第58話 恋に縛って縛られて
週明けの月曜日。一般的には一週間の中で最も憂鬱な曜日だと言えるのではないだろうか。
社会人にとっては朝から会社に行かなくてはいけないし、学生は学校に向かわなければいけない。それはとても面倒な事で、しかし当たり前だから行うルーティンワークのようなものだろう。テンションは下がるのが当然だ。
「家帰りたい」
「もう、シャキッとしなよ」
つい一週間くらい前まで地面に舞い散っていた桜の花びらは既に見る影もなく、新緑の季節が差し迫る中庭を
でも実情は全く違う。
彼女は全てを俺に差し出し、俺は思い出を彼女に投影することで成り立っている
まあこんなことを朝っぱらから考えているせいで曜日に関係なく気分が落ち込んでいき、学校が余計に憂鬱になっているのは否めない。
だとしても、朝っぱらからギャアギャアと悲鳴が上がり、良くも悪くも大盛り上がりするウチの教室の面々はやっぱり頭がおかしいと思う。
「
「一緒に登校とか何様のつもりだ!」
「二人って付き合ってたの⁉」
教室に着いた俺と雫紅に待っていたのは野次と質問の嵐だった。
「これは……」
「みんな朝から元気だね♪」
「なんでちょっと嬉しそうなんだよ」
雫紅の言葉に文句を垂れつつも、あまりに異常で、それでいていつも通りの教室の風景に安堵感を覚えてしまう自分がどこかにいた。
あんな形で独占してしまったことに、後ろめたさでも感じているのかもしれない。
雫紅に振られた奴、雫紅に思いを告げようか悩んでいる奴等々、俺がいなければその微細な可能性を勝ち取れたかもしれないのに、その機会を奪ってしまったのは事実だから。
不正をして勝ち取った
後悔は山のようにあって、この間違った選択が正しかったのかもわからない。
「あら、仲良く登校?
「えぇ……………」
「でもまず祝福が先なのは私にも分かるわ。それに鳴染高校宿泊部の歴史を飾る一ページが今始まったということもね。職員室に戻って
「ご自由にどうぞ………」
テンションの寒暖差がありすぎてついていけず苦笑する。
「先が思いやられるな」
「楽しそうじゃん」
満面の笑みを浮かべる彼女の顔を眺めていると、不思議そうに見つめ返される。その表情が穏やかで可愛くて、離したくなくなるほどに呪わしい。
だからこそ。
依存に依存を重ねるこの恋が、縛られたこの恋が、解ける未来はこないのだとそう悟った。
恋に縛って縛られて 明日葉ふたば @Asitaba-Hutaba
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