第32話 嗜好レストラン3
「では
「二人で来てるのに一人用の個室にする意味ってなにかあるんですか?」
俺が素朴な疑問を尋ねると
「一名様用の部屋は二名様用の部屋に比べて狭くなるので、お互いの距離感が近づくメリットがあります。カップルのお客様はよりラブラブに、デートのお客様は親密度アップのチャンスになりますよね。九五パーセントの音声を遮断する特殊な防音材を用いた隔離空間となっておりますので、ちょっとやそっとの大声では隣の部屋に音が漏れることはありません。そのため他の人には聞かれたくない話をするのにはもってこいとなっています。ただし具体的に何とは明言いたしませんが、イチャイチャすることを目的とした場所ではありませんので、その点はどの部屋であろうともご了承願います。ただ後ほどお二方からお聞きしました
なるほど。そういうことなら狭い方を選ぶ必要もなさそうだが。とりあえず聞いてみるか。
「どうする?今の話を聞いてる限り二人用の部屋で良いと思うんだけど」
「私との距離が離れちゃうかもしれないけど颯希はそれで良いの~?」
「雫紅はそもそも距離感が近いからあんまり関係ないだろうが」
「あははっ、それもそうだね。じゃあ二人用の部屋でお願いしま~すっ」
「ふふっ、仲良いですね。
二人とも三五〇円ずつ丁度持っていたので、カウンターに置かれたカルトンの上に硬貨を並べる。俺達は現金で支払ったが、クレジットカード決済やバーコード系の決済、ICカードでの決済等々、名のある決済方法は可能らしい。
「ありがとうございます。その突き当たりを向かって左側にお進みいただき、この鍵で二一〇号室へお願いします。料理は私が持って行きますので、出来るまで少々お待ちください。ちなみに気を利かせて
「ありがとうございます」
無用な気遣いとも言い難く、素直に謝辞を述べておいた。実際に距離が近ければ何をし出すか分からないのがあいつの怖い部分なのだ。
俺達は店員の女性の指示通りに二一〇号室を目指す。突き当たりで右と左に別れており、左右に三列ずつ通路があるみたいだ。見ると左側は一人から三人用の個室、右側は四人から六人用の個室となっている。全体像としては、どでかいフードコートを区分けして作った感じだろうか。フードコートと言うとガヤガヤと騒がしいイメージを浮かべてしまうが全くそんなことはなく、むしろ街の一角にひっそりと
二一〇号室はソファ仕立ての椅子を向かい合わせに並べ、その間にテーブルが置いてあるだけの非常に簡素な部屋だった。壁紙も全方位がベージュ色になっていて統一感がある。イメージとしてはカラオケ店の小さな部屋を、もう一回り縮小したものと言えば分かりやすいだろうか?
部屋に入ると俺達は設置されたソファ仕立ての椅子に腰かけた。
「頃合いになったな」
「でしょでしょ?私だってちゃんと考えてるんだからね?」
「考えてるって言うなら、あの嗜好調査証の内容聞かれるのは勘弁して欲しかったけど。そうだ、俺『雫紅』って呼べるようになったし、その報酬としてそっちの嗜好調査証見せてくれ」
「ほよ、そうだよそれそれ。私が調査証について話そうとするとき耳を傾けすぎ!目はガン開きすぎ!どれだけ気になってんのさ」
「そりゃ気にもなるだろ。学校随一の有名人、
「売っちゃうの⁉」
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