第12話 極上のつけ麺
近くのコンビニで掃除用具を買い揃え依子に家に戻って来た俺は、3時間程度の時間を使い部屋を出来るだけ綺麗にした。
綺麗にしたといっても俺がしたことといえば、部屋に散らばっていたゴミをコンビニで買ってきたゴミ袋にまとめ、掃除機をかけただけである。
正直これだけでは全然物足りない。掃除機をかけたとはいえ部屋はまだ埃っぽいので、掃除用具一式を揃えて部屋の隅々までしっかりと掃除をする必要があった。
「よし、これで殆どのゴミはまとめられたな」
「私の部屋ってこんなにゴミがあったんだ」
「そうだよ。ずっと部屋の中にゴミを溜めておくから、こんな事になるんだ」
俺がまとめたゴミ袋の数は合計20袋。それを燃えるゴミや燃えないゴミ等、ゴミの種類に応じて分別したのでものすごく大変だった。
「ゴミ袋の表面にゴミ捨てをする日付けを付箋で張っておいたから、その日にゴミを出してくれ」
「わかった。でもこの漫画はどうするの? 私、漫画だけは絶対に捨てたくないよ」
「そんな事はわかってるよ。入りきらない漫画は今度本棚を買ってそこに入れよう」
「わかった」
「そしたらいつ本棚を買いに行く? 俺は終日空いてるから、依子の予定に合わせるよ」
「私も特段予定がないから、いつでも大丈夫だよ。今はやることがなくてすごく暇してるから、啓太が決めた日に行こう」
「わかった。それなら詳しい予定はまた明日考えよう。依子もそれでいいな?」
「うん、それでいいよ」
ここから1番近いホームセンターはどこだろう。この辺の地理には疎いから、あとで場所を調べた方がいいな。
それかホームセンターよりも家具屋に行った方がいいか。あそこはホームセンターよりも値段は張るけどいい物が買えるから、長期的に見るとそっちで買った方がお得かもしれない。
「私の家って、こんなに広かったんだ」
「どうだ? さっきより綺麗になっただろう?」
「うん。掃除する前とは全然違う」
「そうだろう。ゴミを片付けるだけで、こんなに綺麗になるんだよ」
この部屋を訪れた時とは見違えるほど、部屋の中は綺麗になった。
正直これでも物足りない。明日ここに来る時は必要な掃除道具を一式揃え、万全の状態でこの家の掃除をすることにしよう。
「片付けも一段落したし、遅くなったけど昼食を食べるか」
「やった! もう私お腹がペコペコだよ!」
「すぐ準備をするからそこで待っててくれ」
「わかった」
「依子、鍋とお椀はどこにある? もしそれを持ってるならすぐ使いたいから、置いてある場所を教えてほしい」
「お鍋ならそこの食器棚に入ってるよ。たぶんお椀もそこにあると思う」
「わかった。そしたらこの鍋でスープを温めるから、ちょっと待っててくれ」
俺は棚から片手鍋を取り出すと1度流し台で水洗いをした後、買ってきたつけ麺のスープをそれに入れて温める。
キッチンはIH式のシステムキッチンを採用しており、俺の家のキッチンよりも1000倍使いやすい。ただ使用した痕跡がないので、普段は全く使っていないようだ。
「啓太は何でスープをレンジで温めないの?」
「レンジで温めてもよかったけど、俺はこのやり方が慣れてるからこっちにした」
「要は啓太の気分ってことね」
「まぁな。それにレンジでチンするよりも、こっちの方が料理を作っている感じがしていいだろう」
「確かにそうかもしれない」
「よし、スープが程よく温まってきたし容器に移すぞ!」
IHコンロの過熱を止め、先程水洗いしたお椀にスープをうつす。
それから片手鍋を綺麗に洗い、もう一方のスープを温めた。
「啓太って料理上手なんだね」
「褒めてくれるのは嬉しいけど、これを料理とは言わないよ。ただ鍋でスープを温めてるだけだから、何もしていないのと一緒だ」
これを料理と言ってしまえば、何でも料理と定義できる。
それこそカップラーメンを作る事さえ料理と分類されてしまう。なので今俺がしていることは大げさに褒めるような事ではない。
「スープを温め終えたらそっちに持って行くから、依子はそこに座って待ってて」
「わかった」
2種類のスープを温め終えた俺は、それらをテーブルまで持って行く。
テーブルでは麺やトッピングをテーブルに準備した依子が、俺が温めたスープを待っていた。
「お待たせ。スープが出来たぞ」
「何で2種類のスープしかないのに、お椀を4つも持ってきたの?」
「せっかく2種類のスープを買ってきたんだから、両方のスープを食べ比べしてみたいだろう?」
「うん」
「だからスープを半分ずつ分ける為に持ってきたんだよ。魚介系のスープと豚骨系のスープで分けてあるから、別々の物を取ってくれ」
「わかった」
依子の前に2種類のスープが入ったお椀を置く。
お椀を置くと箸を持った依子が、すぐさまそのつけ麺を食べようとした。
「ちょっと待て」
「今度は何よ!! あれだけ部屋の掃除をさせておいて、まだ私にご飯を食べさせないつもり?」
「そうじゃなくて、食べる前には『いただきます』だろう?」
「‥‥‥いただきます」
「よくできました。それじゃあ俺も、いただきます」
軽く水でほぐした麺をスープにつけて、勢いよくすする。
最初は俺が好きな豚骨味のスープ。それを堪能させてもらった。
「あ~~~やっぱりここのつけ麺はいつ食べても美味い!」
この濃厚な豚骨スープが太麺に絡んでものすごく美味い。
最近忙しくて食べに行けなかったけど、相変わらずここの味は変わらないな。
「どうだ、依子? 俺が買ってきたつけ麺は?」
「‥‥‥美味しい」
「それはよかった。遠慮しないで食べていいからな。おかわりはないけど」
「ないの!? こんなに美味しいのに!?」
「今日は2人分しか買ってきてないからそれで全部だ。また今度買ってくるから、今日はそれで我慢してくれ」
まさか俺が買ってきたつけ麺を依子がこんなに気に入ってくれるとは思わなかった。
彼女は残念そうな表情をしながら、一心不乱に麺をすすり続けている。
先程まであれだけ流暢に話していた依子が無言で麺をすすっている所を見ると、この店のつけ麺がよっぽど気に入ったに違いない。
「啓太」
「何だ?」
「またこの家に来る時は絶対にこのつけ麺を買ってきてね」
「わかった」
それにしても相馬さんに指定されたスイーツより俺が買ってきたつけ麺を気に入ってくれるとは思わなかった。
あの時自分の直感を信じて、つけ麺を買っておいてよかった。もしあれを買わなければ、今日も俺と相馬さんと社長の3人で優雅なお茶会を開いていたに違いない。
「(こんなことなら、最初からあの店のつけ麺を買ってくればよかった)」
そうすればこんなに時間を浪費することもなかったのに。もったいないことをした。
それにしても依子はいい食べっぷりをしている。こんな美味しそうに食べてくれるなら、またあの店のつけ麺を差し入れに買っていこうと思った。
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ここまでご覧いただきありがとうございます
続きは明日の7時に投稿します。
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