第11話 汚部屋掃除
「さっきからどうしたの? そんな鳩が豆鉄砲を食ったよう顔をして?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
「あっ!? もしかして私の部屋が綺麗すぎてびっくりしちゃった?」
「その逆だよ」
「えっ!?」
「玄関に靴が乱雑に脱ぎ捨てられているのは気になるけど、この際それは置いておくとして‥‥‥‥‥」
「そこはいいんだ」
「だけど廊下の壁にダンボール箱が大量に立てかけられていて、このままじゃ部屋の中に入れないじゃないか!?」
「失礼ね。こんな状態でも余裕でリビングまで行けるわよ」
「このダンボールの山の中をどうやって進むんだよ!?」
「こうやって腕を横に広げてダンボール箱を壁に押し込みながら歩けば、ギリギリ通れるわ」
「本当にそんなことが可能なのか?」
「可能よ。見てもらえばわかると思うから、私の後についてきて」
壁に立てかけられているダンボール箱の山を両手を広げて壁に押し付けながら、依子はずんずんと先へ進んでいく。
その光景に俺は開いた口が塞がらない。だってダンボール箱なんて捨てればいいものなのに、何でこんなにたくさん放置しているんだろう。
「どうしたの? そんなところでボケっとして?」
「なっ、何でもない。それよりも早く部屋に案内してほしい」
「わかった。こっちがリビングになってるから。私についてきて」
こんな所で驚いている場合ではない。今はとにかく先へ進もう。
ダンボール箱の山をかき分け、依子と共に廊下を進む。玄関を抜けても廊下はダンボール箱で埋め尽くされており、ダンボール地獄は続いていく。
「(廊下に大量のダンボール箱があるせいで、玄関に行くのも一苦労だ)」
この状態では外へ出る事もままならない。いつも依子は外出をする時どうしているのだろう。この状態では外に出られないだろう。
「(もしかして依子が外に出ないのは、このダンボール箱のせいなんじゃないか?)」
この惨状を見るとそう思ってしまう。それほど依子の家は汚かった。
「(違う。きっとこれが普通なんだ。もしかすると俺が異常な程潔癖症なのかもしれない)」
きっとあのダンボールはごみの日に出し忘れただけだ。それで置く場所がないから、あそこに置いているに違いない。
「もしかすると俺は依子がダンボール箱のゴミ出しをする前に来てしまったんだ。だからこれは一時的に廊下に立てかけてるもので、今度のゴミの日に捨てるはずだ。そうに違いない」
「さっきから何を1人でぶつぶつ呟いてるのよ」
「わるい。俺の独り言はいつもの事だから気にしないでくれ」
「独り言ばかりつぶやいていると、周りから気持ち悪いと思われるよ」
「ごめん(一体誰のせいだと思ってるんだよ!!)」
あんな通路を塞ぐ程の大量のダンボール箱を見て、驚かない人はいないはずだ。
配信者が普段どういった生活をしているか知らないけど、こんなに家の中にダンボール箱をためている人を俺は1度も見たことがない。
「ここがリビングよ。さぁ、中に入って」
「やっとあのダンボール地獄から解放され‥‥‥」
「キッチンはこの部屋の左に曲がった所にあるわ。電子レンジも冷蔵庫の隣に備え付けられてるものがあるから、使いたかったら好きに使って」
「‥‥‥‥」
「早速つけ麺を食べる準備をしましょう。今日は何も食べてなくてお腹がものすごく減ってるから、啓太が買ってきてくれたつけ麺を早く食べたい!」
「‥‥‥‥」
「どうしたの? さっきから黙ってるけど? お腹が痛いなら、薬を持ってこようか?」
「お腹は痛くないから大丈夫」
「それなら何で黙りこくってるのよ?」
「そりゃあこの光景を見れば、誰だって黙りたくもなるさ」
「何で? どこからどう見ても普通の家じゃない」
「どこが普通の家だよ!! こんな紙袋やペットボトルが床に散乱していて、よく言えたな!!」
「なっ!? 少し部屋が汚いだけで、そんなに怒ることないでしょ!!」
「少しどころじゃないだろう!! 床には紙袋やペットボトルが散乱していて、足の踏み場がないわ!!」
慎重に歩かないと転んでしまいそうなぐらい、床には紙袋やペットボトルが散乱している。
どれぐらい酷いかというと、俺の足首までゴミで埋まっているといえばこの家の惨状がわかってもらえるはずだ。
「ちょっと散らかってるだけでしょ。これぐらい普通じゃない」
「普通じゃないだろう!! こんな足の踏み場のない家にいて、今までどうやって生活してたんだよ?」
「普通に生活してたわよ。床に転がるペットボトルだって、こうやって踏まないように慎重に歩けば問題ないわ」
「ペットボトルを踏まないようにとか慎重に歩くとか言っている時点でおかしいんだよ!! 普通の家ならそんな心配なんてする必要がないはずだ!!」
きっとこういう家がゴミ屋敷と呼ばれるのだろう。
依子はこんないいマンションに住んでいるのにもったいない事をしている。
「それにキッチンにはカップ麺やコンビニ弁当の容器が置きっぱなしだし。依子はゴミを捨てに行く気はないの?」
「ないわよ。だってゴミの分別って面倒くさいじゃん」
「面倒くさいっていうけど、ゴミを捨てないと永遠に溜まっていくだろう。よくこの状態のまま放置しておいて、虫がわかないな」
「自分が食べた物はちゃんと水洗いしているから大丈夫。これでも私は虫が大嫌いだから、その対策はしっかりしてあるわ」
「何でそんな変な所だけ几帳面なんだよ」
その几帳面な部分をもっと別の所で使っていれば、こんな惨状になってなかったのに。依子はつくづく残念な人だ。
「よし、決めた」
「何を決めたのよ?」
「つけ麺を食べる前に、まずはこの部屋を片付ける」
「えぇ~~~!! ご飯を食べるんじゃないの!?」
「この状態で食べられるわけがないだろう!! 座る場所だってないんだぞ!!」
「座る場所なら、リビングにある椅子を使えば‥‥‥」
「4つの椅子の内、3つの椅子の上にゴミがのっているのにどうやって座るんだよ?」
「これはゴミじゃなくて、私がこの前AMAZONEで買った漫画よ!!」
「それならちゃんと本棚に入れておけよ!! そんな所に置きっぱなしにしておいたら、ゴミと変わらないだろう!!」
駄目だ、俺が何を言っても依子は聞く耳を持たない。このままでは話が平行線のまま問題が解決しない。
こうなったら俺がやることは1つ。強行突破しかない。
俺は元から依子に嫌われていたんだ。その状況が変わることはないので、勝手に部屋の掃除をしてしまってもいいだろう
「依子、ゴミ袋はどこにある?」
「ゴミ袋?」
「ごめん、聞いた俺が悪かったよ。近くのコンビニで掃除用具を買ってくるから、ちょっと待っててくれ」
たぶん依子の脳内に片付けという概念はないのだろう。
こうなったら俺がこの部屋を片付けるしかない。このままじゃこの家が可哀想だ。
「待って啓太!! どこに行くのよ!?」
「部屋の掃除に必要な道具を買いに行ってくるから、少しだけ待っててくれ」
「ちょっ、ちょっと!? お昼ご飯は!?」
「そんなのは後だ後。先に部屋の片づけするから、そこで待っててくれ」
俺は依子の部屋を飛び出し、掃除用具を買いに行く。
家を飛び出した俺はそのまま近くのコンビニに入り、揃えられる限りの掃除用具一式を買い揃えて依子の家に戻った。
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ここまでご覧いただきありがとうございます
続きは明日の7時に投稿します。
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