第33話 嗜好レストラン4
実際少し気にはなる。個人情報だし、しかも女子のモノ。この学校の生徒に限らず欲しがる奴は必ずいる筈なので、売れるとしたらいくらくらいになるのだろうか。
上手くいけば一〇〇万以上で売れそう。
「でもそれも面白いかもっ。特にネットオークションでやればより面白くなるかもね。フリマアプリなら値段を初期に決めちゃうけど、オークション形式なら値段がつり上がっていくし」
「冗談だぞ?」
このまま話が進むと人身売買のような危険思想に走りそうなので一度止めておく。
「じゃあさじゃあさ
「価値って……」
そんな大した話をしているつもりはなかったのに、どんどん話が重く、壮大になっていく。
「もしもの話だからさ」
「何か悩みでもあんの?」
「心理テストだよ、心理テスト!」
えー……。自分に価値を付ける心理テストならあり得るかもだが、他者に価値を付ける心理テストなんてあるのだろうか?そんなの『貴方の心の汚れ度診断』みたいな感じになりそうだけど……。
答えに
エプロン姿のせいで若いママさんみたいだ。
「どしたの雫紅ちゃん、
「あの、勝手にチョロいとか決めつけないで貰えます⁉」
入ってきていきなりなんだよ!
「じゃあ苫依君は実際の所、
「どうって言われても……」
「可愛いと思わないの?思ってるでしょ?素直にどうぞ、さん、に、いち、はい!」
「そりゃ可愛いとは思いますけど………」
「でしょでしょ。ね?だから雫紅ちゃんも心配しなくて大丈夫だって。もっと揺さぶっちゃえ」
「ん~。かなり揺さぶりを掛けてるつもりなんですけどね。一向に崩れる気配がないんですよ」
「案外そう見えてるだけで、もう地盤はボロボロだったりして」
バイトモードとそうでないときの差がとんでもない人だ。それに本来食事を届けに来た筈が本業を忘れて、すっかりお友達感覚で話に混ざっているのはどうかと思う。このままではいつまでも根掘り葉掘り聞かれかねないので、そろそろ料理の方へ目を向けて貰うことにしよう。
「そんなことよりもいつまで俺達の料理を持ったまま話し込んでるんですか。それを持ってくるのが仕事だったんでしょ?」
「あ、ほんとだ。すっかり忘れてたわ。まだ途中だったのよね」
テへっと照れた笑みを浮かべ舌をチョロッと出しながらウインクを決めた彼女は、両手に持ったお盆をそれぞれ俺達の前に置いていく。
幸いにもまだ湯気が立ち上がっているので料理は冷めていなさそうだ。
俺に渡された夕食は、ほんのりお焦げの混じった白ご飯に油揚げの味噌汁、主菜は鶏肉のグリル料理、プラスでクルトンが乗ったシーザーサラダと肉メインの構成だった。
また雫紅に渡されていたのは、普通の白ご飯に白味噌を使った味噌汁、主菜は
とてもじゃないがお互いに三五〇円クオリティとは思えない。カウンターの近辺では表と違って機械が稼働しているように見えなかったので、全て手作業で作られた可能性がある。これだけのものが食べられるなら、羞恥心を捨ててでもここへ来る価値はあるかもと思わせる食事だ。
「では私はこれで。二一時までなら何時間でも滞在していただいて構いません」
「そんなに長い時間居られるんですね」
「そうなのよ~。デート中に扉を開けるような無粋な真似はしないから、ごゆっくりお楽しみください~」
ニヤけ顔を露わにした彼女は、俺が何かを言う前にそそくさと部屋の外へ出て行く。
そのすぐ後にカチャンと軽い音が鳴り、外側から扉が閉じられてしまった。
鍵を貰った意味って何?
「早速食べようよ、冷めちゃうし。それにお腹も空いちゃったしね」
「そうだな。そんじゃま」
「「いただきます」」
手を合わせて感謝の念を込めてから俺達は箸を進めていく。
とにかく美味い。
箸が止まらなくなるとはまさにこのことだろう。ウチであやめが作ってくれる料理に勝るとも劣らない素晴らしい料理だ。
少なくとも二人とも二〇分近く黙々と食べ続けられるほどには。
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