第23話 ニュース
確かに用紙を持つ右手人差しの腹には鈍く光る
とても正気の沙汰とは思えない。
「俺の見てないところで今度は直接脅されたのか⁉」
そうでもないと有り得ないだろうと考えての言葉だったが、返ってきたのは得てして予想とは違うものだった。
「……私、人のお願い断るの苦手なんだよね」
裏側を覗いた気がした。
「へぇ、それは初耳だな」
「…えへへへ~。もしこの場で
「男子からの告白は
「君は特別♪」
「
月涙さんの顔から零れた笑みまでは僅か一秒にも満たない時間だったと思う。その前の呟きが無ければ違和感など感じない間だった。
「ま、尾棘君の件は考えても無駄だし。なんとかなるって思っとこう!」
「そう言えばもう一枚紙を持ってただろ。そっちは何だったんだ?」
「お、
「そりゃあな」
俺が答えると嬉しそうな笑みを浮かべ、
「なんとなんと尾棘君の
「尾棘が新メンバーとして宿泊部に入部すると」
「世界一嬉しいニュースでしょ?」
「世界一悲しいニュースだな」
部員が増えたらその分楽しいと思うんだけどなあ、とぼやく彼女の言葉を適当に聞き流しつつ俺は更に気になったことを聞いてみる。
「で、内容に目は通したのか?」
「ふっふっふ、それがまだなんだよねえ。私は楽しみを後に取っておく派だからさ」
ようはご飯の食べ方みたいなものだろう。ハンバーグを先に食べるか後に食べるかみたいな。彼女は残して食べる派らしい。
「じゃいくよ。3、2、1、オープン!」
月涙さんの音頭に合わせて開帳されたそれを見る。
身長:160~164㎝ 体重:45㎏~49㎏ 髪色:黒系 髪の長さ:ロング
胸の大きさ:Cカップ 髪型:ストレート 眼鏡:無し 匂い: 特になし
嗜好タイプ:沈恋(ちんれん)
あなたはどこまでも深く、本気になれる恋がお好きなようです。興味の無いものに対して深く関わるようなことはしない代わりに、興味が有るものには何処までも嵌り、沈んでいく。
自分の愛情を興味の対象に
「世界一嬉しいニュースはどうだ?」
「世界一悲しいニュースだった……。私に身の危険が迫ってる気がする」
この世の終わりみたいな内容を見て、今更ながらその事実に気がついたらしい。なんとも遅すぎることこの上ないが、襲い来る脅威に気がつけただけでも僥倖だろう。
「月涙さん、愛情を強与されるらしいぞ」
「聞いたこともない言葉だね。検索しても出てこないし。難しい言葉ってのは世の中に色々有るものなんだねえ」
「多分押しつける的な意味なんだろうな。めちゃくちゃ尽くすタイプって言えば聞こえは良いけど、もし本領発揮しだしたら相当タチ悪いやつだろこれ」
それこそ月涙さんを悪い奴から守るぜとか言って、盗撮に飽きたらず、毎日家までの送り迎えを始めそうなイメージが湧く。
「ドンマイ」
「ねーえ、もっと無かったの⁉」
諦めろという意思も込めて言ってやったら怒られた。
「もし過激になるようならどんな対価も支払うから絶対助けてね!約束だよ?」
「分かった。そんなときが来たなら、優しく見守ってやるよ」
「ほよ⁉そこは助けて‼」
悲鳴に近い声が教室で弾けると共に、壁に建て付けられたスピーカーから雨がしとしと降るような音楽が流れ始める。
そろそろ下校の時間だ。
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