最初に戻る。名付けて輸マクテリア法。
体外から他人のマクテリアを入れてやることで何かしら効果が得られるのではないかというかなり短絡的で荒々しい対処法だが。単純なようで、これが難易度が高い。
人間の体は驚くほど厳戒態勢だ。何か少しでも異物が入ってこようものなら即刻排除しようとするほどに排他的である。
そこで輸血を行う際には排除がなされないように厳重な注意を払う必要がある。衛兵を弱らせたり、相性のいい血を選ぶなどである。
衛兵を弱らせるのは簡単だ。やろうと思えばできる。
ただ、問題は後者、相性はどう調べればいい。
血ならともかくマクテリアの相性なんてものを調べる方法は知らない。
いや、明日ほどまでに救えなくてはもう持たないだろう。ならば悩んでいる暇などない。
早急に進めつつ、できる限りの配慮を行うとしよう。悩んで死んでしまうよりよっぽどいいだろう。
私はそこにレバーがあるなら私が殺すことになったとしても有益だと判断した方へトロッコを転がす。
傍観者のペナルティは知っている。
「じゃあ、そうだな。
あの四人と血の繋がっている人間を明日までにそれぞれ一人づつは用意しろ。
兄弟が居るならそちらが好ましい、さらに同じ日に生まれている兄弟が居るのならばなお好ましい。
あと明日私を迎えに来い。以上だ、さっさと伝えたまえ」
「分かりました」
彼がすぐに動き出し部屋を後にする。
マクテリアの相性とやらを調べる方法を私は知らない。
だがもし相性があるのならば血縁者間で似通うのではないかという仮説を立てた。
血液型も親からは生まれ得ない血液型というものが発生し、確率を狭める。
兄弟ならばAA+BBなどの親と確実に違う血液型が発生しうる場合も対応ができる。
双子も二卵性なら確率は兄弟間と同じ、一卵性なら無問題だ。
まあ、ここまでしておいてなんだが、輸血は何型だろうと基本的にO型で行われるらしい。
が、マクテリアの最適解なんぞ知らん。今はこれが最善だろうとは私の独断だ。
私は立ち上がると壁を見る。
さあ明日の宴を気持ちよく迎えるための大一番だ。心して掛かろう。
そんなわけで私は研究室へと向かった。
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