43 城塞都市ラトゥール
私達が着いたのは街道から少し離れた人気のない草原だった。
「戻れ」
リシュリューがスレイプニルに向かって指輪を向けると、目の前の馬車が光となって指輪の石の中に吸い込まれて消えていった。
「まるでマジックバッグみたいに吸い込まれていったね」
「目の付け所がいいね! マジックバッグはまさにこの【空間圧縮】と【空間拡張】を模倣して『竜言語魔法』で再現したものなんだ。さぁここからは街まで歩いて行くよ、こっちだ」
リシュリューの後をついて少し歩くと、石畳で舗装されている街道に出た。街道はそのまま川に架かる橋へと繋がり、橋のさらに向こうには高さ二十メートルはありそうな大きな石造りの壁が街全体を囲むように広がっているのが見えた。
城塞の入り口にある大きな門の前で、二人の門番が通行人をチェックをしている。
関所で軽くボディチェックを受け、リシュリューが通行税を払ってようやく街の中に入ることができた。
魔塔の一番偉い人でも通行税って払わされるの? とリシュリューに尋ねると、今は通りすがりの美少年だからねと冗談で返された。
……実際にここにいるからたちが悪い。
「ここは首都ラトゥール、他国からの侵攻を防ぐために城塞に囲まれているんだ。城塞都市とも言われているよ」
街全体を囲む城塞の角はD形の塔が見られた。
「ねぇあの壁についている塔は何?」
「あれは防衛塔だね」
「一本だけすごく大きい防御塔があるね」
一番目立つ円状の城塞の塔には魔塔のシンボルマークが縫われた大きな旗が掲げられている。
「ああ、あれは見張りのための塔だよ」
「私達が乗ってきた馬車もあそこから見られてたのかな?」
「そこは【認識阻害】かけといたから大丈夫。指輪から出し入れする時は見られちゃうけどね」
「じゃあ私を迎えに来てくれた時、わざと見えるようにしてたって事?」
「……本当なら黒い車ってやつで来たかったけどね。これからこの階段を登っていくよ、高いところは平気?」
「平気! あと、黒い車はもういいからっ!」
リシュリューは城塞に登るための階段をゆっくりと上がっていった。長い階段を上りきると、目に飛び込んできた意外な景色に驚いた。
「わぁーっ、海だぁーっ!」
透き通るようなエメラルドグリーンの美しい海がどこまでも広がっていた。城塞を見下ろすと、船着場では船が何艘も浮かんでいるのが見える。ここは海沿いの街だったんだ。
くるっと反対方向を見ると、城塞に囲まれた都市が一望できた。白い石造りの建物に鮮やかなオレンジ色の瓦屋根の建物がずらりと並んでいる。
「昔、他国から侵略を受けてこの街全体が火に包まれたことがあって、今の石造の街に建て直したらしいんだ」
「ただ綺麗なだけじゃなかったんだね」
「そうだね。ハナ、向こう側にも街に降りる階段があるからそこまで城塞を歩いて行かないかい」
「うん、行こう行こう!、街の中で一番大きなあの建物はなんだろう」
まるで宮殿のような造りの建物が気になって尋ねてみた。
「あそこは魔法庁、俺の職場だよ」
「へぇーっ、魔塔主っていうくらいだからバベルの中にずっといる人なんだと思ってた」
「アハッ、それよく言われる」
リシュリューの足がピタッと止まった。
「俺達が馬車で降りたあの草原の向こうに廃村があるの見える?」
草原の遥か先を指差してリシュリューは言った。ぼんやりだけど、同じようなオレンジの瓦屋根が蜃気楼のように浮かんでいるのが見える。
「ぼんやりとだけど、見える……よっ⁉︎」
リシュリューの体の周りがうっすらと輝いていき、その光はどんどんと強烈になっていく。最後には光だけになったかと思うと、私の目の前にサッカーボールくらいの大きさの黒いドラゴンが私の前で羽ばたいている。そのドラゴンはリシュリューの声で話を始めた。
「この暖かい大陸が猛吹雪に襲われて何千人も亡くなった年があった。特に被害が大きかったのがあそこに見える村だったんだ。仲間達と吹雪の中飛んでいた俺は一人だけはぐれてちょうどあの村に落ちてしまった。落下の衝撃でろくに動けず、冷たい雪の中で死が近づくのを待つ中、ハナが俺を見つけて救ってくれたんだ!」
ドラゴンが私に向かって飛んで来ると腕の中へとすっぽりと収まった。そしてさらにどすっと腕の中の重量が増えた。
『ドラも抱っこしてもらうドラ』
ドラだった。ドラゴンと妖精を抱き抱えていたら、目立つんじゃないだろうか。幸い周りには人がいないけど。遠くに城塞を散策している人影がチラホラ見える。
「悪いけどリッシュもドラも戻って!」
両手を広げて二人(?)を落とす。飛べるんだから地面には落ちないでしょ。
ドッシーン! 落ちるんかーい!
「イテッ」『イタタドラ』
「ごっ、ごめん。飛べるかと思って……」
腰をさすりながら少年姿に戻るリシュリューと発光体のドラ。
「ハナの腕の中で油断しちゃったよ」『油断ドラ』
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