第七話 三馬鹿はテコ入れしたい
最初のゴブリン退治から一週間。三馬鹿は毎日毎日討伐依頼をこなし、今日も今日とてゴブリンをスレイして拠点に帰ってきた。そしてエールを煽って一息。
「飽きた」
「飽きたねぇ」
「飽きましたわ」
三馬鹿は早くも現状に飽きていた。この連中、精神年齢は既に50前後のはずなのに全く堪え性がない。
「来る日も来る日もゴブリンオークゴブリンゴブリンゴブリンオークゴブリンたまにトロール………討伐系依頼って何でこんなんばっかなんですの?」
「帝都周辺だからしょうがねぇちゃしょうがねぇが」
「どういう………あぁ、そっか人口密度」
「流石領主の息子。そういうこった。珍しいのはこんな人里には来ねぇ。来るのは繁殖力旺盛で数が溢れて元の群れからはみ出す種族だけだ。俺の田舎だってそれに加えて獣系がちょいちょい出るぐらいだったしな。バジリスクとかバイコーンとかガルーダとかそんぐらいのレアな魔獣が出たら大騒ぎになるレベルだ。況や都会となればってやつさ」
レイターの説明にジオグリフはそうだよねぇと頷き、マリアーネは心底がっかりだと吐息する。
「冒険者になったらドラゴンを狩ろうと思ってましたのに」
「まぁ、どっちにしてもその手の依頼を受けるには私達の等級が足りませんけどねぇ」
「今は地道にってこったな。ドラゴンやら何やらは実績詰んだ後の楽しみにしておこうぜ」
「仕方ありませんわね………」
堪え性はないが、だからといってギルドの秩序を壊す気はないようだ。積み上げるのもまた侘び寂びかなと短気なくせに達観しているような部分がある。
これに関してレイターとマリアーネは気にしていないが、ジオグリフはSFオタらしく独自に考察して肉体年齢に精神年齢が引っ張られた結果だろうと考えていた。おそらく、青年期になればそれなりに整合性が取れるはずだと。
閑話休題。
「でもですわ、そろそろ潤いが欲しいと思いませんこと?」
「それは確かに」
「酒は前の世界が良かった。娯楽も同じく。となれば―――」
三馬鹿はうん、と1つ頷いて。
「発明か」
「モフモフだな」
「女ですわ………!」
己の趣味に直走った。
『………えー』
互いの趣味という性癖は分かり切っていたが、あんまりに直截な物言いにドン引きした。特にマリアーネの発言にはジオグリフもレイターも白い目を向けた。
「何ですのその反応。発明とモフモフって………まさか異世界に来て美少女物色しませんの?もげてますの?」
「ついてるけど。魔導科学的なもので搭乗型ゴーレム作るのは男の子のロマンかなって。後は、空飛ぶ船」
「ついてるがよ。獣人がいる世界だぜ?会話ができる獣だっているだろうし、喋れなくたってモフモフは癒やされるぞ」
「では、男の夢のメイドロボを作るか、獣人ハーレムでも作ればいいでしょう?」
「いやまぁそうなんだけどさー」
「その見てくれで言われると………ねぇ?」
「こんな見た目でも乳尻太もも大好きですのよ?」
何でコイツ見た目美少女なのに行動原理が平成初期のスケベ野郎キャラなのだ、とジオグリフとレイターは天を仰ぐ。
「と言うか姫、将来どうすんの?立場が立場だ。まさか女にかまけて生涯独身ってわけには行かねぇだろ?」
「別に問題ありませんわ。―――いざとなったら、一時的に生やして子供作りますし」
『ん………?』
唐突に不穏当な台詞が吐き出され、ジオグリフとレイターの思考が飛んだ。
生やす。何を。子供を作れると言えば、ナニをである。散らばった言葉の欠片と意味を重ねて補強するに、彼女は息子を作れるということになる。無論、この場合の息子というのはそのままの意味ではなく、比喩表現である。
「何ですの?」
「なぁ、先生………俺の聞き間違いか?」
「いや、レイ、確かに今、マリーは生やして子供作るといったような………」
「そうですわよ?意図してでは無かったですが、薬を作りましたもの」
『なん………だと………』
マリアーネ曰く、香水の研究の一環で媚薬ができて、更にそこから派生して最終的にふたなり薬なるものが完成したらしい。興味本位で試した所、一時的に男の象徴が生えてきたそうだ。
物理的にありえねぇだろ、と二人が突っ込みかけるがそもそもここは異世界。魔力なんて意味不明物質が魔法なんて意味不明現象を巻き起こす不可思議な世界なのだ。薄い本御用達の効果を持つ魔法薬があっても不思議ではない。
「貝合せもよいものですけれど、息子があった記憶と快感も知っておりますしね。偶然作れそうになったので再現するための方法を模索しましたとも。時間制限付きですけれど、男の娘になれますわ。種があるかは分かりませんが、一応行為そのものは出来るでしょう。まぁ、色々と試した結果、女のままの方が良いことに気づきましたけど」
『やだこのオタク欲望に忠実過ぎる………!』
「オタクなんて元から欲望に忠実な生き物ですわ。むしろ無い方が気持ち悪くありませんこと?」
こいつエロ漫画の住人か?と絶句する二人だが、当のマリアーネは気にした様子もなく。
「それより女ですわ女!美少女によるテコ入れ!それが今、我々に必要な潤いですわ!!」
とても美少女の見た目で言って良い台詞ではない事を宣うた。
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