第三話『黒い布』

「…………糸?」

 街灯に照らされ、細い線状に輝くものがあった。いつも使っている公園で、かなめは今までこんなものを見たことがない。

 それに、飛んできたものが付けた線の上にある。恐らく、中身の一部がこぼれ落ちたのだろう。

 そう判断した要は恐る恐る手に取ってみたが、拾う時に信じられないほど細いことが分かった。

 試しに軽く引っ張ってみたが、切れる様子はない。

 次に指に巻いてみると、しなやかに指に巻き付いた。

 かと思えば、手を離すと粉雪のようにさらさらとほどけていく。

 その上、驚くほど細いにもかかわらず、明け方の微妙な光でさえ輝いて見えた。

 そんな未知の物体は、要から離れるにつれ――落下したものに近づくにつれて量を増やし、黒い布の近くには束になって落ちていた。

「これは…………いやいや、流石に無いって……」

 ただ、要はこれが何なのか、落ちている物のシルエットを見た途端に判断することを拒んだ。

 もしもその判断が正しいなら、要は拾ったものの正体が判明することになるからだ。ただし、それは同時に凄惨な現場に直面していることにもなる。


 でも、この黒いボロ布をめくればその答え合わせができる――


 そんなある意味くだらない好奇心が、心的外傷トラウマを受けるリスクを避けようとする忌避感きひかんよりもわずかに勝ってしまった。

「ええい、ままよ……っ!!」

 要は意を決して黒い布をめくり、その中身が何なのかを確認し――

「な、なんだよこれ」

 ひどく困惑した。

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