第54話 雨降り心のかくれんぼ3
───────。
───────。
───────。
対面することはなかった。
あれ違った?
俺、眠いのと深夜テンションで訳わかんないことほざいてたよな?
めっちゃ恥ずかしいんだけど。
中にはコートからスカートから服がパンパンに掛けられていて、下の空いたスペースにも裁縫箱や消臭剤などが敷き詰められている。
とてもじゃないが人が踏み入れる場所には見えなかった。
大方隠れられそうな場所を探し尽くした気でいたため、最後の場所だと気が抜けてしまった。
正直そろそろ眠気が限界に達してきていて探す気力が残っていない。
だめだ。ギブ。
「
隣の家に迷惑が掛からない程度の声で呼びかけるも返事はない。
他の部屋にも回ってみたが、雫紅が出てくる気配はなさそうだ。
「勘弁してくれよ」
悪態をつきながら歩き回っていると、リビングのテーブルの上に置きっぱなしになっていたスマホに目が留まる。
これだ!
いくら出てくるつもりがないと言っても、スマホくらいは持ち込んで時間を潰している頃だろう。
まだ追加されて間もない連絡先を押して直接通話をする。
よしよし、どこかから音が聞こえる……ぞ。
「まさかこれ着信音なのか…?」
まるで泣きたいときに聞くと効果がありそうな、
薄々感じてたけど、実は雫紅って病んでたりする?
結局スマホも見つかったのは見つかったが、俺の考えはお見通しだったのか彼女の通学鞄の中から聞こえていただけで、本人の居場所を突き止めるには至らなかった。
────それからは
「一体何処に隠れたんだよ…」
まるであのときみたいだと心の中で思う。
隠れた相手をどうしても見つけることができず負けを認めた、生涯でたった二度の敗北の内の一回。あの少女の家に遊びに行ったときに行ったかくれんぼがまさしくそうだった。
同じ人物であるわけがないのにどうしても記憶がダブり、雫紅とあの少女を重ねてしまう自分に嫌気がさす。
そんな時、ふと思う。
雫紅があの少女と同じ隠れ方をしていたならと。
まさかそんな筈はないと思いながらも、足は自然と序盤に確認したクローゼットへ進んでいく。
記憶の深く深くに眠っている重い出に従って。
出来れば違ってくれと切望しながら、もう一度クローゼットの扉を開いて乱雑に置かれた裁縫箱達を外に出し、服とスカートをかき分けたその奥を明らかにした。
「よお。やっと見つけた」
クローゼットに対して横向きの三角座りで姿を現した雫紅の目尻は赤く
「一度探してくれた時に気づかれなかったからもう諦めてたのに……。決心を付けたところだったのに……。なんで見つけちゃうかなあ……」
しゃくり上げる雫紅は目に溜った涙を腕でグッと
その際目一杯置かれた謎の箱達が蹴散らされるのも厭わない。
そんな彼女のことを優しく抱きしめ返すと、触れ合った彼女の肌は今にも凍り付きそうな程冷たくて、体の芯から冷えていることがありありと分かった。
早急に湯船に浸かり、体を温め直さなければいけないだろう。
でも、まだ少し。
もう少しだけ、このままで。
────それは彼女のために。
────そして俺のために。
人は縛らずにはいられない、
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