第6話 新学期の始まり

 鳴染なれそめ高等学校二年二組。

 ヒュウっと生暖かい疾風が吹き抜け、俺は慌てて机に置かれたプリント類を押さえつけた。

 始業式が終わり、教室で担任の蜜食みつじき先生が話をしている。

 出席番号順の席なので、一番後ろの列の左から三番目が俺の支配領域となっている訳だ。一番後ろの席の中でもど真ん中に位置するこの席は、クラスの人間を後ろから見渡すことが出来るので、さながら民を俯瞰ふかんする王様の気分を味わうことが出来る。

 全く楽しくないけど。

 周りを見ても退屈そうにボーッとしている生徒や、こくりこくりと寝かかっている生徒が大半で変化が少ないのだ。

 大して代わり映えの無い教室を見ていてもつまらないので俺も顔の向きを変え、少し遠い窓の外を静かに眺める。

 去年初めてこの学校の校舎をくぐり正真正銘の高校生となったわけだが、そのときから感じているのは、中学の時と然程さほどの変化がないと言うことだった。いや、小学生の頃もそうだったかもしれない。

 しかしそれでいい。

 家族はある程度通じ合っているため気にはならないが、他人とあまり込み入った関係にはなりたくないのだ。

 ①顔を背けておく+②声を掛けられたら目を合わせない+③会話は最小限に。

 これらを極めると人と接する確率が格段に低下する。多少声を掛けられても一言二言興味なさそうに返事をしていれば、それだけで他者からの興味も必然的に薄れていく。そうやって一人の世界を構築していくのだ。

 お陰様で必然的にクラス内で孤立してしまうがむしろそれが狙い。ぼっち生活万万歳ばんばんざい

 そう思っていた。

「────それじゃここからは月涙つきなみ雫紅しずくさんにバトンタッチするわね」

 ふとそんな声が聞こえてきて横目でチラリと前を見た。すると前の女子生徒が席を立ち、教卓に向かって歩みを進めている姿が目に映る。きっと今しがた聞こえてきた月涙雫紅という名前は彼女のことなのだろう。

 胡桃くるみ色の髪をちょこんと結わえたポニーテールが、彼女の歩みに合わせてポンポンと弾み、薔薇の花を思わせるチェック柄のスカートからすらりと伸びた足がとても美しい。長めのセーターの袖から見え隠れしている彼女の白く細い指はまるで百合ゆりの花のようだ。

 美少女とはあんな子のことを指すのだと思う。

 とても綺麗だ。

「おはほよよんっ♪はっじめまして~、今年からこの学校に通うことになりました転校生の月涙雫紅と言います。今年一年間よろしくお願いね!っと、そんなことはどうでもいいや。早速なんだけど今から渡す封筒に、A4版の紙が一枚と学生証が入ってるか確認してくれる?」

 今さらっと重要な情報が流されたような。

 高校生で転校生って言えば、よくあるお決まりイベント発生のフラグ立てみたいなものなのに、あの女子、初手に旗を根元からへし折りやがった!

 だが彼女はそんなことを気にも留めていないようで、教卓の棚の中からプラスチックケースにまとめられた大量の茶封筒を取り出し、中身を右端の席から順に一人ずつ配っていく。ただ、どうも配られた生徒の様子がおかしい。

 配布しているのは生徒ごとに名前が書かれたA4サイズの茶封筒みたいだが、中身を見た生徒は皆、ギョッと目を見開いてをすぐに机の中にしまっていく。

「はいこれはあなたの分ね」

 自分の番が近づいてきて、俺の二つ前の席に座っていた男子生徒のものが見えた。


身長:155㎝~159㎝ 体重:50㎏~

胸の大きさ:Bカップ 髪型:ツインテール


 ん?なんか嫌な予感がするな……。俺は彼女のことを直視しないよう視線をずらして対応する。

「はい、あげる」

「……どうも」

 視界の端に見える彼女の手から渡された封筒を切り中身を取り出すと、そこには……。


苫依とまより颯希さつきくんの嗜好結果


身長:148㎝ 体重:40㎏~49㎏ 髪色:茶系 髪の長さ:ミディアム 

胸の大きさ:Eカップ 髪型:ポニーテール 眼鏡:無し 匂い:ミントの香り


嗜好タイプ:焦恋(しょうれん)


あなたはらされて焦らされて、もどかしい恋がお好きなようです。相手の女性との親密度は高く、好意を向けられているのではないかと感じるにもかかわらず、その女性が明確な言葉を発することはなく焦れったい。本当のところはどう思っているのかと、悶々もんもんとした関係性を好む傾向にあります。


 ですよね⁉そんな気はしてたんだよ!

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