第26話 颯希の説得
「お前らの気持ちはよく分かった。ここで朗報がある」
尾棘の言葉に
「月曜から一週間。使われる頻度が少ない教室を利用して
三度上がる歓声と、ハッと顔を上げ絶望の表情を浮かべる少女。
そんな
「文化祭じゃないから規模は小さくなるし良いですよね、先生?」
これまで空気と化していた先生だったが、尾棘に話を振られたことで存在感が元に戻る。
中身自体は聞いていたようで、返事はすぐに返ってきた。
「私は良いと思うわよ。貴方達で責任が持てるのなら自由にすれば?」
「ありがとうございます」
軽いな。
「あと許可を取らないといけないのは月涙さんだけか」
「一番重要な許可取れてないってもう計画として終わってるくね?」
「よし
「は?」
「何のためのお前だと思ってんだ。月涙さんの説得要員に決まってんだろ!」
「月涙さんの撮影係じゃなかったのか⁉」
「メインはこっちだ」
「女の子を泣かせる天才かよ」
「人聞き悪いこと言うな。女の子は自然と泣くもんだ」
「お前そんな感性持っててよく嫌われねえよな」
図らずも始業式の日と逆転した立ち位置。この圧迫面接みたいな環境下で残酷な頼みをするのは非常に申し訳ないと感じる。しかし逃げ出すなんて許さないとでも言うかのような重圧に耐えかねて俺は彼女の正面へ。
上目遣い×涙ぐんだ目の最強コンボで、俺に罪悪感を抱かせようとしてくる。
海中を漂うかのように揺れるポニーテール。
向こうが
俺はしゃがんで目線を同じ高さに合わせ、一言一言出来うる限りゆっくりと告げる。
「月涙さん」
「……………」
呼び掛けたところプイッと目線を外されてしまった。
なら
「力作ばかりを展示するつもりなので
「お前ちょっと黙ってろ!」
空気読めよ!そういう話じゃねえ!
尾棘の横槍によって意気込みをぶっ壊されそうになったが、改めて俺は羞恥心を噛み殺すため軽く唇を噛んでから、勇気を振り絞って口にする。
「なあ
命を吹き替えした生き物のように彼女の体がビクンと震える。
視線が合った。
「聞きたくない」
「自信を持っていい。雫紅は可愛い、だから───」
「ねえ、言わないで。颯希のために何でもするから、颯希のために何にでもなるから。お願い」
目尻に貯まった涙の輝きは小さな宝石みたいだ。
「だから撮った写真、展示してもいい?」
「………………………いじわる」
一筋の涙が頬を伝う。
なんか俺が泣かせたみたいになってね?
「どうぞ。好きに使って?」
けど、成功は成功だ。
ウワァァー‼っと爆発的な歓声が上がり、ライブのステージ顔負けの一体感が教室に溢れる。
…………。
…………。
…………。
ことはなく、クラスで流れるはうわぁとどん引きの空気。『あそこまで言わせといて泣かせるか普通』という声まで聞こえてきた。
「え、俺が悪いの……?」
期待していた反応と違う。てかお前らのためにやったことだぞ!
「私からしてみれば颯希のほうがよっぽど女の子を泣かせる天才だよ」
「うるせえ!」
「方針は決まったようね。それなら宿泊部の三人は使用する教室だけこの後職員室まで報告しに来なさい。そうすれば部の催し物として登録しておいてあげるから、頭のお堅い先生達にとやかく言われることは無い筈よ。満足したでしょう?ほら帰った帰った」
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