38:第二十五話:レギュレート
とは言ったもののどう聞いたものか。
彼女には詳しい実験の内容は伝えていない。
だから聞くならこうだろうか。
「七回目、先程の三つ前の時。明らかに魔法が弱くなっているのが分かった。
そしてつい先ほどの魔法、あれはむしろ強くなっていた。
私にはこれがよくわからない。だから今考えているわけなんだが。
魔法が弱くなった時、何かあったのか?
ただ単に疲れが来たのか?」
彼女が腕を組み、唸る。
「そうじゃなー。なんと説明したものか。
何かこう、魔法を出しにくい感触があったんじゃよ」
とするとこれはこの液体が持っているであろうと予想されていた魔法を妨害する力によるものか。
ならばなぜ二回目は下がっていないのか。
「とするとその一つ後、8回目の結果に説明がつかなくなる」
「ん?」
彼女が首を傾げる。
あーそうか、ここからの説明が困難なのか。
「君に水を渡していただろう?」
「うむ、そうじゃな」
「あれはただの水ではなくてだな。
まあ具体的な説明は省くが、一から三、四から六、七から九とそれぞれ違うものを渡していたんだ」
「そうなのか」
「ああ。そこで七回目は渡したものによってそのような結果になっただろうと考えたが。
そうすると八、九回目の結果が一から六までと同じになっている説明がつかないのだ」
「あー……」
彼女が何か私から目を逸らす。
「どうしかしたか?」
「いや、えっと……じゃな」
何か思い当たる節でもありそうなものだが。
少し間が開いて、話す気になったのか私の方を見ると言う。
「あくまで
何かわけのわからないことを言い始めた。
「あ、ああ」
「その、魔法をこう、一定にした方が良いのじゃろうと思って……」
彼女がそこで口ごもる。彼女が何をしたのかはだいたい理解した。
「なるほどそういうことか。まあそれは仕方の無いことだ。気にするな」
私は立ち上がると手元の記録をもう一度見る。
いや、むしろ彼女は褒められるべきだろう。
何せ彼女はどの魔法もおそらく全力を出していない。それなのに同じような結果を作り出し続けているのだ。
人間で例えるなら半端な握り方で握力計を一定の値にしろと言われているようなものなのだ。しかも握力計と違い数値は見えない。
そうともなればどうしても数値である出力で合わせに行きたくもなるというものだ。
つまり例の液体の第1セットの2回、3回目が水、マクテリアと同じような値になっているのは彼女が補正を掛けたからだろう。
とすると先程の水第2セットでの結果のズレにも説明がつく。
皆さまはクラッカーを使って負傷した経験はあるだろうか。
例えば肘を椅子の背もたれにぶつけたとか、机にぶつけたとか。
きっと先ほどの結果もそう言うことなのだろう。
つまり魔法を使いずらい状態で同じ結果を出そうと力んだ結果、
その妨害、圧力、抵抗が突如として解除された水にて過剰な上方修正となってしまったということだろう。
確定した。この液体には魔法妨害の力がある。
さて、あとは液体量の減りだが、不思議なものでどうやら例の液体は魔法に関与こそするがどうやら減少はしないようだ。
ただし質量に関しては減少しており、質量と体積の差が他液体よりも大きく発生しているように見て取れる。
が、これらが彼らを救済する方法につながるとは思えない。
次はどうアプローチをしたものか。私は思わず唸る。
「もう一回やらぬか?
次は気を付ける」
彼女の方を見る。なんというか申し訳ないと額に書いてあるような表情をしている。
いや、だから別に問題がないと伝えたはずだが。
あー私が唸ったからか。
「いや、気にするな、こっちの話だ」
では根本的に視点を変えてみるとしよう。この液体が何なのかではなく、彼らはいったい現在どのような状態になっているのか。
この魔法妨害を持つ液体。コイツが彼らの体内に入っているのは明白。
そしてこのマクテリア、これが異人達が魔法を使える
つまり体内ではこの二つが混じり合っていることが想定される。
私は二種の液体を手に取った。
混ぜてみることにしよう。
気泡、変色、沈殿。どれも見られず、言うなれば完全なる沈黙。
性質に変化があるかとりあえず先ほどの方法で試してみるとしよう。
「よし、では続けるとしよう。
頼めるか」
私は片方の容器を戻すと彼女の方を見る。
「うむ」
そういうと彼女は机から降りて定位置へと向かった。
「ああ、そうだ」
彼女がこちらへ振り返るのが見える。
私は容器の方を見た。
「今から5、6回ほど行う。
もし疲れが出たらすぐに言いたまえ」
「わかった」
彼女がぽつりと返事をする。
「それと……一定にしてもらっていいか?」
「うむ、任せておけ」
さて、実験の内容をここに明記する。
実験は彼女には5、6回と伝えたがだいたい4回で決着がつくだろうと考えている。
まあ、一応やるのだが。
前3回を水にて行う。ここでとりあえず彼女の調整の様子を見る。
大切なのが4回目。ここで先ほどの混合液を用いる。
ここで出力の減少が見られれば内容液の性質に変化はない。
ここで液体量の減少が見られればマクテリアの性質に変化はない。
ここがすべての分かれ目と言っていいだろう。
そんなわけで4回目の実験まで行ったわけだが、出力量に変化は無し。
5、6回も変化がなく、彼女が調整したというわけでもなさそうだが。
とにかく実験は終了だ。
「よし、これで終わりだ」
彼女から検体を回収しているところで彼女が不思議そうな顔を浮かべている。
「どうした?」
「いや、なんというのか。
拍子抜け、というやつかの」
その感想は何よりありがたい結果だ。
拍子抜け、その言葉の意味するところはつまり、出力の減少は発生していないということ。
あるいは減少は発生していたが、彼女の調整が上回るほど弱毒化しているということだろうか。
あとは液体量と質量か。ここから先は私一人でも大丈夫そうだな。
「いや、本当に助かった。
あとは私一人でも大丈夫だ」
「う、うむ。
では昼食でも用意するとしようかの。
貴様も要るか?」
「ああ、頂こう」
「うむ」
彼女はそうして立ち去って行った。
さて、質量は大きく減少がみられる。
液体量にも減少が見られ、本日はかったマクテリアの減少量よりも多く減少している。
誤差とは言えないほどにだ。
何故だ?
混ぜるだけで性質に変化が見られたのならば混ぜるだけでも変化が発生してもおかしくはないか。
まだ、実験用の検体は残っている。残りでそのあたりを実験してみるとしよう。
重量計に掛けながら混合液を作成するとしよう。
片方の液体を入れるともう片方の液体を勢いが出ないようにそわせて入れる。
これが勢いよく入れるとたぶん数値が急速に上昇することになる。まるで血糖値だな。
まあ、わかりやすい話が体重計の上でジャンプするようなものだ。あ、実際にはやらないでくれ。
きっと七割九分ほどの確率で体重計の
さて、全てを入れ終わると、いやそれ以前にも起きていたのかもしれないが、徐々に値が減少していく。
やはり魔法を通すまでもなく混ぜた時点で質量の減少は起きていたのか。
体積も徐々に減っている。
しかし質量はどこへ行ったのか。
気泡も発生しているように見えないのだが気化したのだろうか?
質量が減少しているということは気化している以外考えられないのだが。
沸騰しかり炭酸しかりこのような速度で気化するには気泡が出なくてはおかしいのだ。
まさかとは思うが急速に蒸発しているのか?
すこし確かめてみるとしよう。
というわけでラップを持ってきた。ラップで混合液を作成する容器の半分を覆う。
ジャムを作っている皆さまには信じられないと思うが液体は気化しても全体の質量は変わらない。
もしこの急速かつ徐々に減少する質量が気化しているのだとすれば、ラップを完全に覆った時点で質量の変化は止まる。
また先ほどのように混合液を作成するとラップを覆う。
これでもかという程きっちりとラップを覆った。レンジで温めたりすると大変なことになるほどにきっちりとだ。
私は何故か楽しくなってきて机に伏せるように手を置きそこへ顎を載せて値を確認する。
私は戦慄して、その冗談みたいな体制で固まった。
理論上減少するわけがないのだ。そう、理論上。
私の眼前には今まさに減り続けている数字が存在した。この時点で気化はしていないことが分かる。
気化はしていない。だが確実に液体は減り続けている。それはつまり……。
完全に物質が消滅している。
そう私が結論を出そうとしたその時、忘れもしない。
今でも信じられないことだが、
私は寝たのだ。
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