第十二話 三馬鹿と今後の方針
「レイター。そりゃ危険過ぎるぜ」
「まぁ、アニキの言いたいことは分かるが、どの道俺は残ることになるだろ?じゃぁ、一緒だ一緒」
「だがなぁ………」
「信じてくれよアニキ。こっちもそこまでガキじゃねぇ。強いとまでは言わねぇが、弱くもねぇさ」
「むぅ………」
再度合流した一行は、今後の方針を決めるべく互いに意見を出し合って大凡二極化した。
と言っても、強硬に同道の反対を示しているのはアランだけだ。リーダーであるラルクは今の所中立、ミラは賛成の意を示しており、二人は議論そっちのけで少々早めの昼飯の準備をしている。ジオグリフとマリアーネはそんな激論を端から眺めていた。
「二人共意外と冷静ですわね」
「レイター、ケモナーだからね………。獣人のアランさんには当たりが優しいんだよ。だからアランさんも強くは言えない。やっぱり獣人と相性は良いみたいだね」
最初はけんもほろろに拒絶したアランも、レイターの説得に絆されつつある。
生き方から口調、態度まで古き良き時代のトラック野郎であるレイターは陽気だが気が強く口も悪い。同じような良く言えば豪快、悪く言えば雑な人間には大体気に入られるので、比較的その日暮らしの冒険者との相性がいい。加えて獣人であると口調は変わらないが非常に柔らかくなるので、相手も強く言い出せなくなる。
「はいはい。議論は色々あるけれど、ご飯が出来たよー」
「取り敢えず食べようか。ここから先は、いつ食べれるかわからないから」
煮詰まってきた議論を中断して、馬車から食料を取り出し料理していたミラとアランが声をかける。それぞれにスープの入った器と黒パン、干し肉を受け取って車座になる。
「で、リーダー。どうするつもりだ」
「うーん。手は欲しいのは確かだ。アラン、匂いでの追跡は難しいんだろう?」
「………まぁ、な」
ラルクの言葉に、アランは渋々頷いた。ここで見栄を張らない辺りが銀等級の冒険者なのだろう。過信で身を滅ぼすだけなら笑い話にもなるが、それで仲間を巻き込んでは死んでも死にきれない。
実際、開拓村の匂いは騒動の中心だった為かまだ残っていたが、ここから離れると途端に薄くなる。おそらくは小雨か霧でも出て、少し洗い流されているとアランは判断している。
「獣人の鼻は信用できますが、山に近い森ですしね。一週間もあれば一日くらいは雨も降ったでしょう。既に消えている可能性は高い」
「その点、レイの追跡ならまだ行けるでしょう?」
ジオグリフとマリアーネの言葉にレイターは干し肉を噛みちぎりながら頷いた。
「足跡から細かい枝の倒し方、木の幹の傷の付き方や苔の削れ方………調べる方法は色々持ってるぜ。猟師やってたからな。つーか村から出た痕跡はもう見つけてるし、逃げた方向も大凡分かってるからそう外すことはねぇな」
「………よくよく考えると、猟師って人相手にも通用しますの?」
「むかーしジョエル・ラ◯バートを良く見ててな。アレを猟に落とし込んだ」
『ああ、ザ・マン◯ント』
昔、というイントネーションで前世の話だと気づいた二人は手を打った。
トラックドライバーの拘束時間の長さの理由に荷下ろし待ちがある。これは規制緩和以降、荷主が殿様商売しているのが最たる理由なのだが、まぁ詳しいことは業界人の愚痴になるので割愛するとして、その待ち時間の最中に何をやっているかと言えば寝ているか暇つぶしだ。
とは言え、寝ると言っても全員が全員目を瞑れば三秒で眠れる特異体質でもあるまいし、目が冴えて眠れない時もある。昔は雑誌や漫画を持ち込んだりしたものだが、最近はスマホもあれば携帯ゲーム機もある。何ならノートPCやタブレットを持ち込み、ディザリングやポケットwi-fiなどでネット環境を整えていたりする。レイターもその口で、暇があれば動画サイトを眺めていた。
そんな中で、ディスカバリーなチャンネルと出会う。カニ漁したり、ゴールドをラッシュしたり、サバイバルしたりとアウトドア派なレイターは定年したら田舎に戻って暮らすのも悪くねぇなと考えていたのである。その中に特殊部隊出身の元軍人が、土地勘を持っている警察や軍隊から最小限の装備で逃げるというガチで鬼ごっこな番組を見つけて良く見ていたのだ。
「その人はすごい人なの?」
「ああ、心の師匠さ。アレを追っかけるのに比べたら人数の多い、ただ逃げただけの村人追っかけるなんて訳ぁねぇ」
ミラの尋ねにレイターは神妙な顔をするので、ラルクは戸惑いながら頷き残る二人にも水を向ける。
「良く分からんが、そうか………。だが、他の二人は………」
「残りますよ?このまま報告しようにも情報不足ですし」
「馬車も1つだけですわ。順々に出発させるわけにも行かないのなら、ある程度の確定情報を入手するまでは一緒にいたほうが良いと思いますの」
ジオグリフとマリアーネも同道を望んでいる。むしろ、ちょっと気がかりがあるのだ。
「先輩達はどうですか?勝てない相手だった場合」
「状況次第だが、逃げる」
「―――生き残りを放置しても?」
「ああ。現状戦力では勝ち目がないなら、俺達の命、そして情報が最優先だ。例え避難民達を見捨てることになっても逃げる」
いっそ冷酷とも言える判断に、しかし三馬鹿は満足そうに頷いた。
「不服ってわけでもなさそうだな?」
「いえ、当然でしょう」
「むしろ正解ですわ」
「勝てねぇ相手に挑むのは良いが、後を考えるとなぁ」
彼らがもしも見た目通りの年齢であれば、あるいは義憤に駆られてラルクの判断を否定していたかもしれない。だが、前世を引き継いだ結果既に半世紀近い経験値がある。挫折や諦観は腐る程してきたし、自信過剰な人間に巻き込まれて酷い目にあった経験も多数。その後の後始末までさせられているのだから、身の程を弁えない人間には従えないし関わり合いたくないのだ。
その言葉を信じたラルクは判断を下す。
「―――分かった。全員で行こう」
「いいの?」
「どの道レイターが主導しないと追跡もままならん。他の二人をここに残しても、即時連絡する手段がなければそのまま遊ばせてるだけだ。なら、戦力を増やしたほうがまだいい」
「しかたねぇな………」
リーダーの決定には渋々であるが従うアランに、ラルクは胸中で胸を撫で下ろしてスープを飲み干す。
「飯を食い終わったら行こう」
尚、『霹靂』の勝てない相手と三馬鹿の勝てない相手の認識にだいぶ開きがあることは、この時点ではまだ誰も気づいていない。
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