第十一話 三馬鹿と不穏な現場

 そんな道中を2日程進み、一行は開拓村へと辿り着いた。だがそこにあったのは、村は村でも廃村と呼んでも差し支えがない程無惨な瓦礫の山であった。唯一それを否定するのは、破材になった建材が真新しいことぐらいだ。


 その余りの酷さにラルクが顔をしかめる。


「―――これは………思ったより酷いな」

「野盗の類じゃないですね。魔獣………それも随分大型だ」

「大型なんてもんじゃねぇよ先生。熊とかそんぐらいの獣にゃ無理だぜコレ。こいつぁ怪獣レベルだ」


 吐息混じりのジオグリフに、倒壊した家屋に触れながらレイターが補足する。


「おかしいな」

「どうしたの?アラン」

「血の匂いはする。だが、村の大きさにしては少ない」


 犬獣人の特性を活かして天を仰ぎながら周囲の匂いを嗅ぐアランの言葉に、一行ははたと気づく。確かに、家屋は倒壊しており、あらゆるものが派手に壊されてはいるのだが血の跡が少ない。


 開拓村と呼ばれてはいるが、帝国軍人が護衛で出入りしていることから分かるように帝国が関わっている事業だ。少数精鋭ではない。それなりに人数はいたはずだし、村の敷地面積から考えても2、300人は動員されていたはず。襲撃を受けたにしては、人的被害の痕跡が確かに少ない。


「―――ふむ。人を食った、にしてはその痕跡も無いですわね」

「もう少し調査してみよう」


 リーダーであるラルクの言葉に皆が頷き、それぞれに村の調査を開始した。


「どう見る?」


 ややあってそれぞれの所感を述べるべく集合した一行で、最初に手を挙げたのはレイターだ。彼はケモナーらしくアランと一緒に行動していた。この連中、こんな時でも自らの性癖に素直である。


「じゃぁ俺から。まず、被害は間違いなく魔獣、それも群れによるものだ。傷跡の大きさから考えて、30メートル近いのも混じってる。そんでもって、アランパイセンの鼻を信用するなら、だ」

「トカゲの匂い、そして大きさを加味すれば―――竜種だ」

「大きめのワイバーンって線もあるな。いずれにしても、新米混じりの兵隊じゃどうにもならんかったろうが」


 二人の意見に、ラルクは頷いた。


「それを相手取るなら、冒険者でも金等級パーティが複数欲しいな………」


 次に手を挙げたのはマリアーネだ。彼女もまた、百合豚らしくミラにくっついて調査していた。やはりこの連中、自らの欲望に自重などしない。


「周囲を探索してみましたが、やっぱり襲われたにしては血の量が少ないですわ」

「ご遺体も無いし、食べ残しも覚悟してたけど見つからなかったよ」

「住民が避難した、と考えるのが妥当か」


 血の跡はあった。だが、極めて少ない。被害自体は出たが、そこまででもなかった―――と考えたいが、ここに誰も残っていないことを考えると、撃退は出来なかったのだろう。ならば喰われたのは殿に残った少数と言った所か、とジオグリフは考察してアランに水を向ける。


「問題はどこに逃げたかですね。アランさんの鼻ではどうですか?」

「時間が経ってるからな………村の中心は血とトカゲの匂いが濃かったからまだ残ってるが」

「じゃぁ、俺がちょっと村の外周の方を探してみるわ。足跡1つでも残ってりゃ追跡できるし。先生、姫、ちょいと手伝ってくれ。居残ってる魔物がいねぇとも限らねぇからな」


 そう言ってレイターはジオグリフとマリアーネを伴って村の外周へと歩を進めながら口を開いた。


「なぁ、先生、どう見る?」

「不思議なのは、家畜が残っていたんだよね。死んでたけど、殺されたと言うよりは餓死だった」

「やっぱりですの?突発的な遭遇なら腹を満たすために食べていますものね」

「だよなぁ、俺もそこが引っかかったんだわ」


 飼われていたであろう鶏や牛などの家畜の類はいた。だが、三人の言う通り死因が自然死であったのだ。野良の竜種が出たならば、真っ先ではなくても人がいなくなった後で食べるであろうものに、まるで手付かず。


 となると犯人が竜種だとしても、もう一つの想像が鎌首をもたげてくる。


「………姫、召喚術もそうだが、テイマー的な連中ってドラゴン従えさせれるのか?」

「場合によりけり、でしょうか。宮廷魔導師並の魔力があれば亜竜ぐらいは行けるでしょう。苦労はすると思いますが。ただ、そうすると………」

「目立つよね。ともすれば既に国家の監視下に置かれてると思う。在野にいないとも限らないけれど………」

「そんな人間がホイホイ手の内晒して危険なことするとは思えんわな………」

「やるなら皆殺しだね。目撃者は残せない。私なら少なくとも入念に計画してからだ」

「そう考えると開拓村という環境はベストですわ。周囲に目は少ないでしょうし。そこで下手を打って、逃してしまった………?」

「だけどこの血の少なさはどうなんだろう。これじゃぁ、初手で見破られていたようなものだ。そして村人たちは接敵する前に逃げた。残ったのは殿だけ。だから被害自体は少なかった。ああ、後は村人全員が攫われたっていう考えもあるにはあるけど」

「それっぽくはなってきたな。後は痕跡が見つかれば絞れ―――おっと」


 幾つか考察をポンポンと交わしていると、森の入口でレイターが立ち止まり、その場にしゃがみ込んだ。


「見つけたぜ」


 その先に、数多くの足跡を見つけて。

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