41 高級外車のお迎えが来た
「希少種が発見された周辺の空気や土などの魔素含有量を徹底的に調査した結果、共通して異常な数値を出していたのが池の水だったんッス。それでハナっちに浄化の協力をお願いしたところだったッス」
おーいっ! レオの口調いつも通りに戻ってるよーっ!さっき聞いた敬語は幻聴だったのかもしれない。
「……なるほど、魔素検知管の注文が最近多かったのは、希少種の発生原因を特定する為だったんだね」
リシュリューがサイドテーブルのコーヒーサーバーを手に取り、私達の空になったカップへ再びコーヒーを注ぐ。
「ありがとう」
「いただくッス!」
リシュリューはネモフィラが使っていたカップとソーサーをサイドテーブルに下げて、自分が用意したカップにコーヒーを注いだ。
コーヒーサーバーからコーヒーをトポトポと注ぐ姿は様になっていて動作のひとつひとつが洗練されていた。流れるようにカップを口へと運ぶリシュリューの横顔を見てふとある人のブラックコーヒーを飲む姿が重なって見えた。
「ハナ、どうかした?」
「なっ何でもない!」
ドキドキ……どうして今思い出したんだろ。
「その浄化にはいつ出発する予定なんだい?」
「準備段階ではありますがハナっちさえ良ければ三日後には出れるように準備中ッス」
「三日後か〜、よしっ頑張る!」
「早速だけど俺のポケットマネーからポーション百本を寄付するとしよう」
「ポーションを百本も⁉︎ 有り難く頂戴するッス!」
レオはガバッと立ち上がると頭を深々と下げ、ソファに腰を下ろした。リシュリューはコーヒーを飲み干してカップをソーサーに置くと「ポーションの手配をネモフィラに任せてくる」と言って一階に降りて行った。
「いや〜、金貨一枚分のポーションを気前よくポケットマネーから出せるなんてさすが魔塔主様ッスね」
「ポーションってそんなにするんだ?」
「うちの国は薬草の管理に厳しいッスからね、ポーション一本で一ヶ月生活できちゃうッス」
「ポーションは高級品なんだね」
「治療活動は教会の収入源ッスからね、こっそり薬草育ててたら俺ら騎士団に身柄を拘束されるッスよ」
「騎士団の仕事って色々あって大変なんだね」
「そうなんスよ〜!」
カランコロンと下駄の音を鳴らしながらリシュリューが階段を上って応接室へと戻ってきた。
「ただいま。明日なんだけどさ、ハナの時間を俺にくれない? もちろん護衛無しでね。俺より強い護衛がいるなら別だけど」
リシュリューは応接室の入り口に立ったままだ。
「なっ⁉︎」
表情を強張らせるレオ。明日は特に予定もないし、ボケーっと神殿にいるより魔道具を見たり聞いたりした方が得るものありそう。
「明日? うん、別にいいよ」
「ハナっちそんな簡単に決めていいんスか?」
「うん、リシュリューは信用出来る人だからいいんスよ!」
「それでは明日の朝、神殿に迎えの馬車を手配しておくよ。ハナ……今日は逢えて嬉しかったよ、明日は二人きりで逢おうね♪」
リシュリューはウインクして見せると、こちらに背を向け部屋から一瞬で姿を消した。
「……嵐みたいな人だったね、帰ろっか」
「そう……ッスね」
一階に降りるとレジカウンターの上で丸まっている黒猫タマとその隣に浮かんでいる緑色の発光体がいた。タマはスクッと立ち上がりピョンと床に下り、ドラは私の肩の上へ飛んで来た。
『ドラ』
「お帰りですか?」
鈴を転がすようなタマの声。
「うん、コーヒーご馳走様でした」
「ご来店ありがとうございました」
黒猫に見送られてお店を後にした私達は馬車に乗って神殿へ戻った。
♦︎
「ふぁぁ……」
ちょっと大きめのあくびが出た。
『寝不足ドラ?』
「んー眠るまでちょっと時間かかったけど、ぐっすり寝たから大丈夫!」
今日は白いブラウスに黒のジャンパースカートでシンプルコーデ。襟元にはスカートと同じ素材の黒いリボン。髪の毛の左側の三つ編みを留めるリボンも同素材だ。
リシュリューにもらった狐色の半月型のポーチを取り出す。ベルトポーチとショルダーバッグになる2way仕様だったので、付属のショルダーストラップをつけて斜め掛けにして持っていく事にした。
この中に二百億が入っていると思うと、泥棒が来るんじゃないかと想像しちゃってなかなか寝付けなかったよ。
バタン!
部屋のドアがいきなり開いて朝食を下げに出て行ったはずのミィが飛び込んできた。
「ハナ様ぁぁ!」
びっくりしたー。珍しくノックをせず部屋に入ったミィ。両手には花束を抱えている。
「どうしたの? そんなに慌てて」
「守衛からの報告で、ははは八本足の白馬の馬車がハナ様を迎えにいらしてます。そしてこの花束をハナ様にだそうです」
ハッ! もしかしてその八本足の白馬って、北欧神話モチーフの乙女ゲー『ヴァルハラの恋人』に出てきた主神オーディンの乗っていた馬のスレイプニル?
ゲームだと地上と天界を行き来する手段がそのスレイプニルだったんだよね。
神様を乗せる馬と同じ八本足の馬なんだから、その馬車が来たって事は、高級外車がお迎えが来たような感じ?
そしてミィが抱えている花束はリシュリューを連想させる紫色の薔薇だ。
「迎えの馬車が来るって話してたでしょ。思ってたより早いけどもう来ちゃったみたいだね。その薔薇は私の部屋に活けといて貰えるかな? それじゃあ行ってくるね!」
「はっ、はい! お気をつけて行ってらっしゃいませ!」
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