36:第二十三話:被害を受け止める者
レインについていき村へと降りると彼女は流れるように村の中を進む。
しばらく見たことも無いような場所を歩いていると、とある民家にたどり着いた。
彼女がそのまま民家の扉に手を掛けるので止めんと声をかける。
「ここは?」
彼女が扉を少し開いた状態でこちらを見る。
「ここはソンチョウタクとこの村では呼ばれているのですが、ようするに村長様がお仕事をなさる場所です」
ソンチョウタク、まあ多分村長宅とかだろうな。
彼女の口ぶりから察する村長宅にという呼び方は普通ではないのか?
「なるほど」
私の言葉を聞いて彼女は中へと入る。私も彼女に続くようにして中へと進む。
中に入るとさっそく玄関らしき空間が私を出迎えてくれる。
ここもどうやら土足厳禁のようだ。
彼女が何も言わず奥へ進んでいくので、とりあえず私も靴を脱ぎ奥へと進む。
開けた空間へと来ると彼女が止まった。
「こちらです」
彼女がこちららしき空間を一目見ると私の方を見る。
その開けた空間には四人の人間が寝かされていた。
四人、つまりは私の被害者か。
彼らを治すとは簡単に言ったものの何から取り掛かっていいものか。
ここからは微動だにしていないように見えるが、本当に息はしているのか、脈はあるのか。
まあ、そのあたりから確認するとしよう。
などと考えていると彼女から声が掛かる。
「ですがその前に会っていただきたい方が」
「わかった」
彼女がまた移動を始めるのでついて行く。
少ししてたどり着いた扉を彼女が叩く。
中から返事らしき声が聞こえると彼女が扉を開け中に入っていく。
「教祖様!」
彼女
どうやら教団関係者らしいことが分かって私は一つ息をついた。
彼女に続いて部屋に入る。
部屋の中は私が借り入れている半分程度だろうか。
六畳程度に感じる空間にベッド、本棚。机、その他いろいろが置いてあり狭い印象を抱く。
ベッドのそばに立つ青年。たぶん先ほどの声の主だろう。
彼がこちらを見る。
「どうも」
「どうも」
私も同じ言葉を返す。
その三文字にはおびただしいほどの情報が詰められているのだろう。
問題は私にはそれを解凍しうるだけの国語力とやらがない事なのだが。
彼を見ている私の視界の中の隅で一つ影が伸びる。
その影はベッドから現れると彼が背中に手を添えるように屈む。
「お前さんがあの悪魔を連れとる貴族さんかね」
しわがれた声で毛筆でも執るように、良く言えば丁寧に、悪く言えばゆっくりと喋り私の方を見た。
「悪魔は連れていないし、貴族でもないですが多分同一人物です」
むしろ私が彼女に連れまわされているような気すら覚える程だ。
きっとレインからの情報を元にして私という人物像を構築したのだろうな。
哀れな。
「あたしゃカーリイ・シェル・カームベル。
一応ここで村長をやっているよ。」
「ルアト・ザン・インフェンスです。
えーっと、そうだな。
……何をしていると思う?」
私はレインの方を見た。
「聞かないでくれます?」
「うちの若いのがずいぶんと世話になったそうじゃないか」
「いえいえ、え?」
そう言うと何か私の方が悪いみたいに聞こえるな。
いや、そうか。レインの情報をもとに私という人物像を構築した?
つまり……。
私はレインの方を見た。
「……え?」
彼女が一つ咳払いをする。
「ということで彼に治していただこうかと思っているのですが」
「お前……」
私の呟きは誰にも届くことは無く話が進んでいく。
「治せるのかい?」
村長とやらがこちらを見る。
「え、えーっとできるだけのことは」
「そうかい頼んだよ」
笑った顔を浮かべているな。
「はい……」
「で、では行きましょうか」
レインが扉を開き。
私に通るように手で促す。
彼女は引きつった笑いを浮かべている。
私もきっと同様の顔を浮かべているだろう。
部屋の外。レインが扉を閉めた音を聞くと私はレインに声を上げる。
「おい、レイン・ウォルシュ」
「はい、なんでしょう?」
「あれはどういうことだ?」
「いろいろとありまして」
コイツ多方面に嘘をばらまくタイプか?
「まあ、あとで訂正しておいてくれ」
「はい、そのつもりです」
訂正し忘れの可能性もあるか。
現状も大きく変動しているしアップデートし損ねたのだろう。
それはそれはソースも食い違うというものである。
というわけでそれはもう置いておくことにする。
「では始めるとしようか」
「はい」
先程の空間にもどり四人の様子を確認する。
遠目に見るに依然変わりなし。
四人の内一人に近づいてみる。
息こそしているがたぶん意識は無いのだろうな。
「ずっと起きていないのか?」
「はい、呼びかけたりもしたのですが返事がなく」
話を聞きながら手首に指を置く。
脈はある。私にはその程度の事しかわからないが。
彼女の話から彼らがもう二日間は寝ていることが分かる。
点滴なんてものも無ければ水分の補給が可能とも思えない。
脱水に至ってもおかしくない状況だ。
彼の手を置く今気づいたが擦り傷があるようだ。
「これ、気づいたか?」
彼女に傷口が見えるようにする。
「ええ、そうなんですが魔法が効かなくて」
魔法を妨害する効果がある?
いや、意識の無い人間には効かないという可能性もあるな。
「寝ている人間に魔法をかけたことは?」
「大けがを負ってしまって返事もないような人を治療したことならあります」
どうやら効くらしい。
私はポケットから残り二本の一本を取り出す。
となるとこの内容物には魔法妨害の効能があるのやもしれない。
それが副作用なのかはたまた主作用なのかはわからないが。
さて、コイツを何とかすれば治るのかはわからないがこいつが原因なのは分かっている。
どう解毒したものか。
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