第17話 承諾
返ってきたのは思いも寄らない返事。まさに寝耳に氷や水を浴びせられた気分だ。
「いやいやいやいや、ちょっと待て」
「ん~?」
「本当にそれでいいのかよ⁉
「それ聞いてないし!けどまあそれを込みにしてもかな」
「……恥ずかしくないのか?」
「そんなわけ。でもそれ以上に価値のあるものがあったから」
「何それ」
「い~わないっ」
恥ずかしそうに俺から目を背けながら言う。千変万化する彼女の現在の面持ちは頬に赤みが差して恋する乙女のよう。
非常用に取っておいた策まで使用したのに効果はなく、何かを間違えたのか、それとも最初から無謀だったのかは分からないが、終わってしまった以上後の祭りだ。しかしなんとしても尾棘との約束を取り付ける必要がある。いざとなれば強行手段も視野に入れるべきか……。
まさか現実に『手荒な真似はしたくない』なんて言葉を使うときが来ようとは。
「なあ月涙さん、手荒な真似はしたくないんだ」
「手荒な真似なんて、なーんかやらしいなあ。私何されちゃうんだろ」
「なんで喜んでんのMなの?」
「違うけどっ⁉」
なら喜ばねえだろ普通は。
「颯希は私に尾棘君と会って欲しいの?」
「そう。だからどうすれば会ってくれるか模索して今日この場に臨んでんだ」
「策を
「うるせえ!」
「じゃあさじゃあさ、
「…………」
こんな条件を出されるなら、先にこの話を言わなかったことが悔やまれる。俺の人生は後悔ばかりだ。
「俺の被害どころか、そっちの風評被害がとんでもないことになるんじゃねえの?」
「いいよ別に」
「俺と付き合ってるとか思われたり、変な目で見られたりするかもだぞ?」
「どうせ釣り合ってないとか、
「俺は致命傷だ!」
「さあ早く早く」
恥ずかしい。ただただ恥ずかしい。唇を噛みしめながら今度は俺が視線を逸らす番だった。だがそこは彼女のこと。そうやすやすと逃してくれるわけもなく………。
先日同様立ち上がる。視界の端で揺らめく毛髪の尻尾。カーテンのように靡くスカートの
「言ってみて?」
俺の肩に両手を置き、体を前に倒して軽くもたれかかってくる。カッターシャツ越しで背中に伝わるまるっとした柔らかい感触。背骨を中心にして右と左で一つずつある感覚が、妙に鮮烈な記憶処理を施した。
恥ずかしさを誤魔化すように反射的に見上げたところ、ふわっと生暖かい吐息が降りかかった。上から覗き込むような体勢で俺を見ていた彼女の顔が鼻先数ミリの距離にある。重力に従ってはらはらと落ちてきた胡桃色の髪束を耳に掛ける手つきが
言葉も何もないまま互いの視線は絡まり合い───。
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