第二話 三馬鹿の飲み会

「では我々の新しい人生、その門出を祝いまして―――」

『かんぱ―――――――――い!!』


 かこん、と木のコップを鳴らして三人は本日何回目かの乾杯をした。


 そう。何回目か、である。三馬鹿の顔は既に赤らんでいて完全に出来上がっていた。念の為に繰り返すがこの世界の成人年齢は15歳なので飲酒は合法なのだ。


 あの後、酒場に繰り出そうとした三人だが今後の話もついでにしようか、という流れになった折、マリアーネが「でしたら私が用意していた拠点でやりませんこと?お酒とツマミはストックしてあります」と告げた。異世界の酒場にも興味はあるが、明日からのこともあるしと思ったジオグリフとレイターは二つ返事で頷いた。


 お持ち帰り出来る料理を大量に買い込んだ三人はマリアーネの拠点―――帝都のど真ん中だと言うのにかなり大きな屋敷―――に辿り着き、酒盛りを始めた。それから既に3時間。へべれけではないがいい感じにアルコールが回って気分良くなっていた。


「いやしっかし、お前よくこんなデカい家持てたな。しかも首都でだろ?」

「去年の誕生日の際に、お祖父様がお祝いにくれたのですわ。正直持て余していましたけれど、三人で冒険者活動するなら良い拠点になるかなと思って、手入れはしてましたの」

「凄まじい太っ腹だね。さすが天下のロマネット大商会」

「まぁ、前世知識で発明した物の儲けは殆ど家に収めていますからね。これぐらいしないと居心地が悪いんでしょう」

「ロマネット大商会の石鹸は俺の村でも流通してるからなぁ………。そりゃ儲かるか」

「辺境にだって普及してるよ。十年ぐらい前に母上が夜会で知って持ち込んでからは爆発的に広がったのを覚えてる」


 正直その段階でひょっとしてどっちかが知識チート始めたのかな?と疑っていたジオグリフである。とは言え、縛りプレイをしているわけではないし核兵器でも作って世界を滅茶苦茶にしない限りは別に良いかなと放置していた。


「先生は辺境伯の家だっけ?」

「トライアード辺境伯といえば、武門で鳴らす家柄ですけど」

「あぁ家はそうだけど、私はどっちかと言うと魔法が面白かったからそっちに特化したよ。出来ないとは言わないけど武術はそこそこかな。魔力無しの技術だけでやりあえば、多分兄様達の方が強い。とは言え、マリーのところより金回りが良いわけじゃないよ」

「そうなんか?お貴族様ってんだから贅沢しまくれたんじゃ?」

「そりゃ平民よりはね。だけど国境線に領地があると小競り合いが後を絶たないし、ならず者もちょくちょく入ってくるから治安維持にかなり金を使うんだ。特に領軍の維持費はとんでもないよ。領地持ちの貴族はまともに運営していたらレイが思っているよりは贅沢できないさ」

「異世界でも軍隊は金食い虫か」

「そうそう」


 酒が入ってお互いに人となりを知り始めた段階で、自然とお互いを愛称で呼び始めた三人は「金が無いのは首が無いのと一緒は異世界でも変わらんか」と世知辛い世の理に辟易した。


「レイは帝国西部の村でしたわね?」

「ああ、長閑だけが取り柄のふつーの農村だな。前世の故郷も田舎の農家だったから馴染むのは早かったが、機械化に慣れてると正直農作業はしんどかったわ。コンバインとまではいわねぇが、せめて軽トラぐらいは欲しかった」

「そっちは知識チートしなかったんだな?」

「やろうとも思ったが、そこまで専門知識がなかったのもあるわ。前世も次男で実家継がねぇから高校も普通の公立行ったし。JAやホムセンが無いと材料だって揃わねぇ。機材1つ作るのも一苦労だ。例えばお前らだって肥料の概念は知ってるだろうが、区分とか成分表とか種類は分かんねぇだろ?」


 レイターの問に二人はあー、と天を仰いだ。


 確かに物語では動物の糞や死骸や腐葉土をどうこうする話は出てくる。だが、有機堆肥料や科学肥料の区分だったりその作成法や効能までは描かれない。種類があるのだから当然作物によって使い分けるのだが、どれがどれだったかの覚えがない。


 そもそも前世でも一次産業には享受するぐらいしか関わりがなかったジオグリフとマリアーネには精々畝だとか塩水選別だとかちょっとしたことぐらいしか覚えがなく、その程度はこの世界の農業が既に自力で辿り着いているらしい。


「身体を鍛えておきたいのもあったし、だから俺は専ら狩り専門だったよ。お陰でいい師匠にも巡り会えたしな」

「師匠?」

「ああ、ガドっていう狼獣人の爺さんでな。金等級の冒険者だった」

「金等級って、冒険者の中でも上位クラスじゃないですか。最上級の白金が歴史書に載るような英雄クラスって事を考えると、実質の最上位ですよ。よくそんな方が近くにいましたわね」

「まぁな。師匠からギルド宛へ紹介状も貰ったから、明日はスムーズに登録できると思うぜ」

「では明日、いよいよ冒険者登録ですか」

「テンプレとかあるかなぁ?」

「それを含めて楽しむって決めただろ?」


 レイの言葉に、違いないと二人は苦笑した。


 リフィール神との邂逅の際、三匹はお互いの希望を相談していた。色々とやりたいことはそれぞれにあるが冒険者をやってみたい、そして異世界を楽しみたいという二点で共通認識を得た。だったら出会うまでにそれぞれ準備をしてパーティを組まないか、と提案したのだ。


 折角それなりに蓄えた知識や経験を持って新たな人生を始められるのだから、全力で享楽的に生きるために―――15歳の誕生日、帝都の冒険者ギルドで獣神ラ◯ガーの歌を合言葉にとその場のノリと勢いで決めちゃったのである。


 そして―――。


「まぁ、明日は明日の風が吹くってな。今日の所は、だ。まずは先生、ご一献―――と言いつつ………ジオくんのーちょっと良いとこ見てみたーい!!」

「はい、イッキ、イッキ!」

「しょうがないにゃぁ………いいよ。―――飲みニケーションで鍛えたおっさんの肝臓を舐めるなよ?」

「やだージオ△ー!―――じゃぁ二番!マリアーネ、歌いまーす!!」

「いいぞ百合豚ぁ!って言うと罵倒してるみたいだな。じゃぁ姫男子で姫だ!いいぞ姫!俺も乗っかってやる!三番!トラック野郎、脱ぎまーす!!」

『御立派ァ!でも見苦しいから桶もってこ―――い!!』


 転生者だけの宴会で、ゲラゲラ笑う三馬鹿の夜は更けていく。


 尚、この翌日酷い二日酔いに三馬鹿が襲われたのは言うまでもない。

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