囲炉裏のそばに座した三人。

 タガネは里を訪ねるまでの経緯を説明した。


 王国の南で悪名を響かせる盗賊団が、王都の金庫を襲撃して僻地へきちに逃げ隠れた噂があった。王家は騎士団を派遣したいが、遠い僻地な上に信憑性も薄い。

 その結果として、王国が報奨金を出すと明言して、仕事に当たる者を募った。そういった仕事には専ら傭兵がたかる。タガネもその一人だった。

 しかし、数に制限を設けていなかったのもあって、大量の受注が出てしまう。

 本来は盗賊団の居所の調査だったのが、盗賊団の首を獲った者の勝ち、つまり競争へと様相が変わったのである。

 南へと多くの傭兵が三々五々と散った。

 タガネは噂の元を探っていく内に、この田舎里へと辿り着いた。


 タガネが説明を終える。

 その間、姉弟はとても蒼褪あおざめて、わなわなと震えていた。


「どうした」


 タガネは低い声で訊ねる。

 すると、一転して姉の少女は暗い顔になって目もとを伏せた。目には火に照らされて浮かび上がる憂いの陰りが宿っている。

 少女は微かに笑みを浮かべた。


「ここに盗賊団はいないよ」

「どうして」

「だって、この町を守る傭兵団がいるから」


 タガネはわずかに目をすがめる。

 膝の上に乗せた剣の鞘に頬杖を突いて、少女を下から覗き込む。


「傭兵団?」


 少女は頷いた。


「つい半月前から、ここを守る傭兵が来たの」

「半月?」

くだんの盗賊団が来た辺りから」


 タガネは訝しげに眉根を寄せる。

 少女はその様子に、仕方ないとため息を吐きながら説明した。


 この田舎の里の近辺で略奪は起きていた。

 犯人は、南を恐怖させていた盗賊団。殺戮などをした痕跡として、死体の顔をすべて剥ぎ取って去るとの風聞だった。

 まだ遠くに盗賊団の名前を聞いていた頃と違って、ついに怯えた里の長老たちが警護の依頼を出した。それに応じたのが、いま里を守る傭兵団である。

 傭兵団が滞在してから、近辺で略奪は行われるものの、この里を侵攻しようとはしなかった。喜んだ長老が彼らへ衣食住を提供する代わりに、継続的な警衛を頼んだ。

 傭兵団はこれを承諾し、現在も里の近辺に這い寄る盗賊を退けている。


 タガネは説明を聞いてうん、と唸る。

 少女が小首を傾げた。


「どうしたの?」

「いや、別に」


 タガネは面前で手を振ってから床に寝そべる。静かに弟の方を一瞥した。弟は会話にも入らず、ただ鍬を手放さずにタガネを睨む。

 その険悪な姿勢を咎めて、少女が弟の肩をさすった。

 タガネは起き上がるや、わずかに口角を上げた。


「どうやら、俺の仕事場ではなさそうだな」

「そうね」


 少女が穏やかに笑う。


「でも、こんな所まで来たんだし、今日は休んで行きなよ」

「ああ、助かる」


 タガネは頭を下げて礼を言った。

 そして弟の方へと振り向く。


「よろしくな」

「……」


 タガネの声に、弟は答えなかった。



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