44 お守り
ズボンについた埃を払いながらリシュリューは立ちあがった。
「ハナがいなかったら俺はあのまま死んでいただろう。そしてあの時に治療されたのがきっかけで、身体中の竜気の流れが活性化して竜人化が出来るようになったんだ」
「竜人化ってさっきみたいに竜から人の姿になるってこと?」
「そう、この姿の方が竜気を細かく練りやすいんだ。例えば的に向かって火の玉を当てようとすると、竜人化した状態なら針の穴に糸を通すようなコントロールが出来るようになる。竜体だとどうしても大きな力になって制御するのが難しいからその的ごと燃やしてしまうんだ。魔法唱えるより炎のブレス吐いた方が楽だしね」
「私が偶然見つけて治療したってだけで、全部リッシュ自身の力だよ」
リシュリューは頭を振って否定すると、
「ハナは俺の命の恩人で、生きる力を与えてくれた人なんだ。こうしてまた会えて本当に嬉しいよ」
輝くような美しい笑顔を見せるリシュリュー。
「私も会えてよかったと思ってる!」
リシュリューが人差し指を空中でクルクル回し始め、空中に炎の円が浮かび上がる。炎をぐっと掴むと炎が光って銀色のブレスレットへと変化した。
リシュリューは私の右手をとり、そのブレスレットを手首に付けてくれた。
「これは?」
「ハナに何かあった時のためのお守り」
シルバーのチェーンに、丸いタンザナイトの石が一つ付いているシンプルで可愛いブレスレットだ。
「貰っていいの? すっごく可愛い、ありがとう」
「俺がいつでも守ってあげれたらいいんだけどそうもいかないからね。寝る時も外さないように」
「寝る時も? わ、わかった」
それから私達は城塞の階段を下りて、街を見て回った。海が近いのもあって貝殻や珊瑚を加工したアクセサリーの店や、新鮮な魚が生きたまま売られている魚屋、南国ならではの色鮮やかなフルーツを並べた店では、黄色い星形の果実を目の前で切ってくれて試食させてもらった。それはぷるんとしたゼリーのような食感でマンゴーのような味だった。
「俺が昼に良く行く店がすぐそこにあるんだ」
リシュリューに案内されたお店に入ると、頭に動物の耳のついた色々な種族の客のグループが仲良くテーブルを囲んで食事していた。
魔塔に来るまでは何となく暗いイメージを持っていたけど、実際に来てみたらこんがりと肌の焼けた人が多く明るい印象を受けた。
そしてこの店にはメニューが一つしかないのかと錯覚しそうになるほど、皆同じ料理を食べている。
「みんな同じもの頼んでるみたいだね」
「そう、この店に来て頼むのはみんな同じなんだ。……すみません! ランチ二つお願いします。大きさはラージとミディアムで」
「はいよー!」
人手が少ないのか厨房の方から元気な返事が返って来た。それにしてもラージとかミディアムってなんの大きさってなんだろ。
「お待たせしましたー! フィッシュアンドチップスになります」
料理がストックされていたのか店員はすぐに料理を運んでやって来た。
一枚の大皿に並ぶ棒状のフライドポテトと皿の大半を占める大きな白身魚のフライ。リシュリューのフライはお皿をはみ出ている。さっき言ってたサイズって魚の大きさだったんだ。酢とトマの実ケチャップソースがそれぞれ器に入っていてる。
「それじゃあいただこうか、酢はフィッシュ用、ケチャップはポテト用だよ」
魚のフライは衣がサクサク、白身が肉厚でしっとり、酢につけなくても塩味がちょうど良くてそのままでも美味しい! そして久々のフライドポテトに大興奮! ケチャップでいただきまーす! んー! ジャンクフード最高!
「フライドポテト最高〜!」
「俺あんまりオシャレな店とか好きじゃないからこういう店によく来るんだけど、ハナの口に合ったみたいで良かったよ。実は反応見るまでドキドキしてたんだ」
「私だってそうだよ! こういうワイワイしたお店の方が気を使わなくて好き。それにしても、ステラではエルフしか見かけなかったけど、こっちにはいろんな人達がいるんだね」
ケモ耳や尻尾がついている客の姿が珍しくて、どうしてもケモ耳に目が行ってしまう。猫耳モフモフ、ウサ耳モフモフ。
「魔力を持ったものなら魔塔ほどのんびりと暮らしやすい国は他に無いと思うよ。国のためにある程度の奉仕活動をすれば税金が軽くなるんだ。魔水晶作りの作業とかね」
「魔水晶って手作業だったんだ」
「そうそう」
ボーン ボーン ボーン……、と昼の十二時を知らせる鐘の音が鳴り響いた。
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