第5話 メイドの日常のにゃんこ族

 朝早く、御主人様の部屋を掃除し始めます。御主人様はベッドの奥地で寝ています。


「朝ですよ、御主人様」

「もう少しだけ……」


 しょうがない御主人様です。そう言えば、日記帖に私がベッドの中に入ったとのくだりがありましたが、あれは猫の姿です。御主人様に抗議しようか迷っていると。


 ベッドの奥地から手が伸びて足首を掴まれます。


「捕まえた、また、ベッドの中で温めてくれないか?」


 私は渋々、猫の姿になり、ベッドの中に入ります。


かーつ!!!


 御主人様は私の尻尾を掴みおもちゃの様に扱われます。私はベッドから飛び出ると人の姿に戻ります。


「御主人様、メイドに手を出してはいけません」

「ゴメン、つい……」


 御主人様は素直な方です。ちゃんと謝ってくれる。私はそんな御主人様の事が大好きです。おっと、これは秘密でした。


*** 


とある日


 私は夜勤の時に兵士さんに渡す軽食の種類を増やそうと思い。厨房に来て調理長さんに新な料理を教えてもらっています。


「で、何が作れるようになりたい?」

「オムライス……」

「承知した」


 料理長さんは寡黙な方で、まさに職人との感じです。


「メイルさんはにゃんこ族だよな?」

「はい」


 何やら料理長さんがモゾモゾしています。私の経験上、料理長さんは猫の私をナデナデしたいはずです。


「私をナデナデする?」


 少し意地悪ですが、上目づかいで問うてみます。


「うううううう、俺は硬派だ、猫をナデナデなど要らぬ」


 あきらかに動揺しています。私は暖かい中庭に料理長さんを連れ出すと。三毛猫の姿になります。


「うううううう、可愛い……」


 私は更に料理長さんに足にスリスリします。料理長はプルプルと震えながら私の頭をナデナデします。


「俺の負けだ、膝に入ってくれないか?そして、もっとナデナデしたい」


 料理長さんはベンチに座ると顔はふにゃふにゃになり私を求めます。そこで私は料理長さん膝の中に入ります。


「し、幸せだ……流石、にゃんこ族」


 幸せを呼ぶにゃんこ族……昔から言われる理由が分かった気がします。


***


 雨の日の事です。秘書のシラセさんが難しい顔をしています。シラセさんは政府から派遣されている御主人様の監視役です。私が近づき挨拶をすると。


「貴女だったわね、私の上司が恥をかかされたと抗議が来ています」


 間違いなく、ズラの件です。私は反省していると適当に嘘を言います。


「私もあの上司の事は好きではありません。しかし、仕事です」

「日記帳のお使いをクビになったのですか?」


 私の問いに更に難しい顔に成ります。


「魔導列車は乗り心地が良い物ではありません。結果、貴女を雇ったのです。これからも日記帖のお使いはお願いします」


 ああああ、あのズラ野郎にまた会うのか……。


「それで、貴女、ポーカーフェイスは出来て?」


 仕事の為に感情を見せるなと言いたい様です。自由気ままな、旅人の私には無理な芸当です。


 しかし、数多くの苦難を乗り越えてきた私には不可能ではない事です。


「大丈夫です。私は雑草よりしぶといです」

「それを聞いて安心したわ。それでは約束よ、上司の前で猫の姿に成らない事をお願いします」


 それって、にゃんこ族の否定ですが、お仕事です。私は肯定の言葉を秘書のシラセさんに言います。


 あああ、あのズラ野郎にこびをうるのか……。


 気の重い気分になりました。


***


 わたしは汗を拭い廊下のモップがけをしていると。メイド部長さんに声をかけられます。


「メイド部長さん、何でしょう?」

「メイルさん、中二階の部屋に掃除がお願いできて?」

「はい、問題ありません」

「でも、ホコリに満ちているから大変な仕事よ」

「任せて下さい」


 その後、掃除道具を持って中二階の部屋に向かいます。そこは本の山でした。どうやら、御主人様のお父様がコレクションした本の様です。


 そもそも、何故、御主人様が政府に目を付けられているかと言うと。国王の従兄にあたるのが御主人様のお父様です。


 政府が警戒しているのがクーデターです。王族の血を引く御主人様は存在してはならないのです。実際、世間では御主人様の両親は暗殺されたと噂で持ち切りです。

しかし、実際の所は不明です。


 おっと、そんな事よりこの部屋の掃除です。そこに有った本は歴史学に生物学、古代哲学と……。


 難しい本ばかりです。


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