第13話 尾棘綱道脅しの儀式2

 尾棘おとげの条件を呑み場所を変えた俺は人通りの少ない校舎の中を抜け、北校舎の裏手に辿り着いた。

 周囲には自転車登校の生徒のためにもうけられた駐輪場があるくらいで、これといった特別な物は何もなく人目にも付きにくい。こそこそと話したいのならもってこいの立地だろう。

 リンチにされるのかと一瞬焦りもしたが、とてもそんな重苦しい空気感はないので一安心だ。


「この写真が何かは分かるよな?」


 再度俺と月涙つきなみさんが写った写真を見せながら尾棘が尋ねてくる。


「俺が月涙さんにささやかれているところを映したモノだろ」

「へえ、本来はそう言う場面なのか。けどコレを他人が見たならどう見えるかは想像つくよな」


 想像のつかないわけがない。まず間違いなく二人で抱き合っていると思われるだろう。実際間違っているとも言い難いのが言い訳のしにくいところだ。


「この一枚だけ撮ったのか?」

「んな訳ねえだろ、もっとある。けど……、一枚一枚スマホのフォルダから見せるのはやっぱ面倒くせえな。こっちの方が手っ取り早い」


 そう言うと鞄を地面に下ろし、その中からクリアファイルを出してきた。完全に透明ではなく不透明な白色のそれ。透けて見えはせずとも中身の輪郭だけは露わとなり、アルバムなどで見覚えのある89×127ミリのとある物体が多数見える。

 そう、現像済みの写真達だ。


「…………」


 俺はただただ絶句するしかなかった。

 一部始終を捉えたどころの話ではない。そこには一から十まで全てが収められている。しかもメインでえられているのは月涙さんだ。


 窓外そうがいを眺める月涙さん。手を振る月涙さん。俺と向かい合って普通に話している月涙さん。頬を突いている月涙さん、突かれている月涙さん楽しそうな月涙さん恥ずかしがっている月涙さん───。数えども数えども終わりが見えない。ありとあらゆる彼女の姿が記録されており、これだけで三冊くらいアルバムが埋まりそうな勢いだった。

 一○○枚超えてるんじゃないか……?


「どうだ俺のコレクションは。と言ってもここに動画も加えないといけないから、もう少しあるんだけどな」

「……動画?」

「ここまで見せたし、まあいいか。これだよ。これについては永久保存版だ」


 今度は先程見せてきたスマホに記録された動画を再生する。流れる音声。

 

 そこでは月涙さんがオギャっていた。

 何回聞いてもこれは可愛いと思う。永久保存したくなる気持ちも分からなくは無い。

 ただこれらのことから推測するに……、


「お前やっぱストーカーしてね?」


 他の誰でもなく狂信者はコイツだった。

 一応出てきたトンデモ写真達はこの間俺達が特別準備室で会っていた時のものが大半を占めていたのだが、彼女と話した記憶の無い場所で撮影された写真も数枚見受けられる。それら一切が学校内で撮られたものであったことが、せめてもの救いだったかもしれない。

 学外でも行いだしたらそれこそ本物の、まごうこと無き犯罪者だ。


 あれ?現行犯逮捕するためにむしろ外で撮らせるべき?


 とにかく客観的に見るとどう頑張ってもストーカーにしか思えないのだが、本人は反発した。


「違う、俺はストーカーじゃない。ブロマイド用に月涙さんの写真を撮ろうと後を付けていただけの写真家だ」

「それをストーカーと言わずしてなんて言うつもりなんだよ」

「プロゴルファー?」

「フォトグラファーの間違いだろ」

 アイアン握ってパコンじゃ無いんだよ。

「ストーカーってのはつきまとい行為のことだろ?まだ数日しかしていないのにつきまといとは失礼な。俺のランクはまだ尾行者止まりだぜ。もっと俺のつきまとい行為の熟練度が上がってから、ストーカーと認定して貰いたいね」


 尾棘は不服そうな顔をしてケチを付ける。こいつにとってストーカーと言う言葉はつきまといマスター的な意味になり、目指すべき高みみたいなポジションのようだ。

 早速写真家じゃ無くなっている時点でどうかと思う。

 納得いかねえ。

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