4
翌日。
タガネは剣を振っていた。
磨いた剣身がぎらりと日の光を照り返す。
昨日までの雨天を忘れさせる快晴に、タガネは空を振り仰いだ。鳥の影が頭上を過ぎていくのを見送る。
タガネは再び素振りを再開した。
世話になった家のそばで、日課の修行に取り組む。里の外れとあって、剣を扱っても危うげない土地の余裕があった。
姉の少女に許可を取って、剣を振っている。
里を横から一望する丘にあるので、三段層の景観が広がっているのがよく見えた。景色を遮らないよう木々が左右に別れて避けているようだった。
その景色を両断するように。
真っ直ぐとタガネが剣を振り下ろす。
その剣に励む姿を、後ろから地面に座って弟が観察していた。
姉が里へ買い出しに行ったとあって、家事や木登りで
ただ、じっと見ている。
「何か用か?」
気配で察していたタガネは、手を止めずに尋ねた。
若干だが
弟が頭を振って怖気を隠すように睨む。
「何でさっさと出ていかねぇんだ」
気色ばんだ弟に、タガネが笑う。
「少し気になってな」
「気になる……?」
タガネが手元を止めた。
剣を鞘に納めると、弟の方へと歩む。その隣に腰を下ろし、里の景色を眺めた。
「昨日なんだが」
タガネが声を潜める。
弟は聞き取ろうと、しぜんと耳を寄せた。
「昨日、火に照らされたおまえの顔」
「……?」
「顎の下に薄く縫い痕があった」
弟の表情が凍りつく。
「昔、怪我でもしたか」
弟は首を横に振る。
そのまま小さく尻で後退りしたが、タガネの腕が肩に回って動けなくなった。身動ぎして逃れようにも、力が強くて脱け出せない。
タガネの視線が弟を射竦める。
「み、見間違えだろ」
「本当か?」
「う、嘘じゃねえやい!」
タガネが肩を竦めて、弟を解放する。
弟は脱け出すやいなや、慌てて走って家の中へ駆け込んだ。戸が強く閉められる音が響く。
恐怖で慌てた弟の後ろ姿を見送ったタガネは、土を払って立ち上がる。
そして、里の一段目――大きな屋敷の立つ高地を見て微笑んだ。
「それなら、挨拶ぐらいしとくか」
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