第八話 三馬鹿の欲望番外地
引き続いて拠点にて、三人の協議は続く。
「まぁ、パーティメンバー増加は良いと思うぜ」
「正直、攻撃力過多というか火力偏重だからね、ウチ。脳筋じゃあるまいし」
「冒険者活動を隠れ蓑にするんじゃありませんわ!このムッツリ共!もっと欲望に素直になりなさいな!」
『お前は欲望に露骨すぎるだろ』
ジオグリフとレイターからの突っ込みを受けながらもむっつりよりオープンスケベの方が笑える分マシですわ!とマリアーネは抗議する。
とは言え、だ。三人は冒険者なのだ。加入させる以上は、戦力として数えたい。そして現状のバランスを見ると、非常に偏りがある。
ジオグリフ、魔法特化型なので後衛。
レイター、近接特化型なので前衛。
マリアーネ、手数と下僕の関係でどちらも可能なのだが本人がそれほど強くないために、他の二人が守りやすい中衛。
一見バランスが取れているように見えるこの三人。実は軒並み攻撃にしか向いていないという超攻撃偏重パーティだったりする。防御?なにそれおいしいの?とばかりに殴ることしか考えていないスキル構成が三人。防御とか回復とか全く考えていないので、やられる前にやれが座右の銘である。これがMMORPGなら地雷パーティの誹りを受けかねない舐めた構成であった。
だから増員には二人して賛成なのだが、折角ならと色気も出す。すると、途端に選択肢が狭まるのだ。
「欲望を出そうにも俺の場合、欲しいのは獣人じゃん?もしくは喋れるぐらいに知性備えた獣」
「まぁレイはケモナーですものね」
「それで戦闘も熟すとなると、大体前衛なんだよなぁ。―――レイド戦でもするまいに、これ以上要るか?前衛」
「むぅ。獣人は種族的に魔力の放出能力が低いですからね。代わりに内向きへの魔力操作が得意ですから確かに前衛職が多いですが」
「欲しいのは後衛職なんだよねぇ。できれば回復魔法使えるの。それで潤いとなると………やっぱりエルフが良いなぁ………」
ポツリと呟いたジオグリフの言葉に二人が反応する。メイドロボにだけに心を捧げているわけではないようでほっとしたのもある。
「お?何だ先生ぇ、アンタも亜人萌えかい?」
「エルフスキーですの?」
「あはは。私、古いオタクなのでファンタジーと言えば指輪の物語か呪われた島なんだよ。だからちょっとエルフには憧れがあってね。SFならアンドロイドだけど」
「どうする?この世界のエルフが平和なオークの村にヒャッハーするようなエルフだったら」
「アマゾネスタイプでしたら嫌ですわね………。スケベエルフもいいですけどやっぱり姫騎士エルフでクッコロしてもらわないと」
「どうして君達のエルフ観は薄い本寄りなの?」
因みに、この世界にもエルフやドワーフなどと言った定番亜人種もいるようで、それなりに人間族との交流があるようだ。どうも数千年前の邪神戦争と呼ばれる大戦争時に共に闘ったかららしいが、それを知っているのは実家の書庫に引き籠もるようにして育ったジオグリフぐらいである。
だから他二人の認識は前世のままで、しかも流行には敏感な方ではあるが昔の作品はそこまででもないので、エルフ観が少々偏っている。一方のジオグリフはSFオタであるため、発表されるSF作品が少ない時期は昔の作品を漁っていたりして、そしてオールドオタクらしい原理主義者であるために源流を求める。結果、エルフへの認識が指輪な物語だったり呪われた島なのだ。
それはともかく。
「でも実際増やすにはどうすんだ?ギルドで一応募集はできるようだが、帝都だから亜人種は少ねぇし。こういう時定番なのは奴隷を漁るもんだが………」
『あー………』
レイターの言葉に、ジオグリフとマリアーネは遠い目をした。
「何だよ」
「この世界にも奴隷制度はあるんだけれど、ねぇ………」
「悪いことは言わないから止めておいたほうが良いですわ」
どうもこの二人、奴隷市場にはそれなりに通じていたらしい。
ジオグリフは領主の息子であるため、教育の一環として。
マリアーネは大商会の孫娘であるため、市場調査と誤魔化して私欲を満たすため。
しかし二人が目にしたのは、ちょっと目を覆いたくなるような現実であった。
そもそもここは異世界。時代的には中世。人権的なものは言うに及ばない訳であるが、ならば当然衛生管理もそれに準じている。というか、想像よりも酷かった。元の世界でも奴隷船に隙間も無く詰められていたのだが、それと変わらない扱いなのだ。一人一つの牢屋などと無駄なことはしない。タコ部屋を通り越して最早すし詰め。ジオグリフとマリアーネはインドネシアやメキシコの刑務所を思い出したぐらいだ。
単純な労働者としての奴隷はそれで良く、それ以外の奴隷となるとまた別の付加価値が出てくるので多少はマシになるが、そうすると金額に反映されてくる。特に魔法が使えたり、見目麗しいとその傾向が顕著になり一気に値段が青天井化する。彼等が求める後衛職―――それも補助に向いていて、且つ美少女ともなると最早1つの国宝級のレア度だ。大貴族ですらおいそれと手が出せなくなるらしい。
「つまり程度が低いかくっそ高いかの二極化してると」
「まぁ、タコ部屋に突っ込まれてるのをガチャ感覚で探せば見つかるかもしれないけど、そこまで労力掛けるほどじゃないんだよね。十把一絡げだし、だから時々違法も混じってるみたい。そんなの掴まされた日にはこっちにも飛び火しかねないし」
「だったら冒険者に興味がある平民のぎゃんかわ女の子見つけて連れてきて、戦力的に鍛えた方が楽だし早いし安全ですわ」
「なるほどなぁ。しかし姫よ、だったらお前のダチ連れてくりゃ良いんじゃねぇの?確かシャコウカイとかいう集会に参加してんだろ?」
「レイが言うとなんだかゾッキーの集会にしか聞こえないなぁ」
「まぁ、確かに見目麗しい貴族令嬢は多いのですけれど、彼女達に冒険者をやる余裕はありませんわ」
ここでも中世の価値観が現実を突きつけてくる。
何しろ平民ですら20歳を超えたあたりで行き遅れを囁かれる程である。況や血を繋ぎ家を守る役割を持たされている貴族の子女ともなれば10歳程度で婚約、15歳の成人と同時に許嫁と結婚、翌年には出産という超ハイペース人生スケジュールが割と普通なのである。何のRTAだと突っ込みたくなるほど早い。
当然、この価値観が蔓延っている社交界に於いて、冒険者などやっている暇はない。特に家同士の力関係や、生まれた世代の男女層によっては競争率が爆上がりしたりと良縁に恵まれない少女はその傾向が顕著になる。
端的に言えば、ガツガツしているのである。
少年は別に歳を食ってからでも良いし、何なら本当に愛したい女は側室にするわと割とゆっくり構えているが、少女となるとそうも行かないのだ。婚活以外に精を出せるご令嬢は既に婚約済みか、さもなければマリアーネのような異端児だけである。そして婚約済みの彼女達が、わざわざ危険の伴う冒険者などやろうはずもない。危険に自ら飛び込んだ結果、物理的にも比喩的にもキズモノになってしまえば本気で一生を棒に振りかねないのだ。
「やんごとなき方々の婚活事情………ガッツリ肉食系だよね。兄上の時も凄かったよ」
「何だよ先生ぇ、お前もそうじゃないの?」
「所詮三男坊だし、冒険者になることは子供の頃から言ってたからね。許嫁すらいないよ。まだ家名は残ってるし、家の許可が無いと結婚もできないんだ。―――だから今生ではまだ童貞」
へへっと卑屈な笑いをするジオグリフの肩に、レイターは優しげな表情でぽんと手を乗せて。
「―――一緒に娼館でも行くか?いい店知ってるぜ?」
「異種族をレビューするのもいいね………!」
「ずるいですわ!私はどうするんですの!?」
「そりゃお前、今生は女なんだから置いてくか女用風俗行けば良い………あぁ、そうか」
女性用の風俗というのは、前世でも結構古くからある。日本でも歴史を遡ると実は江戸時代からあったほどだ。だが、ホストは当然男性である。しかし百合豚としては女の子に相手をしてもらいたいわけで、となると男性用風俗に行かねばならないのだが、まずこの見た目では相手にされないだろう。何なら従業員として勧誘されかねない。
「一応聞くけど、レズ風俗無いの?」
「無いからずるいと言ってるんですわ!!」
尚、日本でのレズ風俗の開業は諸説あるが1996年頃と極最近である。
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