11:第十一話:旧友との一時
進んでいくと扉があり中へ入る。
部屋に入ってすぐに彼女と、奥に彼が居た。
彼は何かをしているようではあるがよくわからない。
彼の様子を観察してると彼女の手が私の視界を横切る。
その動作から察するに耳を貸せということらしい。
「名前を名乗るときは
やはり名前は名乗るべきではなかったようだ。
「あ、ああそうした」
……かった。
「うむ、そうか」
彼女にも耳を貸すように指示を出し、私も小声で話しかける。
「やはり彼にも異端者であることは隠した方がいいのか?」
彼女がもう一度小声で返答する。
「そうじゃな。
誰だろうと隠せるだけ隠しておいた方が良いじゃろうな」
「何してんだお前ら」
その声に反応して彼女がすぐに離れる。
彼の手にはいくつかのコップのようなものが握られていた。
どうやらお茶を用意し終わったようだ。
「けほっこほっ、んんん!」
下手か。
文章に表したから違和感があるなどではなく、間違いなく彼女がそのように発音していた。
咳及び咳払いの真似だとは思うが、無駄に下手である。
彼女は嘘でもなんでもなく本当に隠し事が苦手なのかもしれない。
もちろん価値観とかそう言う話ではなく技量の問題で。
彼もその様子を見て何やら
「まあいいか。
そこのベットでも床でも机でも好きに座ってくれ」
彼の見た方を見る。
これがベッドだというのか……。
らしい形状はしているが物が散乱していておおよそ人が寝入る空間ではない。
「椅子を出さんか椅子を」
彼女が文句を述べながらベッドに座る。
座るには座るようである。
「細けぇな。座れりゃ何でもいいだろ」
ホントにひどいな。
しょうがないので彼女と同様ベッドに座る。
「ほらよ」
彼がお茶の入っているだろうコップを渡してくる。
私は受け取るととりあえずそのまま彼女の方へ流す。
「うむ」
なんとも言えない返事が返ってきたのを受け流すと、彼から自分の分も受け取る。
緑茶、なんだろうか?
とりあえず緑茶のような色と匂いをしているので緑茶として話を進めようと思うが、いやしかし本当にお茶なのだろうか!?
警戒しすぎ?本当にそうだろうか?
いや!考えてもみてほしい!
緑色の得体のしれない液体。
よくよく考えると緑茶も飲み物として根付いていなければ蛍光緑の化け物である。
緑茶であると断言できない状態で渡されたソレをどう信用すればいいというのだろうか!
湯呑のように持ち一つ飲む彼女の様子を見てから飲むことにする。
一応、茶ではあるようだ。
私も彼女に続く。
彼も椅子らしきものに座ると一口茶を飲む。
さすがに椅子の一つはあるらしい。
他の椅子は無いようだが。
彼がコップを置くとこちらを向く。
「で、何の用だ?
お前が用も無しに来るわけねぇだろ」
と、言うからにはやはり何かしらの利害関係なのだろうが、一体どのような間柄なのだろうか。
「そうじゃな。
こやつが妾の屋敷に住むことになったのでな。
一通り家具を頼みたいのじゃが」
空き部屋に入れる用の家具か。
確かにそんなようなことは言っていたな。
彼はそういう職人か何かなのだろうか。
「なるほどなぁ」
彼がおいていたコップを持ち、丁寧に両手を添えると一口飲む。
一息して、逆再生のようにゆっくりと机に置くと彼が口を開け切ってから発声する。
「……あ゛?」
ずいぶんと長かったな。
彼の中で疑問やらなにやらが
「聞こえなかったか?
一通りの家具を頼んだのじゃが?」
いや、そういうことではないと思われるが。
「いや、そうじゃねぇよ!」
ほらな。
「こいつがお前んとこに住むってか!?」
彼が勢いよく立ち上がる。
あと人に指を向けるな、指を。
まったく君という人間……たぶん悪魔は。
「そうじゃが」
君も君だな。
何か問題でも?と顔に貼り付け、茶を嗜んでいる。
「何考えてんだお前」
「別に何の問題もないじゃろうて。
妾ならともかくお主に何の問題があるというのじゃ?」
ずいぶんと言いようだ。
少し間があって彼が呟く。
「ぁ、いや……もういい、なんでもない」
彼が頭を抱えるように座わり、少ししてコップに手を伸ばす。
なんか大変そうだな、君も。
しかし二人は一体どういった関係なのだろうか。
詳しく聞いてみたいものだが。
「すまない。
二人はどういう関係なんだ?」
私の質問に対して二人がそれぞれ述べる。
「腐れ縁じゃよ」
「金づる」
……酷いな。
彼女が手を敷き腿の上にコップを置く。
「そういえば紹介がまだじゃったな」
「いや、さっきしたぞ?」
彼がそう言って茶を飲む。
すると彼女が。
「どうせ名前でも名乗って終わった気でおるんじゃろ?
それで何が理解できるというんじゃ」
彼がその言葉を聞き、茶を吹き出して続けざまに咳き込む。
よく見受けられる表現の一種だが、実際に見るのは初めてだ。
まあ、それはさて置き、
「こやつはセシル。
我からの仕事だけを受けてひっそりと暮らしておる雑用じゃな」
なるほど、だから彼からの彼女に対する関係図が“金づる”になるのか。
彼が一つ咳払いをすると喉の調子が悪そうに述べる。
「いや、雑用じゃねぇよ」
もう一つ咳払いをして続ける。
「まあ要はコイツの代わりにいろんなモンを買いそろえてきてやってんだ」
ふむ、家具を彼から買うというのは彼が作るということではなく、彼が仕入れてくるといったところなのか。
「妾は様々なものをあやつから買っておる。
だから雑用とか何でも屋とかのがしっくり来るがのう」
「なるほど」
特に家具に限った話ではないといったところか。
「まあ、そういうこった」
そういうと彼は何か筆記用具的なもので頷いて見せる。
机に向かっているところから察するに何かを書いているのだろう。
彼の作業はすぐに終わり紙切れを彼女に渡している。
「友達料金でざっとこんなもんだろ」
その紙を見て彼女が唸る。
「普通は下げるものじゃと思うがのう」
特別プライスで値段が上がっているらしい。
確かに金づるか。
「まあよい。
して、いつ用意できそうじゃ?」
「んー……まあ二、三日あれば十分だろ」
「よし、では頼んだぞ」
そう言うと彼女は立ち上がり机の上にコップを置く。
「おう」
彼が返事をする。
私の自分の分を飲み干し机の上に置く。
「ではな」
「ああ、気付けてな」
玄関で彼女と彼が挨拶を交わす。
「テメェもな。
今度会ったら詳しく聞かせてもらうから覚悟しとけよ」
彼が私の方を睨む。
いや、多分気のせいで、きっと元から目つきが悪いのだろう。きっと。
「あ、ああ」
ドアを閉める彼の姿が見えなくなるまで彼女と二人立ち尽くしていた。
まだまだ日は低く、夜は遠い。
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