第53話 雨降り心のかくれんぼ2

 今思えば洗濯籠せんたくかごは網目状になっているので横から確認すれば済んだのだが、気づくのが遅かった。

 見た感じギリギリ隠れられそうな所は、洗濯機と壁との隙間、そして洗濯機の中だな。

 俺はまず少し屈んで洗濯機と壁の隙間を確認する。

 いない。


「こっちも胸がつかえて無理か」


 本人に聞かれたらしばかれそう……。

 タオルが放り込まれた洗濯機の中も混ぜ返したが人の姿はなかった。

 よし、風呂場に行くか。

 実はあらかじめ目星を付けていた場所がここで、俺の予想では浴槽の中に隠れているのではないかと思っている。なぜなら浴槽の湯を抜いてしまえば人が隠れられるスペースを十分に確保でき、仮に湯を張りっぱなしであっても息を吸えるくらいの幅はギリギリあるからだ。

 隠れるには絶好の場所だろう。

 意気揚々と浴槽のふたをどけてみる。


 …………………。


 予想外れた…。

 俺の考えでは一五分もあれば見つけられると高をくくっていたのに、二〇分を超えたどころか全部の部屋を探すことすら出来ていない。まあそれでもまだ誤差の範囲だろう。

 にしてもいい加減見つかってくんないかなあ。


「眠い」


 次!


ぼう青色の鬼はこんな気持ちで徘徊してたのかなあ。ゲーム内のキャラとは言え、少し同情するかも」


 虚しい。

 慣れてきたつもりだったが、流石にこの状況では孤独感にさいなまれてしまう。

 そして最後の部屋である雫紅しずくの寝室に着いた。

 なんだかこの部屋だけ妙に涼しい。どこか窓でも開いているのだろうか?

 ベッドの少し上にはカーテンの掛かった窓があり、電気を付ける前から一筋の光が差し込んでいた。

 全部の部屋を外すとは俺も運が悪い。

 最後に訪れることとなった寝室は存外淡泊なもので、シングルベッドとよく分からない四角い物が置かれた鏡台の他には、備え付けの押し入れやクローゼットがあるくらいだ。後は壁に吊されたブレザーとカッターシャツ、そして鞄と言った所か。

 部屋が広いのに有効活用できていないのは勿体無いな。


 また、俺のカッターシャツは雫紅が風呂に入ったタイミングで洗濯してくれたのか、水分を吸収して服がしなっている。ただし、ポタポタと雫がしたたり落ちていないのを見るに、乾燥機にかけてくれたのかもしれない。

 そんなどうでも良いことを調べつつ、部屋の中を物色する。

 ふむ。

 王道の隠れやすそうな場所としては今までで一番多い気がするな。


 ならまずは。

 俺はまず定番のベッドの下を覗くため、ベッドの近くまで寄ってから絨毯じゅうたんにベチャリと張り付いた。


「まるで家守やもりだな」


 しかしベッドの下を確認しようにも真っ暗で見えづらいため、俺はポケットからスマホを取り出してライトを付ける。

 ピカッと眩しい光が映し出した先には…。

 いない。


 それでは先に押し入れからっと。

 三つあるふすまの扉。その真ん中の上段。入っていたのはもこもこした冬用の掛け布団だ。それも二つ。おそらく雫紅の父親と母親のものだろう。真ん中を開けたついでに左右を覗いてみるが、こたつ布団や他の布団が仕舞われているだけらしい。

上段を見終わったならと次は勿論下段に移る。

 そこには上段に有った掛け布団と対になった敷き布団の他、雫紅の物と思われる様々な服達が収納ボックスに入れられていた。おそらくここに有る服で衣替えをして、移りゆく春夏秋冬に合わせた姿へ彼女は変わるのだろう。

 まあ、とにかく居なさそうだ。

 となると…。


 ついに雫紅を追い詰めた。苦節三〇分。激闘だった。

 最後の最後まで見つからなかったその運には賞賛を送るぜ。


「待たせたな。天岩戸に籠もるのはもうおしまいだ」


 俺はクローゼットの扉を引っ張ってようやく雫紅の可愛いご尊顔に────。

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