32:第十九話:科学と魔法がなんとやらするとき

 彼女からもらった食事を摂りパソコンに向かう。

 食器は何やら私の食事風景を延々と凝視してくる奇妙な使い魔が片付けてくれた。


 コーヒーで一息つきながら考える。

 さすがに小説だけではいささか資料不足か?

 先程の「時間」についてはなんとなくまとめたが、ほかのさまざまな事象、文化についてもまとめるべきかもしれない。

 まとめると言ってもその手の作業は苦手なもので、書きなぐるぐらいしかできないのだが。

 まあ無いよりはマシだろう。


 まとめる理由は簡単だ。

 この世界の証明の足しにでも使えればいいと考えている。

 私の陳腐な発想力からこれだけの世界が構築できるわけがないことは既知の事実なのでそこから考えれば嘘偽りのない異世界の証明であることは確実だ。


 さて、あとはこの証拠を提出する方法なのだが。それが大変なのだ。

 宇宙船の修理。

 少なくとも研究所への帰還。これは成し遂げなければならない。

 これが問題で、諸事情により私は研究所の場所を知らない。そう考えると地球上のどこにたどり着いても失敗だ。

 改めて考えてみると思ったより難易度が高いな。

 まあ、あの移動技術について私が何も知らない時点で先は遠く、道がつながっているかも疑問だが。

……なんだ、千里の道も一歩からというだろう。よし、とりあえずは宇宙船の再度散策だ。




 そんなわけで志高く私の事故現場に来たわけだが、相変わらずひどい有様だな。

 当時に思いをせつつ例の機械に近づいていく。

 やがて私の視界が床から伸びる棒状、板状にも近いだろうか?の存在にたどり着くと沿うように機械の損傷個所へと向かう。

 この損傷個所、名前をコアと呼ぶ。この機械について唯一私が名前を知っているパーツだ。

 コアルームでもない場所にコアがあるというのはまたなんともややこしい限りだが、まあ多分名前考えた奴があまりにも考えなしだったとかそんなところだろう。

 これ無しでは一切が動かないと聞いていた。まあ実際ある程度は動いているように見えるのだが。


 詳しくどの程度壊れているか見たいものだが、あいにくこの謎の物体が邪魔だな。

 私はどけようとその物体に手を掛ける。

 見事、その物体が動くことは無かった。

 それもそうか。これだけのサイズ感の物がこんな角度でこの場所に静止していたとも、偶然この場所に移動してきていたとも考えにくい。設置されていたものなのだろう。

 少なくとも雨にも風にも負けないような細工が施されているレベルだと考える方が自然だ。

 工具で破壊するか?あれだけの広い倉庫だ。チェーンソーやらなにやら解体道具の一つや二つありそうなものだが。

 いや、ここはあくまで彼女の庭だ。そこに存在していた建造物を破壊していいものか。

……うん、さすがにやめておこう。立つ鳥、被害くらいは抑える。がモットーだ。


 直す手がかり、どころか何からとっついていいものやら。

 宇宙船のマニュアルには様々なことがそれはそれは文字酸っぱく詳細に書かれているのだが、この機械については記載がまるでない。

 私の前知識が無ければなんの機械であったかすらわからないほどだ。


 手詰まりだな。

 ゲームなどでは使い道のない場所はしばらく進行してから使われることが多い。まあ、現実のすべてが意味を持って生まれているかは定かではないが。

 ともあれ今ではないのだろう。

 また何か進展があった時に来るとしよう。




 ということで志改め私の自室、詳しくは船室。

 資料まとめの続きをするわけだが。さて、何からまとめたものか。

 文化はもちろん、時間のような概念、あとは魔法。まとめることは多い。

 まあ文化についてはもう少しこの世界の世界観とやらが見えてからまとめることにするか。

 とすると魔法か。


 魔法。この世界を取り巻く特異な事象が一角。

 思い描いた通りの事象を発生させる便利グッズ。かと思いきや、属性などというものに縛り付けられていたり、呪文などというものを作らねばならなかったり、(私だけだが)使えなかったりと不便の多い代物だった。

 そもそもこの世界の住人が使っているところは数回程度しか見かけず、便利ではあるのだろうが、そこまで万能なものというわけでもなさそうだ。

 私も使えない身でありながら生活に支障はない。

 水は川が通っているし、

 風は無くてもいい、

 土はもはや何に使うかもよくわからないし、

 火こそ困るかもしれないが、私にはライターがある。

 そもそも属性というのは世界の万物を四つにグループ分けしようとする試みで無茶が多い。

 分かりやすい話が血液型占いがすべてだとするようなものと同じだ。人間は4種類しか存在しないわけではない。

 と、B型のようなことを言っておく。私はO型だが。

 そんなわけで魔法が存在するもできないことが多く、そこまで依存しておらず、しばらく進化を見届ければ魔法がスパイスとして混入されているだけのような我々の世界と何ら遜色ない世界が出来上がるやもしれない。


……いや、固有魔法があるな。


 固有魔法。レインが語ったような回復魔法、ようは体の欠損を復元する魔法。

 我が世界にも医療技術やら再生技術やらと呼ばれるものはあるが、奴の言うことが本当ならそれをはるかに凌駕している。


 ソフィアが見せた赤い光。言及はされていないがこちらも固有魔法だろう。

 目にもとまらぬ速さで広範囲の人間を的確に切り裂いて見せた猟奇的な魔法。恐ろしいなんて言葉で留めていい威力ではない。


 私が知っているのはこの程度だがどちらも共通して属性のどこに含まれていそうとも取れないということだ。

 もはや何でもありなように見える。


……何でもあり?


 私はふとノートパソコンから立ち上がり、どこも見つめず壁を見る。

 発想とは不思議なもので、ある素材を見つめていると捨てた端材はざいがどこからともなく飛んできて、あろうことかその二つが合成して私が想像もしなかったような自らが作りたかったものを、自らの手をわずらわせることなく出来上がるような感覚なのだ。

 今、材料が私の目の前に集まってきている。私はこの感覚が煩わしくも好きだ。


……固有魔法、主動力源、移動、帰還。


 そう、なにもこの宇宙船を修理する必要なんぞ無いのだ。

 テレポートでもできるような固有魔法さえあれば簡単に帰還ができる。


 そうと決まれば必要なのはそれを可能にするための叡智。

 愚者が頼るべきはいつも賢人であるとハイテンションなる知識の袋詰めもそう言っている。

 そんなわけで私はソフィアの元へと向かった。

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