第39話 疑惑と攻防
マンションなら足音が響いて近所迷惑になるかもだが俺の家は一軒屋。間取りも広めなので多少騒いだところで支障は無い。後方をチラチラ見ながら階段を駆け上がり、自室へ逃げ込む。行き止まりで追い詰められたがたかだか一分程度走っただけでお互いに息が荒く、二人とも運動不足なのがよく分かる鬼ごっこだった。
「丁度二階に上がってきたしこのまま用意して風呂入ることにするわ」
「うん、それが良いんじゃないかな」
俺は着替えやタオルを
走ったせいで暑くなったのか彼女はダボダボの袖を
左腕の内側。
怪我をしたにしては多い気がするし、同じ場所に複数痕があるのも不自然だ。小型ギロチンを逆さにしていくつも横並びに置き、そこへ腕を押し付ければ似たような痕をつけられるかもしれないが、この例えがよくわからない時点でそんな方法が行われるのはあり得ない。
となるとやはり……。
触れていいやつ?
「なあ雫紅、そのう」
ピーンポーン。ピピピピピピピーポーン。
インターホンだ。肝心の所で役に立たなかった妹が帰ってきたのだろう。
鍵を持っている筈なのに何故わざわざチャイムを鳴らして開けさせようとするのか。わざわざ手間をかけさせないでほしい。
「出ないの?」
放っておこうかとも考えたが、定期的に初回同様のリズムが刻まれる。
腹が立ってきた。
鍵を開けてやるついでに一言物申そうとドアに手を掛ける。そこに、「あれ、なんで⁉」と驚く雫紅の声が重なった。
ガチャン。ドアが開く。眼前には───。
「
水も滴る外見だけは良い男、
そして向けてくるは手に掴んだスマホの盗撮動画。本物の警察官が警察手帳を容疑者に見せるときみたく、とても鮮やかな手付きだった。
動画には雨の中でもバッチリ家中へ連れ込むシーンが映っている。
「おまっ!
「当たり前だろ。月涙さん在るところに俺在りって学校で習わなかったのかよ」
手にした玄関の扉の
「どんな世界線の教育現場だよ。世も末過ぎんだろ」
それをバーの降りたETCのように、尾棘の胸の前へ手を出して制止する。
「彼女のせいで今やほとんど空だった写真フォルダの容量がとんでもないことになってんだ。確か38ギガくらいだっけな」
今度はその下を潜り抜けようとその身を屈曲する。
「お前絶対それ動画撮りまくっただろ」
それならと俺は足を出す。
「往生際が悪いぞ」
「こっちの台詞だっての」
雫紅も放置しぱなしになっているので、そろそろこの現状を打開すべきか検討する必要がありそうだ。
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