第55話 懐古の衣装
数十分後。
高ぶった感情を落ち着けた
そして髪を乾かして、今俺の隣にいる。
それもベッドの中で。
背中が触れあいそうな距離でお互いに背を向け合っているのが感じ取れる。
どちらにせよ部屋の電気は消しているので俺は雫紅の顔が見えていないし、雫紅も俺の顔は見えない。
押し入れに布団があるにもかかわらず別々に寝ない理由は、雫紅がベッドの中で一緒に寝たいと言ったから。これに尽きる。
小説、深夜アニメ、テレビ等なら、まず間違いなくこのまま行くところまで行ってしまう展開だ。
本来ならそういった展開を期待したい所だし、雫紅の好感度的にもワンチャン有るんじゃないかと考えてしまわないでもないが、今はあまりそんな気分じゃない。
とにかくこの重苦しい沈黙を取り払うために、当たり障りのない話で場を和ませよう。
「なあ雫紅って好きな食べ物とかあったりするか?」
まるで自己紹介の時間だ。話題提供の酷さに我ながら感心する。
「ふふっ、なにその質問。もっとあったでしょ」
「下手で悪かったな!」
「いいよ、その気持ちがすごく嬉しいから。私は干し芋が好きかな。甘くておいしいの」
「また渋い所に……。よく食べるのか?」
「うーん、週二、三回は食べるかな」
よっぽど好きなんだな……。
「太りそう」
「うわ、女の子にそれ言う?」
布団の中でポンッと足を蹴られてしまった。ちょっと痛い……。
「ごめんて」
「他の女子にだったら何されてたか分かんないよ?次の日には後ろ指を指されて、女子のグループから白い目で見られてたかもね」
「ちょっと現実味がありすぎて怖いんだけど」
多分そういうのが実際にあるんだろうな……。やっぱり女子って怖い。
「そういう
「確かに女を食うって言葉はあるけども!俺は───」
「知ってる。すき焼きでしょ?」
「なんで知ってんの……?」
「前に聞いたからね」
マジか。家族にしか言ったことないのに。
母親か妹か漏らしやがったな。
「ちょっと真面目な質問していい?」
「ほよ?」
「俺が風呂から上がったとをメイド服を着せてきただろ?」
「さんざん
我慢、我慢だ。
「なんで雫紅もそのお母さんもメイド服なんて持ってたんだ?アキバの民だったことでもあんの?」
「アキバの民って何⁉住んだことも無いし、行ったことも無いよ。まず私と母親が持ってたメイド服は全然購入用途が違うし、購入時期も違うの」
「というと?」
「私が母親からされた話では、高校生の時に文化祭でメイド喫茶をすることになって買った物らしいよ。だから二十年くらい前の負の遺産を、記念だって今も置いてるみたい」
「雫紅のお母さんにとって、よっぽど良い思い出だったんだろうな」
状態の良さは体感済みなので太鼓判を押しておこう。
「じゃ雫紅自身のは?私生活で使う事なんてまず無いぞ」
「私はメイドのコスプレ写真をSNS上にアップしてたことがあったから」
「え、普通に見たい」
「もう残ってないよ」
「現物が俺の隣にいるじゃん」
「仕方ないなあ。じゃあ今度二人の時があればね」
よし‼
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