20:第七話:魔法と関わるために

 ということで場所は移り、なぜか屋敷内の空き部屋。

 宇宙船前にわざわざ集まったというのになぜここに場所を移しているかと問われれば並々ならぬ事情があったのだ。

 さて、あの話の続きと行こう。

 もしマクテリアが体外から干渉することができたなら。私が所持している検体でも可能なはずだ。

 可能であればこれが魔法に関係しているということが確実となる。

 つまり実験とは魔法を放ってもらう必要があるのだ。

 そんなわけで邪魔が入りにくい室内、かつ広いスペースのある場所であるこの部屋が抜擢ばってきされた。


 さて、これより行う実験内容を記す。

1:彼女の手に同等量の水、マクテリアを乗せ魔法を放ってもらう。

2:魔法の力について測る。

3:彼女の手から液体を回収し、その質量及び量を量る。

 回収前と回収後、水とマクテリアにて何かしら差が発生する予定、いや、むしろ発生しろと言った感じである。

 ペットボトルにて持ってきた水を量り採り彼女の手に乗せる。

「一滴たりとも溢すなよ?」

「う、うむわかった」

 さて、実験を行っていく。

 彼女に放ってもらう魔法は火属性魔法。もちろん屋内のため手加減はしてくれるそう。

 温度の変化も測り、何かしら変化が出てくれる事を願う。

 私はペットボトルの蓋を閉めると一つだけ用意してもらった机の上に置き、計測に備える。

「よし、では行くぞ!」

 彼女が気合を入れる。

「火よ、その存在を表し怒号を上げよ!」

 彼女の詠唱に答えるように室内に赤く爆炎が上がり、周囲を威圧するような轟音が鳴り響く。

 気のせいかもしれないが何か揺れるような感触があった。

 これが魔法の火力。

 これで部屋が燃えないように調整されているというのだから恐ろしい。

 温度の変化もなんとかといったレベルである。

「どうじゃ?何かわかったか?」

 彼女がこちらに首だけをむける。

 そう、彼女には何も説明していないのだ。

「いや、もうしばらく続けていればわかるかもしれない」

「そうか」

 手に持っているものをすべて置き、ビーカーとタオルをつかむ。

「その水をこの中に入れてくれ」

「うむ」

 彼女にタオルを渡すと水を量りながら次の準備を始める。



 というわけで流れ作業的に実験が終わった。

「これで終わりだ」

 机に向かいしゃがむとメモを見比べる。

「うむ、どうじゃ?

 何かわかりそうか?」

 案外彼女も気になっているのだろうか。

 結果について何度も聞かれている。


 ということで皆さまも気になるだろう結果を以下に示す。

1:実験前後で液体は水、マクテリアともに減少している。

2:実験前後で水、マクテリアともに質量も無論減少している。

3:室内の温度は実験前後で上昇している

4:1について水、マクテリア間に誤差として看過できない差が発生している。

5:2も無論4。

 以上だ。


 これではっきりした。

 この液体マクテリアは魔法と確実に関係している。

 そして私の仮説も間違っていないだろう。

 マクテリアは体外から干渉することができ、体外から補給することができる。


 つまり!


 私は検体を手に取ると立ち上がり、マクテリアを右手に出す。

「火よ!その存在を表し怒号を上げよッ!」

 すると部屋いっぱいに音が鳴り響いた。


 ああ、私の声がな。


 どうしたマクテリア?なぜ私の言葉に答えない?

 私は何事もなかったかのように検体にできる限りを戻し一つ息を吐く。

「すまない、まだよくわからない」

 彼女の方を見る。

「そ、そうか」

 彼女がこちらを見た。

 困惑を内包したその目は私が一体どのような姿をしているかを間接的に表していた。




 自室はベット。

 私は布団にもぐりながら喚いている。

 確信という奴は落とし穴を作る。

 いや、きっと落とし穴はそこに存在していて、確信という導きと惑わしによって落とされるのだ。

 何が間違っていたというのだ。

 なぜ私はあのような恥ずかしい目に遭わなければならない。

 あの後逃げるようにすべてを片付けると私は屋敷を去った。

 マクテリアは魔法の運用に際して体外からも補給される。

 そこまでは実験的に明らかなはずなのだ。

 そして魔法が本当に手から発生しているのならば手のひらにマクテリアが乗っていれば魔法の運用が異端者でも可能なはずなのだ!

 何か差が発生しているとすれば体内か。

 まだ何か違うのだろう。

 これ以上はさすがにお手上げだな。

 彼女の体を解剖するわけにもいかない。

 何か異人の死体やもういっそ煮るなり焼くなり好き勝手出来る奴でもいれば話が速いのだが。

 いや、倫理無きマッドサイエンティストに片足突っ込みかけているな。これ以上はやめよう。

 私は不健全な思考を振り払うように勢いを込めベットをめくると立ち上がり倉庫へと向かう。




 今度はちゃんと目的のある探索だ。

 私はある確信に導かれるように倉庫を漁る。この先に落とし穴が無いことは私の記憶が知っている。

 世の中には百聞は一見に如かずという作家泣かせの言葉が存在している。

 この言葉は聞いたり読んだりしてねぇで現物を見やがれこの本の虫がッ!という意味なのだが、現状の私を大いに表している良い言葉だ。

 私は魔法が武器として使われているのを知っている。

 だが、実際どの程度の火力を有しているかは知らなかった。目の当たりにして分かったのだ。

 これは死ぬ奴だと。


 私は知っている。平和とはバランスで成り立っているのだ。

 この世界がどの程度の治安をしていて、どの程度物騒なのかはともかく。

 あんな高火力を至近距離で、しかもほぼノーモーションで行える時点で危険性が無いわけがない。

 治安がどうあれ、道具や技術を使うのは人間で、使いようによってはもちろん事件は簡単に起こる。

 包丁で魚をさばく者が居れば、また人間をさばく者が居るのと同じである。

 魔法などという便利な物ともなればなおさら注意が必要だ。

 それでいて私には魔法を用いるすべはない。

 某国の銃社会はほぼすべての者が互いをけん制するに値する力を有しているがゆえに成り立っている。

 我が国の治安もほぼすべての者がハンズアップな為成り立っている……情けない話だが。

 そのような不安から魔法が引き起こすであろう事件に対する防衛札を何かしら入手しておくべきであると考えている。



 私は倉庫の中からある一つの道具を探し出し、見つめる。

 確かに対抗手段は必要だ。文字通り死活問題になる。

 しかしコイツを使うのは。

 いや、大丈夫。あくまで最終兵器だ。

 核弾頭みたいなものだ。

 その時まで使わなければいいと、ただそれだけだ。

 震えながらそれを手に取ると慣れた手つきでそれを凶器にする。

 こんな素晴らしい異世界に対して、こんなつまらないものを出してしまう自分に嫌気がさす。

 当面これで身の安全が保障されたとはいえ続けるわけにもいかない。

 もう少し異世界らしい武器、護身術を将来的に身に付けなければ。

 私はそんなことを考えながら凶器を白衣のポケットに仕舞いながら倉庫を後にする。

 白衣が後ろ髪でもひかれるように靡くとそのポケットに入れられた“銃”が一つうごめいた。

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