第28話 過去レポ

「それで?行きたい場所があるって言うから付いてきてみれば、ウチの高校の食堂なんだけどこれはどういう事なんだ」


 宿泊要素なんてどこにあるのか理解出来ない部活の日。時刻は一八時半なので本来なら下校時刻を回っている。


「お前は何も知らねえのか?」

「ならお前はなんか知ってんのか?」

月涙つきなみさんが俺達には想像も出来ないような高尚こうしょうな考えの元にここへきたことを知ってる」

「そんな大層な事考えてないよ⁉先生に紹介されたのと、友達も彼氏と一緒に以前行ったことあるって言ってたから興味あっただけ。始業式くらい前からこの食堂に新メニューっていうか新コーナー?が増設されたんだって~。私その頃は居なかったから知らないけど」

「正確には春休みの頃だったと思いますよ」


 尾棘おとげが補足する。俺はそんな話全然知らない。

 元々鳴染なれそめ高等学校の食堂には、ラーメン屋、うどん屋、蕎麦そば屋、カレー屋、定食屋、そして購買のパン屋が存在している。購買方法はそれぞれの店のカウンター付近にあるタッチパネルで、食べたい食事を選べば良いだけ。お金を払うと選んだ商品がデータとして送られ、何を作れば良いのか機械が判断し作業に移る。ただラーメン屋なら醤油ラーメンか味噌ラーメン、うどん屋ならざるうどんかきつねうどん、定食屋ならとんかつ定食か焼鮭定食と種類に限りがあるのだ。


 なぜこうも種類が少ないか。

 理由は単純。ウチの食堂はほとんど全部が機械仕様になっていて、人間が行うのは出来上がった料理をカウンターに置く程度のもの。人員は多くても二人までだ。公立の高校が機械のスペックを高めるために出せる費用などたかがしれているため、いくつも種類を作るのは不可能らしい。

 そんな風に簡単な料理しか出来ないため安価ではあるのだが、どうしても同じ食事ばかりになるためきが早いという問題点を抱えたのがこの場所だった。


「俺高校入ってから一回しか食堂に来たことないから、元がほとんど分かんねえんだよなあ」

「えー、そんなに来たことないの⁉おいしいのに」

「魚介類のグラタンとか最高だったぞ」

「そんなメニュー、ウチの高校にはねえ」


 どこの店と勘違いしてんだ。


「それに俺は食べに来たんじゃなくて、学校にある教室とかの場所把握の一環で来ただけだし何もわかんねえわ」

「食べたことないなんて勿体ないよっ!私だってまだまだ食べてない料理も有るけど、今のところ一番はとんかつ定食かな」

「またベタなやつにいったな」


 雫紅しずくは手に持った鞄をプラプラ振りながらその良さを丁寧に解説する。


「だってほんとにおいしいんだもん。まず匂いから揚げ物特有の香ばしい香りが漂ってくるでしょ?それにお肉自体が美味しいのは当然のこととして、とんかつソースにほんの少しだけ混ぜてあるっぽいケチャップが、酸味と甘みをバランス良く引き立てていてとんかつと良く合うの。その上でね?そうやって上からソースを掛けちゃったら普通は衣がしんなりなって、揚げ物のサクサク感が楽しめなくなっちゃうんだけど、ここのはそんな風にならないの。あ、それとメインのとんかつだけじゃなくって周りの野菜も色とりどりで綺麗だったんだよね。大体の所ってキャベツをどーんって盛ってそれで終わっちゃうんだけど、ここはパプリカとかトマトとか色味の綺麗な野菜が添えられててね?それがメインをより引き立ててたんだよ。それでねそれでね?」

「もうお前食レポの仕事を探せよ」

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