第3話 春休み
カーテンの隙間から目映い陽光が照りつけ、眩しさに目が覚めた。
右手を枕元へと動かし手探りでスマートフォンを探し当てる。
四月一日、月曜日。
午前一〇時四八分。
夜中の三時頃までゲームをしていたため、起きるのが遅くなってしまった。
普段なら学校に遅刻している時間だが、今は春休み。どれだけ夜更かししたって学校への影響は何もない。あるとすれば、親と妹にぼやかれるくらいだ。
寝転びながらスマホと三〇分近く戯れて目を覚まし、ようやく布団から出る決心がついた。階段を降り一階の洗面所へ赴くと、眠そうな自分の顔と対面して俺の一日が始まる。
顔を洗い眠気を吹っ飛ばすと、服を着替えに二階の自室へ戻った。どうせ一日家でゴロゴロするのは目に見えているので服を選ぶ必要も無く、引き出しの一番上に入れてあった服を選び取る。
さてと、飯でも食うか。
「あ、やっと起きてきた。お兄ちゃんおそーい」
服を着替え終えた俺が一階の居間へ行くと妹の声が飛んでくる。料理のために邪魔だったのか髪を後ろで括っていた。
どうやら母親と妹のあやめがキッチンで昼食の準備をしていたらしい。父親はソファに座り新聞を両手で広げているが、こくりこくりと今にも寝そうな動きをしているので、内容が頭に入っているかは怪しそうだ。
「へーい、おはよう。俺の分の昼飯も一緒に作ってくれよ」
「言われなくてもそのつもりだから、ソファにでも座って待ってて~」
それじゃあお言葉に甘えて。
父親の隣に半ば尻からダイブするように座ったことで父親の体が軽く浮き、その衝撃で眠気が飛んだようだった。
「お、
「そりゃそうだろ」
「そりゃそうだな。夢の世界でときちゃんとデートしていた俺には、知る由もない話だった」
「その呼び方何とかならねえのかよ。あともう十二年もすれば還暦を迎えるいい大人が、毎度毎度ときちゃんときちゃんって、いい加減
「こらこらそんなこと言わないの。
父親の言う『ときちゃん』とは母親のことを呼ぶときの愛称で、本名は
ウチは母親、父親、妹、俺と四人家族で、両親は同じ職場で働く会社員だ。
年齢は四八歳と同い年で、入社タイミングが同じだった上に初期の配属部署まで被っていたという。まあそれだけで仲良くなるかと問われれば微妙なところなのだろうが、なんでも配置換えになると毎回同じ部署に移されるという奇縁があるとのこと。
例えば父親が企画部から営業部へ
そんな二人の夫婦仲は先ほどのやり取りからも分かるように順調そのもので、旅行中は勿論のことスーパーへ買い物に行ったときでさえも、手を繋いで仲良く二人で歩く姿を目にする機会は多い。個人的には何を見せられているのだと甘すぎて吐きそうになるのだが、そんな視線などいざ知らず、
普段から甘々姿勢な二人が仕事場でもあの調子ではないかと心配になるが、真剣に取り組んでいるからこそ俺もあやめも特に不自由をする事無く暮らせているのだろうし、そこには感謝しなくてはなるまい。
「お待たせー。ご飯できたからお父さんもお兄ちゃんもこっちに来て座って~」
俺にとっては朝飯兼昼飯となる食事が出来たらしい。
あやめの呼びかけに応じて俺と父親は食卓に移動し、母親と妹の着席を待つ。
今日の料理はざく切りにされたキャベツをこれでもかと入れた、大盛りキャベツ焼きそばか。
その後二人とも席に座ったので、俺は焼きそばを口に入れてモグモグしていると妹から声をかけられた。
「ねえお兄ちゃんさあ、休日いっつも昼前まで寝てるけど、もっと早く起きてくることは出来ないの?せめて九時くらいには起きてくれないと片付かないから困るんだけどー」
「片付かないものなんてあるか?洗い物とか朝昼兼用なら朝の分の食器は洗わなくて済むし、むしろ楽だと思うけど」
「洗い物はそうだとしても、お兄ちゃんの服が洗濯できないんだよねー」
ウチは俺以外早起きなので、朝の八時くらいには洗濯機を回していることが多い。
そのくらい早い方がベランダに干す時間も長くなるためいいことだが、俺の起きる時間では当然間に合わないのだ。
かといって自分で手洗いして干す訳でもないしな。めんどくさいし。
「そうそう朝と言えば、新聞を取った時にさっちゃん宛の封筒が届いてたのよ。学校から親展扱いで送られてきた書類だったし私のほうで必要部分は記入しておいたから、ご飯を食べ終わったら中身に間違いないか確認してくれる?」
居間のテーブルを指さしながら、母親がそんなことを言う。
「ちなみに私も協力して書いてあげたんだから感謝してよね」
春休みに学校から書類が送られてくるなんて言われていた記憶が全くないので、何の話かさっぱり掴めない。後で見てみるしかなさそうだ。
あとさっちゃんって呼び方、もうじき高校二年生になるのに、いい加減恥ずかしいんでやめてもらえませんかね。
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