第37話 皇妃の愛娘
リーはほとんどアレックスを憎んでいるような、
「アレックス、トマス卿、落ち着くんだ。メアリーの対応については私から話すと言ったろう。リーは私の話した条件をすべて拒否してエル城に一家で戻ることに決めた。アレックス、お前もこれ以上口出しすることはない」
リチャードは重々しい声で言った。皇帝の言葉に広間中が静まり返り、今や上座のまわりの四人が注目の的になっていた。
アレックスは落ち着いてはいるが、一歩も引く気配はない。リーは青筋立てて若い皇子を睨みつけていた。二人の間で、メアリーは真っ青になって泣きそうな顔をしている。リリィはメアリーの打ちひしがれた顔を見ていられなかった。
「トマス卿、無理なことを頼んでいるのは
リリィが
「姫君、妻と娘を評価してくださっているのはとても光栄です。しかし、さっきも言いましたが、これはもう決まったことでしてな」
リーが氷のように冷たい声で言った。
これでメアリーのエル城行きは決まったもののようになった。アレックスは成す術なく怒りを抑えている。メアリーはリリィとアレックスにキスしてから大広間を退出しようとした。
「おはよう、メアリー」
皇妃がすれ違いざまにメアリーに挨拶した。
「おはようございます、お妃さま」
メアリーが膝を折って挨拶し、無理にでも笑顔を浮かべようとした。ヘレナが眉をひそめ、メアリーの顔を見つめる。メアリーは慌ててその場を立ち去ろうとした。
「メアリー、どうしたというの?」
ヘレナが優しくそう言い、メアリーの肩に触れて立ち去ろうとするのを止めた。
メアリーが喋ろうとして面を上がる。ヘレナの気遣わしげな顔、それにいつもの香水の匂い。そこには、メアリーがいつも求めていた母性に満ちた優しい顔があった。言葉よりも先に涙が
ヘレナはメアリーにハンカチを貸してやると、広間の奥、上座の方に向き直った。きつい目をしている。
リーは皇妃の鋭い視線にであって、自分の立てていた計画をすべて観念した。その日イリヤ城を去ったのは彼一人だけである。アビゲイルもメアリーも皇妃の意向で宮廷に残ることになった。皇帝にも解決できなかった問題をヘレナがメドゥーサかなんかのように、ひと睨みで片付けてしまったのだ。
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