24:第十一話:正義を宣い、悪を作りし悪魔の名

 正直、少女と断定できる要素は得意に無かったが、まあ華奢な手をしているとか、スカートとでも言うのだろうか?そのようなものを履いているなどという情報しかない。

 全然少年の可能性もある。むしろそういうキャラが居てもいいと思う。

「お目覚めですか?白きお方」

 白き?

 そこまで色白ではないが、ああ、白衣の事か。

 昨日あのまま寝たのだったな。

 普通、自室に居るときや寝るときは脱ぐようにしているのだが。

 昨日、かどうかは不明だが、相当疲れていたのだろう。

「誰だ君は?

 ここはどこだ?

 あと性別はなんだ?」

 疑問が山ほどある。

「一つずつお答えいたしましょう」

 彼女(彼)がローブというのだろうか?

 被っているものから顔を覗かせる。

「私の名前はレイン。

 レイン・ウォルシュと申します。

 あなたとは、初めましてではないですね」

 彼女が後ろ、ようはこちら側を向きながら歩く。

「ああ、貴様の珍妙な格好には見覚えがある」

 なんか言っていた奴だな。よく覚えている。

 てっきり独り言で何かを言っていたのかとも過ったが、コイツも私の事を認識していたようだ。

 白衣しらぎぬにベール。

 下に履いているスカートの名は行灯あんどんばかまだろうか。

 巫女にシスターでも乗っけたような独特な格好をしている。

 案外この世界特有の格好なのかもわからないが、とにかく印象的だった。

 彼女が前を向く。つまりは私に背を向けた。

「それと、ここは森の中です。

 今は村に向かっているところですよ」

 そうか、少し暗くてよくわからなかったがここは村に行く道中の森か。

 周りを見回す。

 しかしまあ、ずいぶんと手荒な真似をしていただけたようだな。

 体は何かに縛り付けられているらしく、それを数人がかりで動かしているようだ。

「それと」

 彼女が続ける。

 私は首を上げて彼女の方を見た。

 まだ何かあるのか?

 彼女が止まりこちらを見る。

「私なりに淑女をしているつもりでしたが。

 その……見えませんか?」

 ん?ああ、性別の話か。

 いや、なんだ。

 特に君がそういうふうに見えないとかそういう話をしたいしたいわけではないから安心したまえ。

「ああ、いや、気にするな。

 一応聞いてみただけだ」

「そうですか。

 良かったです」

 彼女が手を合わせ笑っている。

 この状況の人間と話すときにそのような感情をよくもまあ表せるものだな。

 彼女が少しして前を向き歩き出す。

 さて、本題に入ろう。

「で、なんのようだ?」

 少し、ほんの少しの苛立ちを覚え吐き捨てるように言葉を送る。

 理由は、ああ、そうだな。

 このレインとかいうやつが何もしていないことに特に苛立ちを覚えた。

「教祖様に向かってその態度はなんだ!」

 とりまきの一人。誰だかわからないがなんか言っている。

 教祖、ということは何かの宗教団体なのだろうか。

「いいのです。

 洗脳の恐ろしさとは己の考えが間違っていることすらわからなくなってしまうことにあるのですから」

 お前が言うか。

 宗教は時として人を救うことすら可能な強大な存在であるが、それを不当に行使する輩が居ることを忘れてはいけない。

「あなたには……えーっと名前を教えてもらえませんか?」

 普通こんな状況で名前なんて名乗らない、と少なくとも私は思うが。

 現状は普通ではない。

 私はこの世界そのもので偽名を名乗っている。

 特に知られても問題ないほどの世捨て人だが。

「ルアト・ザン・インフェンス。

 まあルアトだのなんだの好きに呼ぶといい」

「ではルアトさんとお呼びしましょう。

 ルアトさんには悪魔を呼び寄せてもらおうと思いまして」

 悪魔?

……ああ、ソフィアの事か?

 いや、彼女は悪魔ではなくてだな。

 まあ、彼女に口止めされているし、言及はしないが。

「何故アイツを呼ぶ必要がある?」

「簡単な話です。

 あなたは彼女に操られている。

 だから彼女を払い、あなたを救うのです」

 彼女が歩みを止めこちらを向く。

「私たちはあなたを救い、

 そしてあなたも我々も幸福になる。

 素晴らしいとは思いませんか?」

 彼女が私を見る。

 気に入らん。

「なぜそう思う?

 なぜそのように妄信する。

 なぜ悪魔を叩けば幸福になると信じる?」

 コイツらはまるで悪魔が全ての元凶であるといった思想を抱いているようだな。

 出来の悪い陰謀論に等しい。

「先程伝えた通りです。悪魔を倒せばすべてが解決します」

 会話をする気があるのか?

 いや、私も少しばかり冷静さを欠いていたか?

 もし仮に私が彼女に操られているのだとしたらコイツの言い分は間違いでもない。

 だがどうしても、彼女がそんなであるとは思えない。

「非人道的であるとは感じないのか?」

「何を言っているのですか?

 私から言わせれば悪魔の横を歩く、

 あるいは背中を追う、そんなあなたの方がよっぽど非人道的だと思うのですが?」

 嘲笑うように彼女は微笑んで見せる。

 やはり悪魔は悪魔か。

 人間に定められた悪をひた歩く。

 そんな山羊のような生を送る悪魔はずいぶんとさみしくも思えるが。

 彼女にとってはそれが正義なのだろう。

「さあ、私たちの仲間になってくださ……」

「断わる」

 彼女の言葉にかみつくように返事をする。

 彼女の顔が曇る。

「まあいいでしょう。

 あの悪魔を倒せばわかることです。

 どちらが間違っているのか」

「そもそも私を仲間にする必要などないだろう。

 彼女とて村に危害は加えていなかったはずだ。

 目的はなんだ」

 彼女には既に数名ほど信徒がついている。

 特に困ることも無いだろう。

 何を企んでいる。

 私に理解できることだといいのだが。

「全ては私たちが生き延びるためです」

 もっと具体的に説明しろ。

「何が言いたい?

 悪魔を倒せば不老不死にでもなれるのか?

 笑わせる」

「いえいえ、そういうつもりでは。

 ただ、あなたを仲間に引き入れればいいだけの話ですよ」

 全く話が見えてこないな。

 私が仲間になることとこいつらの存続がどうしたら関係するというのか。

「何故だ?」

「私たちには今お金が必要なのです」


……ん?

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