25:第十二話:敬虔なる資本主義
おっと?信仰らしからぬ話が出てきたな。
何の話だ。
「私は金なんぞ持っていないぞ?」
まず研究所に居たころも金なんぞろくに握っていた覚えもないし、
なんならこの世界では無一文だ。
「御冗談を。
あなたのような方が裕福ではないと誰が信じますか?」
本当に何故だ。
「何を言っている?
私が裕福であるとする理由はなんだ?」
彼女が私の白衣を指さす。
「あなたの羽織っているその白いローブ」
「いや、ローブではないのだが」
「その恰好で裕福ではないとおっしゃるつもりですか?」
まさか白い服を着るのが裕福の象徴であるという風習でもあるのか?
確かに言われてみれば彼女も白い衣服を身にまとっているが、真っ白とまでは言い難い色合いをしている。
かといって何色と称することができる色でもないが。
いや、明かりのせいか?
いや、思い返してみてもそうだな。
「むしろそんな恰好で隠す気でもあったのですか?」
少し笑っている。
まあ、真相は隠す気も、隠す対象もなかったわけだが。
「貴様、仮にも教祖だろう?
金に目でもくらんだか?」
「いえいえ、そんなことは無いですよ?」
さっきそう言っていたのはどこのどいつだ。
彼女が私の耳元でささやく。
「そもそもお金を欲しない人間が、いえ、悪魔だとしてもそんな方居るのですか?
おい教祖様。
何をおっしゃりやがる。
「そもそもの話、敬虔なる信者が神に助けを
コイツ、ひどいな。いや、まったく意味が分からないわけではない。日本人という種族はどの教えも信仰していないなんていいながら、受験前や腹痛の時には神やら仏やらに右から左まで願いを唱える実に薄情な思想を持っているのだが、やはり助けを乞うのならば乞うなりの立場でなければならないと少し思う。
彼女は私から離れ言葉を続ける。
「と、言うわけで悪魔を倒し、あなたの洗脳を解いて、みんな幸せになるということです。
ご理解いただけましたか?」
全く理解できない、なにより気に食わない。
そもそも私の洗脳を解いたとして貴様らに金を渡すとは限らないだろう。
取らぬ狸のなんとやらというやつか。な?強い確信とやらは恐ろしいだろ?
彼女が前を向き歩き始め、ほかの者もそれに続く。
さて、何とかこの紐をほどけないだろうか。
ほどけそうには無いが、手は完全に動かないというわけではない。
不自由ではあるが、策は弄せるだろう。
ポケットの中、鈍く冷たい感覚を得る。
私はそれに触れ、ふと思い出した。
……銃、注射器……そうか。
「一つ聞いていいか?」
「何でしょう?
答えたら仲間になっていただけますか?」
私は一つため息を吐く。
「ならんが、一応質問だけ渡しておこう。
答えるかは君自身が考えるがいい。
なぜ彼を殺した?」
「彼?というのは?」
「村の果てにひっそりとたたずむ古小屋。
そこの男だ」
「ああ……なぜか知りたいですか?」
彼女がほくそ笑む。
やはり知っているか。
悪いがその質問なんぞどうでもいい。
何故彼を殺したのかよりも彼を君たちが殺したという事実こそが大事だ。
君が何故という理由について答えを持っているようなそぶりを見せたのならば、私の問いは完結している。
「いや、結構だ」
「そうですか」
「君の目的は金だと言ったな」
「そうですね。
それも必要です」
こちらを見ずに話を続ける。
「では金さえ渡せば見逃してくれたりするか?」
「魅力的な話ですが、もとより取って食べたりするわけではありませんよ?」
そうか、おびき寄せるのに使うだなんだと言っていたな。
「いや、この状態が屈辱的なのだ。
下ろしては貰えないかと提案している」
彼女がこちらを見る。
「そうですか。
では資金提供をして頂けるのでしたら別に構いませんが」
「いいのか?」
もう少し警戒したらどうだ?いや、警戒するまでもないということか?
「まあ、洗脳を解いて払っていただけるとも限りませんし。
何よりここまで交渉の余地があるのであれば洗脳されているとも思えません」
まあ、されてないからな。
「ただし、彼女を倒すまでは同行願います」
「ああ、構わないとも。
ただし今はあいにく持ち合わせが無くてな。
彼女を倒してからでいいか?」
「ええ、構いませんよ」
「では交渉成立だな」
「いいでしょう。
拘束を解きなさい」
彼女が指示すると周りの者が私を下ろし拘束を解き始める。
彼女はしばらく私の様子を眺めていた。
ほどき終わるなり彼女が言う。
「さて、資金提供の件ですが、あなたに先に見ていただきたいものがありまして」
「その前に一ついいか?」
彼女の方を見る。
“一人”
「なんでしょう?」
「一人、手を借りたい、木屑が少しな」
私は何やら木に縛られていたらしく、肘にも木屑がついている。
背中はもっとひどいだろうな。
腕や胸元辺りを払いながら伝える。
白衣にはとても目立つのだ。
「あー、そうですね。
お願いします」
彼女の指示に従い、私の近くにいたずいぶんとガタイの良い人間が私の背中を払う。
若干振り払うに有り余る力で背中を叩かれながら足辺りにも手を回す。
私は彼が払い終わるのに伴い振り向き彼の手を取る。
「いやあ、助かったよ、ありがとう」
彼の顔を見る。
彼はガタイに似合わずスキンヘッドを掻いた。
“四人”か。
合計6人。
うち一人は小娘。
私にできるだろうか。
私は痛感したのだ。
私には主人公はできない。
私は主人公ではないのだと。
だが、かの異人は言った。
天才を演じれば天才へと至る。
つまり主人公を演じれば主人公へと至るということだ。
私は主人公ではないかもしれない、でも主人公を演じることくらいはできる。
さあ、主人公ロールだ!
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