第4話 生徒嗜好調査1

 三〇分後。


 作ってくれた焼きそばを完食した俺は、半ば妹に手伝わされる形で昼食の洗い物を手伝った。妹が丁寧に洗った食器を洗いおけに入れ、俺はそこから取り出して雑に泡を落としていく。洗い桶から食器を取り出す際に食器と食器がこすれ合いカチャカチャと甲高い音が響くのを聞くと、今にも割れてしまいそうで怖い。


 じゃあ丁寧にやれよって話だけどな。

 昼食の分しか洗い物が溜まっていなかったこともあり手早く済ませた俺達は、両親が待つ居間へと向かった。


 テーブルには既に問題の封筒が出ているので、俺達が洗い物をしている間に散らかった新聞や広告の束の中から探し出してくれていたのだろう。

 俺は封筒を手に取ると先程同様、父親の隣に腰を下ろした。妹はカーペットに座る母親の隣に座ったようだ。

 さてどんな中身なのか、ご対面といこうじゃないか。


「てか、あやめと母さんが中身を見たのは聞いたけど、父さんはどうなんだよ」

「俺はときちゃんとあやめが楽しそうに話してるのを、睡眠薬として利用しながら眠りについたから何にも知らん。だからどんなものだったのかちょっと楽しみなんだよ」

「いやあ、お父さんにも是非見てほしいなー。私達が一生懸命お兄ちゃんのことを考えて書いた傑作からさー」

「そんな評価が高いと怖いんだけど。中身って何だったんだ?」

「それは見てのお楽しみでしょー。どうぞどうぞ、その目でじっくりとご覧あそばせー」


 封筒を持った感じは何も中身が入っていないかのように思える軽さなので、本当に必要な書類のみが入っているようだ。

 俺が意を決して中の書類を取り出すと、持った感覚と違うことなく、入っていたのは数枚のB5用紙と一枚の封筒だった。

 とりあえず中身を取り出し空っぽになった封筒は用済みなのでテーブルに放っておく。

 改めて用紙の一枚目を確認すると、横書きでこんなことが書かれていた。


「なになに、『重要書類配布のお知らせ。提出期限までに嗜好しこう記入表の提出をお願いいたします。』?」


 嗜好記入表とは何ぞや。


「その下に書いてあるけど、一応提出期限四月二日までらしいから、提出漏れの内容に気をつけなさいね」


 明日までの書類なんてまた急な話だな。

 確かに母親の言う通り提出期限についての情報に加え、『提出期限に遅れた生徒には厳正なる処分を受けていただく場合があります。』と記載されていた。

 それだけなら特になんとも思わないが、最初の文面を読んでいる傍で妹が口元をプルプル震わせているのが気になる。


「なんか楽しんでない?」

「え~、そんなつもり無いけどな~」


嘘つけ!


「早く続きも見てみて」


 妹に急かされるまま次の用紙に移ると、ホッチキス止めされた用紙が顔を出した。


鳴染なれそめ高等学校では今年度から生徒嗜好調査を実施することとなりましたので、同封されている書類(嗜好記入表)の項目を記入の上、返送用封筒で送り返してください。尚、この書類は鳴染高等学校二学年の男女生徒を対象としたものですので、該当者以外の記入はご遠慮願います。』


「生徒嗜好調査って何」


思考とか試行とかならともかく、嗜好ってなんだよ。

 エイプリルフールにかこつけて、学校が送りつけてきた代物だろうか?

 得体のしれない書類に不信感を覚えつつも確認しないという選択肢はなく、俺は恐る恐る紙を捲った。

 ペラリ。


 選択肢を用意しておりますので、当てはまる選択肢の番号に丸をつけてください。尚、その他を選択された場合は具体的に記入をお願いいたします。

  

質問1、好みの身長

1、150~154㎝ 2、155~159㎝ 3、160~164㎝ 

4、165~169㎝ ⑤、その他「 148㎝    」


質問2、好みの体重

①、40㎏~49㎏ 2、50㎏~59㎏ 3、60㎏~69㎏ 

4、70㎏~79㎏ 5、その他「     」


質問3、好みの髪色

1、黒系 ②、茶系 3、金系 4、赤系 5、その他「     」


質問4、好みの髪の長さ

1、ショート ②、ミディアム 3、ロング 4、その他「     」


質問5、好みの胸の大きさ

1、Aカップ 2、Bカップ 3、Cカップ ④、その他「 Eカップ 」


質問6、好みの髪の形状

1、ストレート ②、ポニーテール 3、ツインテール 

4、ハーフアップ 5、その他「     」


質問7、眼鏡の有無

1、有り ②、無し


質問8、好みの匂い(自由回答)

「     ミントの香り      」


 質問は以上になります。提出期限までに提出をお願いします。


「いやいやいやいや、ちょっと待て!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る