第二話『飛んで来たモノ』

 それは、かなめの視線の先から飛んできた。

 最初は『黒いゴミ袋が飛んできた』と思った。でも違う、ゴミ袋が飛ぶことはあっても、今は風が全く吹いていない。

 次に『カラスが飛んできた』と考えた。しかし、これも違う。カラスにしてはあの大きさは大きすぎる。

 そして『黒い何かが飛んできた』と確信した。


 ただ、その『何か』が何なのかは全く分からない――


 それの正体を判断しようとしていた要だったが、スピードは緩まることなく要の方に飛んできている。もちろん、直撃すれば大怪我では済まないだろう。

「やばっ……」

 早くここから逃げなくては――そう思って動き出そうとした要だったが、足がすくんでしまっていたことに、今更になって気がついた。

「え、ちょ待――」

 飛んでくる向きはほぼ正面、避けようにも体は動かない。

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 ただ身をかがめて、死を呼ぶ衝撃に恐怖しながら叫ぶしかなかったが、要の運の神様は彼を見捨てていなかったようだ。

 衝撃が来ることはなく、代わりに近くで地面と何かがこすれる『ザザザッ――』と言った音と、猛烈な風が肌を叩いた。

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 身をかがめたことが功をそうしたのか、元々その軌道上に居なかっただけなのか、理由はどうであれ要の命のともしびが消えることはなかった。

 助かった事が分かると、安堵あんど感から力が抜ける要だったが、次は落ちてきた物が何だったのかを確認したいという好奇心がき上がってくる。

 恐る恐る目を向けた要だったが、その先の光景は異様なものだった。

「……なんだよこれ……」

 端的に言えば、地面に一本の線が書かれていた。

 ただ、その太さは要の肩幅より広く、長い。

 そして、落ちてきたものが何なのか――……線の先をたどると、それが落ちていた。

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